010 ぼくと似ないでいてほしい。

スガノ では、ここで唐突ですが。
はりぐち スガノはほんとうに唐突ですからね。
スガノ ここまでのお話をふまえて、
祖父江さんに何か
訊きたいことがある方はいますか。
べっかむ3 ははは、唐突だ。
はりぐち では、お伺いしていいでしょうか。
たとえば、今回のミッフィーの
グッズアイデア出しのラフ書きは、
どのくらいの時間でなさるんですか?
祖父江 書くスピードぐらいです。
はりぐち 書くスピードぐらい!
祖父江 追いつかないんです。
書いてるときに、
次のが浮かんじゃうから。
はりぐち すっごいなぁ。
スガノ 考えて貯めていたものを出すというより、
書きながら出てくるという感じなんですか?
祖父江 うん。もともと
うさこちゃん、好きなので。
スガノ はい。
祖父江 いつも、この絵とこの絵が並ぶといいなとか、
なんでこういう色がないのかなとか、
うしろ向きに目、鼻、口をつけたら
正面向きみたいになっておかしいだろうなとか、
思いつづけてます。
だから、紙に向かったら
いくらでも出ちゃう、というふうです。
はりぐち そっかぁ。
祖父江 あとは実現できるかどうかだけ。
それをクライアントの方に聞きたくて、
ここまで書きました、って感じ。
スガノ うさこちゃん以外で、
例えばあんまり親しみのないものとか、
考えたことのない題材の依頼も
もちろん来ると思うんですが、
そういうときはどうなさるんですか?
祖父江

そういうときは
アイデアよりも前に、
理解することです。
「これは誰? 何?」というところから。

そこで、自分がどういうふうに感じたか、
いちばんわかりやすく
「いいな」と思ったところは何だろう?
ってとこからスタートします。

依頼してくれた人が、
それでいきましょうと言うか、
それは困ります、なのか。
そこからですよ。

やまかわ なるほど。
べっかむ3 じゃ、ぼくも質問していいですか。
祖父江さんは、ブルーナさんの
表現されたかったところを
すごく受け止めてらっしゃると
思うんですが、
メルシス社はそこをどんなふうに
チェックされるんでしょうか。
祖父江

うん‥‥ただ、この楽しみかたは、
ぼくなりのブルーナの見かたなので、
勘違いもあると思うんだなぁ‥‥。
いろんな人がブルーナさんの影響を受けてますし、
それぞれにうさこちゃん、
ミッフィーのことが好きなんです。
例えば前にテレビで見たんですけど、
佐藤可士和さんの場合は
ぎりぎりのシンプルさというところで
ブルーナさんの影響を受けているらしいですね。
ぼくの場合は、
同じことをやろうとすると
同じにならない! という揺れのほうに
おもしろさを感じます。

べっかむ3 好きなところが人によってちがう。
祖父江 ひとりの作家に対して、
感動するところが人それぞれにバラバラ。
それは、あたりまえだと思うんです。
なので、ぼくのうっとりのしかたは
ブルーナさんにとって
いいのかどうかは、よくわかんない。
ぼくの喜び方って、もしかすると
変なのかもしれない。
それを商品化して、
多くのミッフィーファンの人に
ステキだよねって言ってしまって
いいのかどうかは、ほんとはわかんないの。
だからチェックがないと、
恐くて進められないですよ。
チェックがあるからこそ、
のびのびできるんだよね。
オッケーかどうかは、待つばかり。
いつも仕事ってそんな感じ。
今回提出させてもらったプランのなかには、
もちろんNGもありました。
そうしてやりとりするうちに
相手のかたが何を大切にして
何に対して注意をしているのかが
わかってきて、それも楽しいんですよ。
スガノ うん、うん、うん。
やまかわ あ、私も質問、いいですか?
うさこちゃんのお仕事だけでも
ものすごい量があって、
ほかのお仕事とかも多分いっぱいあって、
祖父江さん、忙しいと思うんです。
祖父江 あい(笑)。
やまかわ そういうとき、
「いっぱいあるなぁ」
「どれからやっていいかわかんない」
って、悩むことはありませんか?
祖父江

あります。
だいたいいつも、いちばんやりたいことを
後回しにしたい気持ちです。
おいしいものは最後に食べたいから、
ついつい。

全員 (笑)
祖父江 ほどほどのものからはじめるので、
いちばんやりたいものに取りかかるときには
すでに残りの時間がない
っていうことが多いんです。
直さなきゃと思ってます。
スガノ いちばんやりたいものからやったほうが
ほんとはいいんですよねぇ。
でも、好きなだけに、時間かかっちゃうので。
祖父江 そうなんですよ〜。
いくら時間があっても足りないよね、
好きなものって。
ほかがなかなか片づかないまま、
置いてけぼりになっちゃう。
スガノ やまかわはいつも
締め切りを守るタイプですか?
やまかわ 守らないときもあります。
でも、守らないときは
事前に「守れません」って言います。
祖父江 正しい姿ですね。
ぼくも見習わせていただきます。
全員 (笑)
やまかわ いやいやいや。でも私は、
仕事がいっぱいになったときに
頭が真っ白になって呆然としちゃうんです。
祖父江 いっぱいあって呆然として、
どうしたらいいかわかんないときは
寝るのがいちばんです。
なんこ そうなんですか!
祖父江 うん。つい、ぼくは寝ちゃう。
全員 つい(笑)!
祖父江 「あれー?!」と思ったとたんに
なぜか気楽になるんですよ。
間に合いそうなときがいちばんハラハラして、
「もう間に合わなくなった」となれば、
もっっっのすごくのんきな気持ちになっちゃう。
全員 わはははは。
祖父江 スレスレで、間に合うかどうかわからない、
どっちかというとややだめかも、
というときになると、
なぜか、やる必要のない
さらに面倒なことやりはじめる癖があります。
スガノ お、思い出すことが‥‥。
祖父江 入稿時期を過ぎてるのに、
この「間に合わなさの風」の中で、
こうしたら、もっとおもしろいのに、って
思い立っちゃうの。
だめですね〜。
たとえば、この
うさこちゃんの絵本のシリーズ
フォントを変えたのも、そんな感じ。
スガノ ‥‥本全体のフォントを変えたのは
思い立ちだったんですか?
出版社からのオーダーは?
祖父江 ふふふ‥‥、オーダーは、ないですよ。
全員 オーダーなしの仕事?
スガノ じゃ、最初の依頼は?
祖父江 表紙だけ。
全員 表紙だけ?
祖父江 表紙を年齢ごとに分けてくださいって、
それだけの依頼だったんですよ。
そしたら、扉も変えないと
変じゃないですか、
「じゃあ扉も変えましょう」
そういえば色も、いまの原著にそろえましょうよ、
「そうしましょう」
ということになってきて。
よく見てみたら、
うさこちゃんの本の書体(文字のスタイル)は
出版された時代ごとにばらばらだったの。
スガノ 活字時代とか、写植時代とか、
いろいろ変遷がありますから。
祖父江

これから新しい本が出るとき
書体は、どうします?
という話になりまして、
「じゃあ、あらたに設計してもらい、
 徐々にそれに変えていきましょう」
いや、それは徐々っていうより、
このさい表紙や扉といっしょに
きちんと変えたほうがいいんじゃないですか?
「それもそうですね、それでいきましょう」
ということになりました。

スガノ そそそれで、フォントについては?
祖父江 フォントまで作ると言うと、
ぜったいに、
「そんな余裕と予算はありません」
と言われちゃいます。
やまかわ 世の中はそういうものです。
なんこ どこの場所でも、時間とお金が
いつもないというものです。
祖父江 だもんで、ナイショで勝手におおあわて。
全員 (笑)
やまかわ フォントって、設計するのに
すごく時間がかかると
本で読んだことがあるんですが。
祖父江

はい。勝手にがんばりました。
編集担当の人は
「じゃあ、会社に専用フォントを作るという
 プランも伝えておきます!」
と言ってくれたんだけど、
それを上司に伝えると、きっと、
「そんな予算はないから
 表紙だけお願いしてきなさい」
ってことになっちゃうじゃない?
せっかく、ぼくが大好きな
うさこちゃんの絵本を作り直すことに
なったのにもったいないでしょ?

なので、専用フォントを作ることは、
まだ黙っててくださいね、
とお願いしたんです。
じっさい、ぼくが上司だったら、
時間も予算もそんなには取れないし、
最低限のところで
何とかやってもらってと、
言うと思います。
だから、勝手にやってみますから
わざわざ伝えないほうがいいですよって
お願いしたんです。

はりぐち じゃあ、フォントの制作費は?
祖父江 フォント代を出してくれって言うつもりは
もともとないんです。
そんなおおごとじゃ、きっとOKは出ないでしょ?
それに、出してもらうと、
あとあとめんどくさいし。
べっかむ3 そうかぁ‥‥。
スガノ それが、今回の
新しい書体「ウサコズフォント」。
これによって、
本全体の文字組みも変わりましたし、
訳が変わったところもあります。
なんこ それを聞くとなお、
全部買いそろえたいなぁ。
祖父江 いっぺんに買うことないよ、
たくさんあるから。
5年くらいかけてそろえてください。
それにね、たぶんこれから新刊も
出るはずですし。
全員 へぇぇえ、たのしみぃ。
なんこ じゃあ、私も質問します。
赤塚不二夫展のときと
今回のミッフィーとでは、
何かちがうところはありますか?
祖父江 うさこちゃんはね、
会場デザインはやってないの。
そのかわり、広告関連のデザイン以外は
図録とグッズをやりました。
赤塚不二夫展は逆です。
広告デザインはもちろんやってるけど、
会場デザインをやってるだけで
図録もグッズもやってませんもの。

ほんとはいつも全部やりたいんだけど、
時間が限られてますから(笑)。
無理そうだな、と思ったら
依頼もしないですよね。
はりぐち 「無理そうだな」は
大事なところですね。
祖父江 そう。
でも、赤塚不二夫展のときは
おそ松くんグッズでこんなのがほしいなぁって
勝手に思いついてはいましたよ。
スガノ そうなんですか‥‥。
なんこ 本とグッズを作るのでは、
ちがいますか?
祖父江 ふだんやってないぶん、
グッズのほうがたのしいです。
本だと、ついつい要領がわかっちゃってるから。
スガノ でも、グッズって
いろんな素材のことを
わかってないとできない気がします。
祖父江

ぼくね、わかってないのよ。
グッズの担当の方と
相談しながら決めてます。
従来のグッズや素材を見せてもらって、
時間内でできそうなものはどれだろう、って
話し合いながら、進めました。

だから別に、経験は要らないんだよ。
バカボンの会場デザインも
はじめてだったもん。
それまでって、自分の展覧会のときだけは
ちょっと考えたりもしたけど、
ああいうのは、やったことなかったもんね。

経験って、なくてもいいと思う。
くわしい人がそばにいてくれればバッチリです。
本も同じだよ。
「こういうものだ」という
ノウハウでやると、
「思ったとおりにできたね」
というものができちゃいます。
それより
「こんなことが起こったのだ!」
というほうが、うれしいよね。
驚いて、うれしんでます。

はりぐち ぼくらも、祖父江さんのお仕事を拝見して
うれしんでます。
なんこ うれしいうれしい。
スガノ じゃ、最後に、
わたしも質問します。
祖父江さんは、
このコズフィッシュという会社のなかで
工夫してやっていることはありますか?
祖父江 うん、あのね、
みなさんもいろいろ行ったことあると思うけど、
デザイナーさんの事務所って
きれいなところが多いでしょ?
全てを封印して精神力を高めます! という
方法もありだと思います。
しかし、ぼくのところはそうじゃなくて、
「壁面に散らかす」ということをベースに
事務所を組み立てます。
はりぐち あ、たしかに(笑)。
祖父江 丸出しで、簡単だし、
きちっとさせないのが好き。
置いてある椅子はばらばら、
テーブルの種類もばらばら、
ならべると隙間があいてる。
なんこ ほんとだ(笑)。
スガノ スタッフの方は何人ぐらい、
いらっしゃるんですか?
祖父江 デザインは1、2、3、4、5、
ぼくプラス5人だ。
スガノ スタッフの方々について、
思ってらっしゃることは?
祖父江 なるべく、バラバラでいてほしい。
みんな、似ないでほしいと思ってます。
やまかわ そうかぁ。
祖父江 ぼくのコピーのようなデザイナーは
あまり要らないと思ってるんです。
それより、こんなすごいデザインがあるんだって
びっくりさせてほしいです。
全員 へえぇ。
祖父江 ぼくのやってることを踏まえたうえで、
その先のところで、
ぼくのやってることに反感持つとか、
あまりいいと思わないとか
もっとこうすればいいのに!とかって、
各デザイナーの目線をとおしながら
ものを作っていってほしいな、な〜んてね。
スガノ うん、うん。
祖父江 そういうことを期待してます。
なので、どんな仕事が来たら、
どのスタッフで勝負しようか、とかワクワク。
スガノ みなさん、言い合いしたりしないんですか?
祖父江 うん、あまりつるまないの。
なんこ へえ〜。
祖父江 ぼくがそうなのかな?
みんなでお花見やるとか、
そういったこと、どうも苦手です。
なるべくそれぞれが
似ないように似ないように、
と思ってるからかも。
スガノ デザインはバラエティがあったほうが
おもしろいですもんね。
祖父江 うん。こうくるとは思わなかったな、
というのがいちばんおもしろい。
ぼくじゃ展開しないようなデザインが
スタッフから出てきたときには、
もしかしたら、しくじるかもしれなくても
応援したいです。
スガノ 糸井もときどき、そういうこと、言います。
「これは、俺は多分このままいると
 ダメ出しちゃうけど、いいや、行け!」
祖父江 うん。
仕事の依頼があったときには、
自分の中で、だいたいイメージができちゃうんです。
でも、それだけじゃ退屈でしょ?
それにスタッフのイメージが入ってきたほうが
商品が元気になるんです。
べっかむ3 うん、みんな、上にいてくれる人は
そう思うに決まってるね。
やまかわ うん、うん。
スガノ ほんとうは、祖父江さんって、
すごく厳しかったりするのかも、って
思っていました。
祖父江

でも、ぼくと仕事をすると、めんどくさいかもよ。
こういうのもやってみようよとか
いくらでも言っちゃうんだから。
ムダだと思ってもやってみようよ、
ということになる。
「いままで苦労してやったやつは、
 ナシにしよう」
とかってことは、たくさんあるし、
「せっかく問題なく入稿が終わったのに
 チャレンジャーなバージョンも作るんですか?」
とかってこともたまにある。

はりぐち だけど、納得すれば、いいんですよね。
なんこ そうそう。
スガノ では、そのあたり、実際にどうなのか、
スタッフの方にお伺いしつつ
おしまいにしたいと思います。
待っていらした次のお客さま、すみませんでした!
祖父江 うん! ちゃおぉぅ。
全員 今日は、ほんとうに
ありがとうございました!!
(明日はエピローグです)
2010-05-05-WED


コズフィッシュのスタッフにうかがいました。

お話:吉岡秀典さん
赤塚不二夫展ご担当として、
以前「ほぼ日」はお世話になりました。
今回訪問した際には、楳図かずおさんの
本のデザインをしていらっしゃいいました。

「コズフィッシュがどんな感じの会社って?
 難しいですね(笑)。
 勤め出してから、うん、けっこう長いです。
 自分はこれまで意外と
 勤めが長続きしなかったんですが、
 もうすぐ7年です。
 なんだかあっという間に時間が経ちました。
 ですから、あまり疑問も感じずに
 ここまで来ましたね。


 
 忙しいかって? ‥‥うん、忙しいけど
 どこも忙しいですよね?
 糸井事務所も忙しいでしょ?
 
 祖父江さんのことですか?
 祖父江さんはね‥‥あのね‥‥、
 自分はいままでの会社で、
 上司と話しても、なんだか
 言ってることがよく伝わんなかったんですよ。
 自分の言葉が足りないことも原因なんですけど、
 こういうふうにしたら
 おもしろいんじゃないですか?
 と言ってみても、全然だめだめ、みたいな感じ。
 唯一、祖父江さんは、
 案を見せただけで伝わる人でした。
 あ、おもしろい、って言ってくれた。
 だから、自分はやりやすいなと思っています。

 言われて落ち込んだことですか?
 基本的に、ダメ出しはされたくないので、
 されるようなときには見せないようにしてます。
 そのぶん、ちょっと抱えちゃうんですが、
 自分で完全に行けるだろうというところで
 見せるようにしています。

 祖父江さんを見てて
 いちばん勉強になることは‥‥、
 追い込まれたときにまったく
 プレッシャーがなくなってる、という姿です。
 あれはすごいなと思ってる(笑)。
 ものすごくギリギリのときに、
 どういうわけか、シーンとなるんですね。
 よくああいう状態になれるなぁ。
 自分はけっこうあわてやすいんで、
 あ、どうしよう、どうしようって
 すぐに思うんだけど、
 横の祖父江さんをふと見ると、
 大丈夫なのかな、ってちょっと思える(笑)。
 意外とどうにかなるのかな、という方向で
 考えられるようになりました。
 
 デザインの案を出して、昔は祖父江さんに
 いろいろ描いてもらって、
 それを元に再考したりしたけど、
 いまはずっとそのままじゃまずいなと
 思っています。
 ちょっと言われたら
 もう一回やってきます、というふうにしてます。 
 祖父江さんから学ぶいちばんのことは、
 やっぱり、妥協しないところかな。
 あの、粘る感じがやっぱりいいと思うんです。
 楽にはできないけど、でも、
 そこがおもしろいところのような気がします」



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