2 通訳の角田さん。
糸井 いまはじゃあ、
いちばん頭の中にあるのは落語ですか。
鶴瓶 そうやねぇ、いまは落語ですねぇ。
やっぱり、その‥‥たとえば志の輔には
「志の輔らくご」ってあるじゃないですか。
糸井 立川志の輔さん。

※立川志の輔(たてかわしのすけ)さん

 1954年、富山県生まれ。
 落語だけでなく、
 NHK「ためしてガッテン」の司会者や
 ラジオパーソナリティとして、
 その人気は全国区。
 新作落語の会「志の輔らくご」は、
 最もチケットがとれない落語として
 話題を集めている。

過去「ほぼ日」のこちらにご登場。
公式サイト「しのすけコム」はこちら

鶴瓶 ぼくも、なんとか早く
自分の型を作りたいなと思って。
それはやっぱり、
「芝居」というかたちな気がするんです。
糸井 ほぉ、芝居ですか。
鶴瓶 映画に出たりとか、
その映画で賞をもらったことによって
「このひと、芝居うまいんちゃうか?」
と、ぼくは思ってもらえてるかもしれない。
そんなら、芝居のかたちを入り口にすれば、
みんながスッと入りやすいかなあ、と。
糸井 なるほど‥‥。
鶴瓶さん、そこはもう、つかんでるように
ぼくには思えますけどねぇ。
鶴瓶 うーん‥‥どうでしょう。
糸井 いや、あのね、鶴瓶さん。
映画の話でひとつ思い出しました。
鶴瓶さんに会ったら、
話そうと思ってたことがあるんです。
鶴瓶 はあ、なんでっしゃろ。
糸井 『ディア・ドクター』という映画で、
モントリオール映画祭に行きましたよね?
鶴瓶 あ、行きましたね。
西川美和監督と、瑛太さんと。

※『ディア・ドクター』

 2009年に公開された
 西川美和監督の映画。
 鶴瓶さんが、映画で初主演をつとめる。
 この年、様々な映画賞を受賞する。
 西川監督と糸井重里の対談はこちら

糸井 ちょうどぼく、
帰ってきたばかりなんですけど、
モントリオールにいたんですよ。
鶴瓶 ほぉ、そうですか。
糸井 そこで、角田(つのだ)さんっていう
通訳のかたにお世話になったんです。
鶴瓶 あ、角田さんに会いましたか。
そうですかぁ。
ぅふっふっふっ、角田さん(笑)。
糸井 ご飯を食べながら話してたら、
その角田さんが
「このあいだ鶴瓶さんが」って、
すっごくうれしそうに語ってたんです。
鶴瓶 ぅふっふっふっ。
あのひとは、おもろかった(笑)。
糸井 おもしろいんですよ、角田さんは(笑)。

※角田実(つのだみのる)さん

 英仏通訳者。
 1952年、東京生まれ。
 中学時代から独学で語学を習得。
 現在、英日・仏日・日英・
 日仏公認翻訳士資格を同時に所持する
 カナダ国内における唯一の公認翻訳士。
 糸井との最初の出会いは2008年。
 「シルク・ドゥ・ソレイユ」
 を取材した際、
 通訳を務めたのが角田さんだった。
 「中立、公正、客観」をモットーとする
 完璧な通訳ぶり、
 誠実で紳士なふるまいから、
 乗組員たちにも大人気。

鶴瓶 なんか記者会見のときに‥‥言うてました?
糸井 いやいや。
鶴瓶 あのひとね、
モントリオールの映画祭の会長に、
ずっとぼくの通訳してくれはんねんけど。
真面目やから‥‥
糸井 ぜんっぶ訳すでしょう?(笑)
一同 (笑)
鶴瓶 「なんかホコリっぽいですな、角田さん」
言うたら、会長に、
「ふぁしっしょ、しっしょ‥‥(通訳風)」。
一同 (笑)
鶴瓶 「ホコリっぽいなって言うてまっせ」
っていうのを、この会長に(笑)。
だから、そんなんやめ。きりない。
むかしの子供の遊びみたいや。
そしたら「きりない」いうのも訳してる。
糸井 そうそうそう(笑)。
鶴瓶 英語とフランス語と両方で、ワーッと。
で、まあ、仲良うなったからね、
これを映画祭で利用できないかなぁと。
ふつう、まあね、
たけしさんなんかは映画祭のとき
ポーンこけたりして笑わすやん。
でもそんな、こけたりして笑わすの、
おれは苦手やから、
何かしゃべりで笑わせないかな? 思たんです。
そんで、映画祭で、
まず西川監督が映画の話をね、
「こうこう、こういう映画です」言うて。
つぎに瑛太もね、やぱり映画の話を。
で、ラスト、ぼくの番や。
「私がものすごい感動したのは‥‥
 この角田さんです。
 ものっすご、通訳、うまいんです」
で、黙ると、訳すんです。
「アデドゥブドゥ‥‥、ツ、ツノダ?」
一同 (爆笑)
糸井 そうそうそうそう(笑)。
鶴瓶 「角田さんの通訳はバツグンでっせ!」言うと、
角田さんはまた、
「アードゥブドゥ‥‥(ガッツポーズ)」
糸井 抜群でっせ(笑)。
鶴瓶 お客がドーンと。
角田さんはもう、何をウケてるのかわからへん。
真面目やからずーっとしゃべりよる。
ものすごいウケるんです。
糸井 もう、ぜんぶよくわかるわ(笑)。
そういうひとなんだよ。
鶴瓶 そういう人でしょ?
糸井 鶴瓶さんといっしょだったのが
とにかくうれしかったみたい。
‥‥角田さんが言ってたんだけど、
なんか? 誕生日が?
鶴瓶 そうそう、そうなん。
角田さんがぼくにね、
「実は鶴瓶さん、ひとつだけ私、
 自慢してもいいですか?」
と言わはるから、ぼくは、
「なんでも言うてくださいよ」と。
糸井 うん(笑)。
鶴瓶 そしたら角田さん、
「私ね‥‥皇后陛下と同じ誕生日なんです」
って言うから、
「あ、そうですか。ぼく天皇と同じ誕生日」
一同 (爆笑)
鶴瓶 角田さん、「負けました」。
12月23日やからね、ぼくは。
糸井 それ(笑)、その話をさ、
もう、ほんっとにうれしそうに語ってた(笑)。
鶴瓶 ああー、そうでしたか。
糸井 あのまんま生きてきた人ですよね?
とにかく中学のときから
語学をやってたんですってね。
鶴瓶 そうそうそう、独学でずっと。
ああいうひとが通訳というの、非常にうれしい。
糸井 うれしいですね。
鶴瓶 日本のなんか、品格みたいなものが
ちゃんとブレてないひとがいてるというか。
糸井 うんうん、そうだね。
鶴瓶 皇室が来たらこの人や、いうからね。
糸井 いやあ、なんかさ、
鶴瓶さんに会う前にそんなことがあってさ、
ちょっとうれしかった。
鶴瓶 それ、もう、縁ですよね。
このひとにまた会うてるいうのは。
糸井 そうそうそう。
鶴瓶 記者会見のときは、西川監督も言ってた、
「こんな笑わし方があるの」って。
糸井 そうだよね(笑)。
鶴瓶 お客さん、ほんまに笑てるんですよ、言葉で。
糸井 どっかんどっかん。
鶴瓶 そうそうそう。
まあ言うたら、
あれも落語みたいなもんやからね。

(つづきます)
 
2011-01-02-SUN
つぎへ 最新のページへ つぎへ
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN