吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。
吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。

004 詩人の目。

吉本 ふたつの考えを併せて
「親孝行」「年寄りを敬う」
というようなことを、
自分なりに考えておけば、
きっと簡単に
日本の年寄り問題は解決するわけです。
糸井 昔の言葉を借りてくるだけだと、
結局のところ、昔のモラルをそのまま
引っ張り出すだけになってしまいますね。
長幼の序とか、そんなふうに
決まった言葉で言うんじゃなくて、
昔の考えの根拠と
今の時代から見た風景を
自分なりにちゃんと混ぜて
「年寄りはすげえもんだ」ということを
見つけておくことが必要なんですね。
吉本 そうです。
「すげえもんだ」ということに、
到達するような言い方が見つけられなければ、
それは今を知っていることにならんと思います。
糸井 吉本さんは、思想家という顔もあるし、
知識人だと思われてますけど、
きっと、詩人の直感みたいなものが、
そういうときに非常に役に立っている
感じがするんですが。
吉本 そうですね。それはおそらく
そうだと思います。
糸井 みんながそれを持つといいのかなぁ。
詩人の力って、いったいなんなんでしょう。
吉本 昔の詩というか、
万葉集などの歌を見ると、
わかることがあります。
昔は未開で、ほかのことはあまり
考えないでよかった。
昔の人の書いた詩がいいのは、
集中力が格段に違うからなんです。
糸井 ああ、喩えることのリアリティが
濃いですね。
吉本 そうなんですよ。
昔の未開の社会に住む人が
なんだかボーッとつぶやいたり、
ボーッとうそぶいたような
単純な内容の詩に、
今の人はかないません。
それは、もうまるで地力の違う集中力で
それを書いているからです。

そして、芸術の役割というのは、
そういうものを保存するだけなんです。

ほかに役目はないんですよ。
何らの利益も、有効性もないんです。
そんなのがあるとしたら、嘘ですよ、全部。
嘘の理論です。何もないんですよ。

「 じゃあ、無駄なことをやって、
 お前は一生を潰したのか」
と言われるとしたら、
そりゃたいていそうだ、と思います。

僕もそうだと思いますし、
中原中也みたいな偉い詩人でも、
「お前は何をしてきたのか」と言われたら
そう言うんじゃないかと思います。

 あゝ おまへはなにをして来たのだと……
 吹き来る風が私に云ふ

という詩が、中原中也にあります。

生活やいろんなことに参って
帰郷したときの詩です。
なんともみじめな思いじゃないかという、
そういう詩です。

だけど、それをみじめと言う人は、
その世界に近づいたことのない
距離から見ているからだと思うんです。
読者の人はそういう近づき方を
あまりしないで読むかもしれません。
だけど僕は、中原中也のそういう詩を読むと、
「この人は、生活に負けたとか、
 そんなことで
 割り切っているわけでもなんでもない」
ということを思うんです。


(明後日に続きます)

2008-07-16-WED

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN