テレビと落とし穴と未来と。 ーー価値・無価値・反価値のはなしーー  吉本隆明+糸井重里

06 文化はいいことだ、の落とし穴。
吉本
「糸井というのはけしからん。吉本はけしからん」
と思っている人も、いるでしょうけど。
糸井
「けしからん」は、ずっと言われてきたんです。
何十年も言われていますから。
吉本
糸井さんは、大まともにそれをやっているんです。
ぼくなんかに金かけて、ものを言わせるのは
もってのほかだと思われることもあるでしょう。
でも、学生さんを例にとって申し訳ないけど、
学生さんは、ぼくの書いたものを
勝手に出版しちゃうし、
高い金で売り飛ばす人もいました。
それでもぼくは、いいや、いいやで
やってきました。
「ただ」でやることが多かったし、
やっぱりいまも、それはあると思います。
糸井
ぼくは、「ただ」の力を、もっと信じてます。
本当に「ただ」でやるときは、
もっと「ただ」に対して考えて
慎重にならないとダメです。
「ただ」って、やっぱり
いちばん高くなきゃいけませんから。
吉本
そうそう。
ふつうの「ただ」じゃダメなんですよ。
だけど、これからは出版社だって
考えられなかった大手同士が合併する、
くらいのことは起こりうるでしょう。
糸井
合併して人を減らしてしまったら
いなくなってしまう優秀な人も出ますね。
それは残念です、とても。
吉本
ええ、それどころじゃねぇ、という話になります。
そのくらいのことが
あり得るということを考えないと、
成り立っていかないんですね。
糸井
テレビ局もきっと、
同じ問題を抱えているでしょう。
吉本
テレビだって、危なっかしいもので。
ほとんどなにもしてないのと同じじゃないか、
と思えることもあります。
事業をしてるとも、ちょっと
言いにくいんじゃないでしょうか。
糸井
雑誌もテレビも、原材料費を安くして
どうやって広告を取れるように完成させていくかが
目標になっているところが
いまはあると思います。
それがこの先、どうなっていくかというと、
それこそ、30人でも
人を集められる力がちゃんとあるかどうか、
というようなことが、
重要になっていくとぼくは思います。
吉本
ええ、そうでしょうね。
新しい考え方を取れなければ、
現在のところは、
だんだんさびれていくという状況にありますね。
ただ、出版業界も、
いろんなことに手を出してますよ。
幼児教室とか、いろんなことをやっています。

でも、このままいまの状態が続くんなら、
あそこを吸収しようとか合併しようとか、
そういうようになるんでしょうね。
半分は文化事業だと称してた、
老人介護の事業も子どもの教室も、
だんだん売っ払われます。
文化ということに、うかうかとしていたら‥‥
糸井
文化は「いいこと」ですから。
吉本
いいことだと、乗り過ぎたんですよ。
だからもういま、その修正が大変です。
糸井
いいことって、
あんまりないですよね。
吉本
いいことはダメですね。
ですから、文化が高級だとか、
いい学校と言われる学校を出れば優秀だとか、
そういう馬鹿なことを言っているやつは
ダメだということになります。
そういうことは関係ありません。
学校は学校です。

学校は、同じ金を出せば、
同じように誰も一律に扱って、
大学だったら、教授先生の意向で
生徒がちゃんと守られている、
これが学校のいいところですよ。
学校のいいところって、それしかないですよ。

だから、学校というのは、公園なんです。
赤ちゃんを乳母車に乗せて、公園に遊びに来て、
おかみさんがたがそこでけっこうおもしろく
ときを過ごしていく。
学校というのはそれですよ。
真理の追求の場所だなんて、
そういうものじゃないんですよ。
はじめからそうじゃないはずなんです。

公園ですから、暴力だって、
ときどきそういう悪童がいてやるわけだけど、
謝れば謝って、頭をちょっと下げれば、
教授先生もそこがいいところで、
ちゃんと「いいよ、いいよ」って、
「学校をつづけなさい」と言ってくれるわけです。

だけど、一般社会にスッと出たら、
そんなの通用せんです。
たちまちダメです。
それで反抗するんだといったら、
もう生涯、そいつが生活していく場所を
全部奪って取ってしまうということを
社会は実際にやりますからね。
糸井
ええ、できちゃいますよね。
吉本
やっぱり、支配的な経済力を
持っているというのは、
すごいものだなと思います。
それに異を唱えることができないというところまで
ちゃんと徹底的にやりますからね。

それで、徹底的に
バツにされちゃうというふうになっちゃいます。
ぼくも同じで(笑)、
ここまで考えるようになったのは、
自分が体験したからなんです。
文化の事業は、
いいことをしているつもりでやっているんですよ。
あいつに悪い待遇をした覚えはないというふうに、
いつでも言えるようなやり方です。
そこはすごいところだと思います。
糸井
公共の、公益のために。
吉本
決して悪いことをしたって、
どこにも欠陥があることをした覚えはないと、
いつでも言えるようにちゃんとできてます。
(つづきます)

2008-12-30-TUE

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