46、「脱毛」


まだ二十八歳だというのに、
親戚のなっちゃんはいつでもはげることを気にしている。

このあいだ、うちのフレンチブルドッグが
皮膚病になったので、
いっしょに病院に連れて行きました。

診察台の上でたくさん毛が抜けるのを見て先生が、
「これは・・・すごい脱毛だなあ」
と言ったら、なっちゃんは真顔で
「僕だったら、もう・・・」とつぶやきました。

いつだったかハワイに家族で行ったときも、
空港の待合室で
真向かいに座っていたなっちゃんが
突然席を立ち私の元へやってきたので
なにごとかと思ったら、
彼は小さい声で私に言いました。
「僕はもう耐えられない、
 まほちゃん(私の本名)の後にいるおじさんが、
 ものすごいカツラなんだ」

さりげなさをよそおって振り返ると、
愛人らしき若い女と
いちゃいちゃしているおじさんの髪の毛が
きっちりと浮き上がって
きれいにセットされています。
「ほんとだ」
と私は言いました。

なっちゃんは頭を抱えるようにして、
「あんなにわかってしまっているのに
 普通にしていられるなんて、僕には考えられない、
 旅行中とかどんなに気をつかって
 彼女にばれないようにしていたんだろうか」
と言いました。


私は(そしてこれを読んでいる人全員が)思いました。

「そんなに、気にすると、はげるよ!」

でも、こわくてとても本人には言えない。


優しい私はそうなんだけれど、
意地悪い私の母や姉は、ふっとしたときに
「あれ?なっちゃん少し前髪が上がってない?」とか
「てっぺんから見ると少し薄くなったね!」とか言って、
追い込みにかかっています。

2005-12-07



「U.M.A.」よしもとばななさんへの感想は
タイトルを「ばななさんへ」にしてpostman@1101.comまで
お送りくださいね!

このページを友達に知らせる




戻る