ほぼ日刊イトイ新聞
VOW のこと。2代目総本部長・古矢徹さんと、編集担当・藪下秀樹さんに訊く。

こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
たまたまだと思うんですが、
先日、20代の若者たちと語らった際、
思った以上の若者が、
お笑い投稿コンテンツの元祖である
『VOW』を知らない様子で。
えっ、そうなの? えっ、なんで? 
えーっ、もったいない! ということで、
差し出がましいとは知りつつも、
『VOW』を紹介したいと思いました。
語り部としてご登場いただくのは、
尊敬するふたりの編集者。
『VOW』2代目総本部長・古矢徹さんと、
宝島社『VOW』担当編集・藪下秀樹さん。
文中、とくに脈略もなく、
『VOW』ネタが挟まることがあります。
あらかじめ、ご了承ください。

怒る気がフニャフニャする。

──
2代目総本部長は、500回‥‥いや
1000回に1回くらい、
真面目なコメントをおつけになりますね。
古矢
それは、アレですね。
おもしろいことを書けないときですね。
藪下
堂々と言わないでくださいよ。
──
でも、たくさん来ますものね‥‥投稿。
どくれい来ますか、月で言うと。
藪下
500以上は来ますね。
──
え、そんなにですか。

じゃあ、来たものに対する掲載数って、
かなり少ないってことですか。
古矢
ただ、こんなこと言ったらアレだけど、
どこがおもしろいんだってのも、
ま‥‥けっこう混じってくるからねえ。
──
玉石混交。そうでしょうね、それは。

宝島社『ベストオブVOW』p167より

古矢
でも、おもしろさがわかんないときは、
自分の感性が古ボケてんのかと、
ちょっと考えちゃうことがありますね。

だって、わざわざカメラ出して撮って、
プリントして、コメントつけて、
切手なめて貼って郵送してくるわけで。
──
そうまでするからには、
実は、おもしろいのかもしれない、と。
古矢
こっちがクスリともできない投稿に
「ギャー大爆笑!」とか
書かれてたらさ、ちょっと考えるよ。

俺だって藪下さんだっていい歳だし、
若者の文化とかも、わかってないし。
──
そこまで自信満々にこられたら、
総本部長の軸もブレそうであると(笑)。
古矢
だから年々、
うかつに捨てられなくなってきてる。
──
ああ、ボツネタを。なるほど。
古矢
でも、だからといって、
「俺には、どこがおもしろいのか、
わからないんだけど」
っつって載せらんないからなあ。
藪下
本物のボケ老人ですよ、それじゃ。
──
ともあれ、2代目総本部長は、
そのようなお仕事を、
四半世紀も続けてらっしゃいますが‥‥。
古矢
ええ、そうですね。わるかったな!
──
時代によって、投稿ネタの変遷だとか、
移ろいのようなものを感じますか?
古矢
そうですね、まじめなこと言うとね、
「その時代時代で、
いちばん元気のあるメディアが
間違いを犯す」ということは、
言えるんじゃないかと思ってますね。
──
おお、いかにも総本部長っぽい。
詳しく聞かせてください。
古矢
勢いのあるものが、勢い余って犯す。
それが『VOW』ネタ。

今ならインターネットだと思うけど、
雑誌がよかった時期は、雑誌がね。
藪下
たしかに。
古矢
プロレスが盛り上がってたころは、
『週刊ゴング』とか間違いだらけだった。

それってつまりプロレスに勢いがあって、
人の出入りがたくさんあって、
雑誌にも勢いがあって、
だからこそ雑誌の内容もおもしろくて、
おまけに、
勢い余って犯す間違いもおもしろかった、
ということでね。
──
なるほど。
古矢
いまも覚えてるのだと、
「手に串握る凄いカード」とかあってさ、
「汗」じゃなくて「串」かよと。

そんな豪快な間違い、ありえないでしょ。
──
斜陽産業には生まれなそうな誤植です。

宝島社『ベストオブVOW』p14より

古矢
ただ、
「手に串」が間違いとも断言できないけどね。
実際ブッチャーは「手にフォーク」なわけだし。
──
どういう状況ですか(笑)。
古矢
オグリキャップとか武豊が大人気だった
90年代には、
競馬雑誌もナイスな誤植やらかしてたよ。
──
たとえば?
古矢
競馬用語で
馬場の状態が悪いことを意味する
「道悪(みちわる)」
ってあるけど、
「道悪なんて、気にしない。」
となるはずの見出しが
「道徳なんか、気にしない。」
になってたやつとか。
藪下
公営とはいえ、ギャンブルですからね。
その見出しはマズいでしょう。
──
逆に深読みしたくなりますね(笑)。
古矢
元気のいいときほど、
勢い余って、派手に転ぶっていうね。

で、今は雑誌まわりも元気がないって
言われて久しいし、
昔より、いろいろ洗練されてるから、
豪快な間違いも生まれにくい気がする。
──
インターネットの場合は、
間違ってもサッと直せちゃいますしね。
古矢
そう、雑誌の間違いは絶対に直せない。
だからこそ、余計にありがたい。

それに、編集やライターだけじゃなく、
校正・校閲の人だとか、
たくさんの人のチェックの目を
クリアというか、スルーしたうえでの
「手に串握る」でしょ?
──
まさに「ありがたみ」の一語です。

宝島社『ベストオブVOW』p35より

藪下
雑誌の担当者は、はやく時間が過ぎて、
次の号が発売されないかと、
本屋に並んでる間中、
もう胃をキリキリさせてるわけですが。
古矢
で、1週間過ぎて、1か月過ぎて、
やっとほとぼりが冷めたなと思ったら、
『VOW』に載る(笑)。
──
そして、そのまま、
国立国会図書館に収蔵される‥‥。
古矢
編集者には『VOW』に載った時点で、
救われてほしいよ。

成仏と言うか、そんな意味で(笑)。
藪下
載せられたほうからしたら、
大きなお世話だって話ですけどね。
──
そういえば、クレームみたいのは、
来たことあるんですか?
藪下
ほとんどないけど‥‥。
古矢
『宝島』のすごいところは、
もう、ちょっとでもクレームが来たら、
すぐに謝って、
すぐに削除しちゃうところ(笑)。
藪下
僕は、自慢じゃないけど、
訴えられたことないです、1回も。

何かあったらすぐ飛んで行くから。
菓子折り持って。すぐに。
──
謝罪のフットワークが軽い(笑)。

でも、「おもしろいからゆるされる」
という面は絶対あると思います。
藪下
それは、そうかもしれないですね。

実際、クレームってほとんどなくて、
新聞でも雑誌でも、みんな、
なぜだか、ゆるしてくれるんですよ。
古矢
というか、怒る気も失せてくんだよ。

フニャフニャするんです、怒る気が。
くだらなすぎて、きっと。

宝島社『ベストオブVOW』p58より

 ~知ってる人も、知らない人も~ すぐに笑えて、ずっと笑える。それが『VOW』。

ゲエテ『若きウェルテルの悩み』の扉には
「親しい友を見つけられずにいるのなら
この小さな書物を心の友とするがよい」
と書かれていますよね。
もしもあなたが、運命のめぐり合わせで、
親しい友を見つけられずにいるのなら、
このおかしな書物を心の友とするがよい。
人生のくもり空が、日々のモヤモヤが、
すこーし、晴れるかもしれません。
知ってる人も、知らない人も、
すぐに笑えて、ずっと笑える。
これもまた、われら人類のりっぱな営み。
最新刊ですが、やっておられることは
ひとつも変わっていません(←とてもいい意味)。



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SPECIAL THANKS
歴代『VOW』カバーデザイナーの皆様(敬称略)

MIKE SMITH
マーチン荻沢(HIT STUDIO)
角谷直美(HIT STUDIO)
金井久幸(TWO THREE)
赤石澤宏隆
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