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| 糸井 |
前川さんの歌を生で聴くのは
あまりにも久しぶりだったから、
もし、コンサートを見て、
「歌は歌えなくなっちゃってるんだ」
ということを発見したら、
やっぱりさびしいだろうな、
なんて思いながら
ぼくは出かけたんですよ。
それがまぁ、客席回って
お客さんと握手しながらでも、
声が出てるし。
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| 前川 |
ああ、ははははは。
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| 糸井 |
あれは、ハイテクニックですよね。
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| 前川 |
いやいや、まぁ、慣れですよね。
手を握った拍子に
「引っ張られる！」と思ったら
引っ張られる用意をしときますから。
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| 糸井 |
え？
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| 前川 |
お客さんにいきなり
ガーンと手を引っ張られると、
歌が「あっ」となるじゃないですか。
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| 糸井 |
なるほど。
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| 前川 |
「この人は引っ張るな」というのは
予感がするんです。
こう、ああーっ、と興奮しておられて。 |
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| 糸井 |
そうなんですか（笑）。
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| 前川 |
冷静な方は、ぜんぜん引っ張りません。
「あ、この人は引っ張らないな」
「この人は引っ張るな」
用意するときには、肩をね、
プラーンと、こう。 |
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| 一同 |
（笑）
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| 前川 |
これです、これ。
（プラーン、プラーン）
腕の付け根に衝動がこないように。
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| 糸井 |
蕎麦屋の出前の
エアクッションのついた
おかもちみたいに。
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| 前川 |
手のほうに振動を寄せて。
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| 糸井 |
はぁあー、だから、
歌にまったく響かないんですね。
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| 前川 |
響かないですね。
よっぽど引っ張られるとか、
そうじゃない限りは、
まず大丈夫です。
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| 糸井 |
姿勢も、
いつも直立不動で
歌ってらっしゃるから。
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| 前川 |
どっちかというと
最近は背中が曲がって。
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| 一同 |
（笑）
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| 糸井 |
前川さんは、あの直立不動じゃないと、
発声がうまくいかないのかと思ったら、
そんなことない。
あんなに握手しながら歩いてるのに、
歌はすごいままなんだ、と感心しました。
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| 前川 |
ぼくは、クール・ファイブ時代から数えて
デビューして何十年間は、
握手というのは、
やってなかったんですよ。
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| 糸井 |
お客さまとの握手は。
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| 前川 |
はい。
下に降りて歌を歌う、
そういったことは、なにか、
媚を売るように思えたんです。
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| 糸井 |
はぁあ、なるほど。
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| 前川 |
歌というものは
歌そのもので感動させるものだ、
と思ってて。
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| 糸井 |
うん、うん。
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| 前川 |
ただ、やっぱり不思議なもんで、
やることがなくなったんじゃないか、
歌で感動させられなくなったんじゃないか、
そう思いはじめたときがありました。
簡単に言うと、ぼくは、
自分に飽きてきたんですよ。
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| 糸井 |
そうなんですか。
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| 前川 |
そうすると、なにか
次の手段を出さないといけません。
昔、欽ちゃんがアドバイスをくれたのは、
「きよしちゃんは絶対
歌は、動かないでやりなさい」
ということでした。
「動かないでいるからこそ、
そのギャップでいろんなことできるから。
歌を崩しちゃダメだよ」
ぼくにも、
歌は崩さないという気持ちがありました。
だけどやっぱりだんだんと
「そうだなぁ、いまから降りてみようか」
と思いはじめました。
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| 糸井 |
はい。
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| 前川 |
欽ちゃんと一緒にお笑いをやらせてもらって、
笑われる、楽しんでもらえる、
という経験もしましたから、
「ああ、そんなに
歌い手、歌い手って
自分で考えててもしょうがないんだな」
という気持ちもありました。
自分で意地を張って
歌い手なんだと思うよりも、
おかしいことやらせてもらったほうが、
気も楽だし。
握手ってね、歌い手さんも、お客さまも、
けっこう慣れてるんです。
「下に降りて来るもんだな、来るもんだな」
と思ってる。
けれどもぼくはそれまで
一回も降りたことないもんですから、
よくわからなくて。
最初は「いやだな」という意識で
客席に行きました。
「オレはまだ下には降りたくないんだ」
「歌で感動させたいんだけど、
感動させられない自分がいるから、
ちょっと降りてみるんだ」
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| 糸井 |
変えるんだ、と。
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| 前川 |
そうです。
自分を変えてみないといけない、
そのためには、歩いてお客さまの顔を
近くで見てみようか、とも思いまして。
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| 糸井 |
はい。
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| 前川 |
やっぱりそれは、
自分が変わった瞬間でした。
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| 糸井 |
うん。
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| 前川 |
そうして舞台を降りて握手すると、
お客さまの、そのよろこびよう、
そのお顔というのは、
言いようがないくらいのものでした。
はじめてぼくは、そのことに気づいたんですよ。
おじいちゃん、おばあちゃん、
泣く人もいるんです。
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| 糸井 |
わかります、わかります。
涙が落ちる方、いらっしゃいますよね。
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| 前川 |
拝む人もいるんですよ。
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| 糸井 |
うん、いると思う。
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| 一同 |
（笑）
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| 前川 |
で、中にはやっぱり、
「オレは握手しなくてもいいや」
「したくない」「ぷーん」
という人もいます。
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| 糸井 |
いるいる（笑）。
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| 前川 |
さまざまなんです。
ご夫婦連れのご主人とか、特に、
握手したとしても「照れくさい」という
反応の方、いらっしゃいます。
「したくない」という姿勢の方には、
そうなんだな、と思って
ぼくも、しなかったんですよ。
まぁ、こっちも
ふーんだ、べぇー、とか言いながら。
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| 一同 |
（笑）
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| 前川 |
そっちがそうなら、
オレもしねぇや、べぇー。
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| 糸井 |
うん（笑）。
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| 前川 |
だけど、不思議なんですよ。
最近わかったんですが、
そういった人にこっちから
握手していくと、
いやぁ、よろこぶんですよ。
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| 糸井 |
ほんとは、‥‥ということなんですよね。
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| 前川 |
ほんとはそうなんですよ。
そこなんですよ。
ぼくはいろんなふうに
歌とかなんか、気にしてましたけど、
そういった人間のことが
このときになってはじめて
なんだ、こういうもんなんだ、
とわかりました。 |
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（つづきます） |
