白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。

このコンテンツについて

曇りガラスの向こうから、こっちを見てる。
雪にまみれて、雪と一体化してる。
みちばたでプリッとウ◯チをしている‥‥。
梅佳代さんの写真集に、
ときどき出てくるあの「白い犬」が
一冊の写真集になりました。
タイトルもズバリの『白い犬』です。
梅佳代さんにとっては、
一緒に暮らしたことのない実家の犬のこと。
最初は怖くて触れなかったけど、
いつしか友だちになっていた、白い犬のこと。
梅佳代さんが、いつものように、
ユーモアたっぷりに、話してくれました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


第4回
リョウの失踪騒動。

──:
このリョウとか、雪と一体化してますね。

梅佳代『白い犬』(新潮社刊)より

梅:
しとるね。完全にね。

除雪機とか来たら、絶対外出て眺めるの。
リョウ、除雪機ずっと眺めとる。
──:
でも、こう見ると、
本当に真っ白な犬なんですね、リョウは。
梅:
うん、リョウ、白いの。
──:
ああ、すごいジャンプ力だ。若い跳躍力。
梅:
跳ぶの、すごい嬉しがってたころ。

梅佳代『白い犬』(新潮社刊)より

──:
ちなみに、そばにいるのはお父様ですか。
梅:
これパパです。
──:
たしかデビュー作の『うめめ』のときに、
燃え盛る炎の向こうに写っていた‥‥。
梅:
そうそう。
──:
バーニング・パパ。
梅:
そうそう。

梅佳代『うめめ』(新潮社刊)より

──:
リョウは、お父さんとは仲良しなんですか?
梅:
あー、もしかしたら、いちばん仲いいかも。
一緒に山に行ったりしてたから。
──:
山に‥‥それは、何をしに?
梅:
何を‥‥そういえば、何しに行っとったんやろ。
よくわからん。聞いたことないし。

ふたりで山でボーッとしとったら悲しいね‥‥。
かわいそうで見てられない、そんなの。
──:
この写真も、いいです。

梅佳代『白い犬』(新潮社刊)より

梅:
かわいいやろ? めっちゃこっち見とるやろ? 

ああそうだ、あのね、
リョウがいなくなるという大騒動があってん、
思い出した。2012年か13年のこと。
──:
聞かせてください。
梅:
わたし、あんまりクルマを運転できんけど、
あるとき妹と妹の子ども乗せて
「スーパーしんや」に行こうと思ったのね。
──:
それは、地元のスーパーですか。
梅:
そうそう、昼間なのにスーパーしんや。
これ、パパお得意のギャグね。

で、わたしはあんまり運転できんから、
雪やったんで、
ゆっくり運転しなきゃダメやと思って。
──:
ええ。
梅:
ゆっくりゆっくり進んどったら、
リョウがついてきとってん、途中まで。

あ、リョウがついてきとるねーとか
妹と話しとったけど、
いつも途中までしか来んし放っといたら、
どうやらスーパーしんやの近くまで
ついてきとったらしくて、リョウがね。
──:
遠いんですか、そこは。
梅:
5、6キロ先。
──:
そんなに?
梅:
うん、そう。いや、5、6キロ先というのは、
そんなに遠くもないんやけど、
中学生のときに、
自動販売機のある生活に憧れとって、わたし。
──:
なかったんですか、自動販売機。
梅:
「なんでこんな、
自動販売機のないところに生んだん!」て、
ママにめっちゃキレたことある。
──:
自由気ままに
ジュースを買ったり買わなかったりとか、
したかったんですね。青春ですね。
梅:
「なんでわたしだけ
ジュース買いたいときに買えんの!
クラスみんなね、
ジュース買いたいとき買えるねん!
わたしだけ飲みたくても飲めんが!
はやく電話して、役場に電話して!」
みたいな。
──:
そういうことまで含まれると考えると、
役場も本当にたいへんな仕事ですよね。
梅:
わたしがあんまりキレてるから、
パパが
「わかった、じゃ、どこに設置する気や」
とか聞いてきたりして。
──:
あ、一応、その意見は聞いてくれるんだ。
梅:
ちょっと半笑いやったけど。

結局、役場に電話とかしてくれんくって。
パパもママも、誰も。
──:
ようするに、何を言いたいかっていうと、
梅佳代さんちのまわりというのは、
自販機すらないほど何もないところだと。
梅:
そういうこと。
──:
ゆえにスーパーしんやの5、6キロ先も
たいして遠いところではない、と。
梅:
そういうこと、そういうこと。

ともかくスーパーしんやで買い物して
家に帰ったら、リョウおらんくって。
「リョウ、帰ってきとらんの?」
とか言って待っててんけど、
いつまで経っても、帰って来んくって。
──:
‥‥ええ。
梅:
心配で、みんなで探しに出たんやけど、
あ、そのときの写真、
『のと』にも載っとるはずなんやけど。
──:
もしかして、どてらを来た妹さんが
赤ちゃんおんぶしてる写真‥‥ですか?

梅佳代『のと』(新潮社刊)より

梅:
あー、そうそう、さすが詳しいね。
ぬくい服着て、懐中電灯持ってね。

あのときは、
わたしも妹もだんだん悲しくなってきて、
こんなことなかったから今まで、
雪めっちゃ降っとるなか、
「リョウ! リョウ!」って大声で呼んだ。
──:
ええ。
梅:
でも、どんどんどんどん雪が降ってきて、
リョウはぜんぜんおらんくって、
「どうしよう、でも今日は一回寝て、
朝までに帰ってきとるかもしれんから、
戸を開けとこう」となって。
──:
ええ。で、翌朝‥‥。
梅:
リョウ、帰ってきとらんかった。

また1日くらい探したけど、おらんくて。
妹は「佳代ちゃんのせいだ」って言うし。
──:
心配ですね。
梅:
そしたら、どっかから情報が入ってきて、
「スーパーしんやのあたりに
白い犬おったらしい」とかって言って。
──:
やはり、しんや周辺でしたか!
梅:
「え、それ絶対リョウやし!」ってなって、
わたし、そのとき、
石川県の新聞で連載しとって、
急いでリョウがいなくなったこと書いたの。

そうしたら、木曜日か土曜日か忘れたけど、
その文章が載った日の
朝の5時か6時くらいに電話かかってきて。
知らんおじさんからね。
──:
めっちゃ早朝ですね。
おじさん、読んですぐ電話かけましたね。
梅:
「おたく、梅さんちけ」って言われて、
「そうです」つって、
「あの、写真の梅さんちけ」って言うから、
「はい、そうです」つったら、
「あんたんちの犬、おるわ、たぶん。
さっき通ってったわ、うちの前を」って。
──:
連載してて、よかったですね!
梅:
そこ、リョウの生まれ故郷の町で、
さっそくイトコにクルマ運転してもらって、
イトコはふだん大人しいんやけど、
リョウとは友だちやからめっちゃ声張って、
目撃情報のあったあたりを
「リョウ! リョウ! リョウ!」
って探し回ってたんやけど、おらんくって。

でも、しばらくしたら
でっかい道路のわきの神社があるところに、
めっちゃテンションの低い‥‥。
──:
白い犬が?
梅:
そう、トボトボ歩いてた。
──:
わー‥‥。しっぽも完全に下がっちゃって。
梅:
そうそう、で、「リョウ!」って叫んだら、
一瞬、ピクッてなったリョウが、
ダダーッてロケット弾みたいに走ってきて、
クルマのドアのすきまから、
ガサガサガサガサーっていって入ってきて。
──:
よかった。
梅:
うん、ほんと死んどると思っとったから、
生きて帰ってきて、
「リョウ、よかった!」って抱きついて。
──:
感動です。
梅:
そこで、めっちゃくっさい屁、したんや。
──:
はい?
梅:
リョウがめっちゃくっさい屁、したんや。
感動クライマックスの真っ最中のときに。

<つづきます>

2017-01-25-WED
取材協力:ダンデライオンチョコレート

写真集『白い犬』、発売中。
写真展「白い犬」も開催中。

梅佳代ファンならきっとご存知、
これまでの梅佳代さんの写真集のなかに
ちょくちょく登場する
梅家の愛犬・リョウが本になりました!

タイトルはズバリの『白い犬』です。
表紙からして、もう「いい!」です。
すでに全国書店等で絶賛発売中です。

Amazonでのお求めは、こちらからどうぞ。

で、この本の発売を記念して、
現在、南青山の「TOBICHI②」では
写真展を開催しています。
会期は、2月5日(日)までです。
梅佳代さんの過去の著作をズラリならべる
特設ショップもオープンしてます。
ぜひぜひ、みんなで見に来てくださいね!

開催概要

梅佳代さん写真展@TOBICHI② 白い犬。

会期:
2017年1月20日(金)~2月5日(日)
時間:
11時~19時 ※会期中無休、1月22日(日)は17時クローズ
会場:
南青山 TOBICHI②
住所:
東京都港区南青山4­28­26
MAP:
https://www.1101.com/tobichi/access.html
入場料:
無料

関連コンテンツ

ほぼ日刊イトイ新聞をフォローする