ほぼ日刊イトイ新聞
VOW のこと。2代目総本部長・古矢徹さんと、編集担当・藪下秀樹さんに訊く。

こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
たまたまだと思うんですが、
先日、20代の若者たちと語らった際、
思った以上の若者が、
お笑い投稿コンテンツの元祖である
『VOW』を知らない様子で。
えっ、そうなの? えっ、なんで? 
えーっ、もったいない! ということで、
差し出がましいとは知りつつも、
『VOW』を紹介したいと思いました。
語り部としてご登場いただくのは、
尊敬するふたりの編集者。
『VOW』2代目総本部長・古矢徹さんと、
宝島社『VOW』担当編集・藪下秀樹さん。
文中、とくに脈略もなく、
『VOW』ネタが挟まることがあります。
あらかじめ、ご了承ください。

間違えてくれてありがとう。

古矢
そもそも『VOW』の基本姿勢って、
投稿人も俺たちの側も、
基本的には「ツッコミ」っていうかさ、
「間違ってるよこいつ」
みたいな、
ちょっといじわるな感じのイメージで、
捉えられてると思うんだけど。
──
ええ。
古矢
もともと、読者がボケてくれたネタに
いっしょになってボケる、
悪ふざけみたいなものだと思うんだよ。

だから「間違ってる」とツッコんでる
っていうより、
なんか、ありがたいなあ‥‥みたいな。
──
そういう心境でしたか。
古矢
「間違えてくれてありがとう!」
みたいな、感謝の気持ち。
──
じゃあ、この作品なんかも。

宝島社『ベストオブVOW』p62より

古矢
すごいよ。
本当に、ありがたい誤植だよね。

案外誤植じゃなかったりしてね。
──
その可能性については、
考えたこともありませんでした(笑)。
藪下
たしかに、言われてみれば、
僕ら、前後のコマを知らないわけだし。
古矢
俺たちは「誤植だ誤植だ」という固定観念で
ついつい見ちゃうけど、
辻褄の合ってるセリフかもしれないよ。
──
じゃ、この長髪の御仁も、
決して「おちこんでる」わけじゃなく。
古矢
「なんで笑われなきゃいけないんだ!」
──
だとしたら、もう謝るしかないですね。

ちなみにですが、『VOW』には、
名シリーズというのが、ありますよね。
藪下
シャウトねえちゃんシリーズとか。

宝島社『ベストオブVOW』p86より

──
何かを叫んでいる女性モデルの写真が、
さまざまな広告に使われていて、
それが全国から
陸続と郵送されてくるんですよね。

「ここにもいました!」とか言って。
藪下
「叫ぶ女性」って需要があるのかな。
古矢
一連の「とまれ」の間違いとかもね。

宝島社『ベストオブVOW』p132より

藪下
あれも、全国津々浦々から来ますね。
──
なんで間違っちゃうのか‥‥。
藪下
いっぱいやんなきゃいけないから、
ハイ次ハイ次って感じで、
間違えちゃうんじゃないですかね。
──
でも、終わったあとに見ますよね?
藪下
次に行かなきゃいけないから、
わかるだろって感じなんじゃないかな。
──
「あー、間違っちゃった。
でも俺たちには次の現場がある」と?
古矢
みんなで軽トラか何かに乗って、
1日に何箇所も回んなきゃなんないし。
藪下
そういうことですね。
古矢
ホントかよ。ちゃんとやれよ!(笑)
──
あとは「落書き」というジャンルも、
ひとつ、確立していますよね。
古矢
俺が好きなのは、「まさる死ろす」。
「殺す」じゃなくて「死ろす」。
──
ああ、覚えてます。

書いた人の
「まさる」にたいする地獄の憤怒が、
あふれ出てしまってるやつ。

宝島社『ベストオブVOW』p24より

藪下
短冊とか絵馬も、いい投稿あります。
古矢
でも最近は、絵馬に
シールかなんか貼られちゃうってね。
──
シール?
藪下
ほら、個人情報の時代ですから。
──
それは、つまり「保護シール」的な?
古矢
つまんなくないのかなあ。
絶対に人に見られない絵馬って。

そのうち、
七夕の短冊もそうなったりして。
──
何の風情もなくなりますね。
古矢
風情で思い出したんだけど、
携帯電話が普及しはじめたころの
新聞投稿で、いいのがあった。

携帯電話にたいして、
えんえん、
文句を書き連ねてるおばさんが‥‥。
──
あー。

宝島社『ベストオブVOW』p307より

古矢
最後の最後で
「近々、手に入れるかもしれません」
って「おい!」という(笑)。
──
最後の1行で全部ひっくり返すって、
ある意味、文学的ですらあります。
古矢
で、これはね、俺、
ほぼ日の取材だから言うわけじゃないけど、
糸井さんが1983年に出された
『牛がいて、人がいて。』って本が、
本当に好きなんですよ。
──
あ、そうなんですか。
古矢
あれ、なんて言ったらいいのかなあ、
ものすごい「ライブ感」じゃない。
──
うまく言えないのですが、
前の一行が、
次の一行を生んでいくみたいな感じ?
古矢
そう、文章がね、
はじめから決められている結論に
向かっていくんじゃなくて。

書いてるうちに、
どんどん思いが移ろっていったり、
どんどん意見が変わっていったり。
──
ええ。
古矢
結果、書いている本人も、
まったく思ってもいなかったところへ
たどりついちゃうみたいな。
──
はい。
古矢
エッセイでも何でも、
そういう文章にドキドキしちゃうし、
そういう原稿が、
読んでておもしろいじゃないですか。
──
はじめからわかっているところに
たどりついても、つまらないと。
古矢
そういう意味で言うと、この投稿も
最後の最後で
「近々、手に入れるかもしれません」
って、もう最高だよ。
藪下
読んでる人からすると、
ガクッと膝から落ちるわけですけど。
古矢
それも含めて、もう、最高だよ。

宝島社『ベストオブVOW』p47より

 ~知ってる人も、知らない人も~ すぐに笑えて、ずっと笑える。それが『VOW』。

ゲエテ『若きウェルテルの悩み』の扉には
「親しい友を見つけられずにいるのなら
この小さな書物を心の友とするがよい」
と書かれていますよね。
もしもあなたが、運命のめぐり合わせで、
親しい友を見つけられずにいるのなら、
このおかしな書物を心の友とするがよい。
人生のくもり空が、日々のモヤモヤが、
すこーし、晴れるかもしれません。
知ってる人も、知らない人も、
すぐに笑えて、ずっと笑える。
これもまた、われら人類のりっぱな営み。
最新刊ですが、やっておられることは
ひとつも変わっていません(←とてもいい意味)。



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SPECIAL THANKS
歴代『VOW』カバーデザイナーの皆様(敬称略)

MIKE SMITH
マーチン荻沢(HIT STUDIO)
角谷直美(HIT STUDIO)
金井久幸(TWO THREE)
赤石澤宏隆
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