第7回「願いを持ちづらい時代」

つんく♂さんの話を聞いていると、
子どものころから一貫してますよね。
ああ、そうですか?
なんでそういう子ができちゃったんでしょうね。
ひとつのことにのめり込むタイプ?
そうですね、はまっているものに関しては、
たぶん、けっこう深く入ってしまいますね。
でも、だからといって、
すべてを捨ててでもそこにのめり込む、
っていうことはないと思いますね。
ああ、なるほどね。
つまり、なんていうのかな、
本当にやりたいことって、
大げさにいえば命がけというか。
はい。
運命をかけてでもやりたいことがあるんだったら
それを追うべきだと思いますけども。
たとえば「金が欲しいんです」という人がいて、
命がけでそう思うんだったら、
それはもうしょうがないと思うんです。
でも、そうじゃなくて、命はかけないけど、
お金も欲しいし、っていうような願いは
やっぱりかなわないんですよね。
で、「このくらいかなえばいいや」っていうことが
理屈として見えているんだったら、
まさにさっきのつんく♂さんの話にあったように
75点のところまでは一生懸命やればできるよ、と。
はい。
あの、よく思うんですけど、
ふつうのサラリーマンの方に比べたら、
ぼくら、まだまだ適当なんですよ。
ああ、はい。
あの、ほんとに、
公務員の人とかすごいなと思いますから。
毎日ちゃんと定時に職場に行かれますよね。
ぼくらたまに「しんどいわ」って
言うじゃないですか。
うん。
好きなことをやっているはずなのにね。
やっぱり、さっきつんく♂さんが言ったような
子どもたちがきゃあきゃあ言って
7時間くらい平気で遊んでいるみたいなことを
消さずにきちんとこなしていきたいですよね。
それで稼いでいけたらそれが最高なわけで。
そうなんですよね。ただ、まあ、
時代のせいにしても仕方がないんですけど、
いまはその、CDだけを売る時代じゃないというか。
それこそ20年くらい前だったら、
一発逆転的な夢が見られたと思うんですけど、
そういう時代でもないのが難しいところで。
ああ、そうですね。
そうなると、さっきの野球人口の話と同じで、
憧れる人が減ってくるんですよね。
「ホームラン王になってお金持ちになる!」
っていうようなわかりやすい願いが
持てなくなってきているというか。
そうですね。うん。
音楽でも、ギター1本で田舎から東京出てきて、
「これでオレはベンツ買うねん!」
って言ってるやつの方がじつは正しいわけです。
でも、いまの時代はなんか、
「ぼく、お金は要らないですから、
 勉強させてください!」
みたいな人が妙に多いと思うんですよ。
はい(笑)。
お金は要りません、とかいう人の話聞くと、
「ウソつけー」って思うんですよ。
その人が本当にそう思ってるかどうかじゃなくて、
そういう時代って、「絶対おかしいやろ」って思う。
そうなってくると、ほんとに、
サラリーマンとしてきちんと働いているほうが、
生活も安定して、自分の時間もきちんと持てて、
躍動感のある毎日を送れるような気がするんですよ。
うん、うん。
一方、我々の毎日というのは、
本来は、浮き沈みがすごくあって、
どーんと行くこともあるから毎日がんばれる、
というものであったはずなんですけど、
だんだん、どーんと行くことが減ってきている。
そうなると銀行マンのほうがおもしろいなとか、
大学で職員として働いてたほうがいいなとか、
なんか、昔言ってたような夢と現実が
だんだん比べられなくなってきてるんですよ。
一方で、サラリーマンだけど
ちゃんとバンドやってますっていう人だって
増えてきてますしね。
そうなんですよね。
逆にちゃんと仕事しながらね。
びしっと時間を区切って働いて、
それこそ寝る時間惜しんで
ちゃんと4時間くらい楽器の練習してね。
そうだねぇ。
ちゃんとやってる人もいるんです。
どっちかというと
ミュージシャンの方が寝たいだけ寝てて。
ラーメンとか食べて、また寝るみたいな。
(笑)
「曲、作れよ。時間あるやろ、お前ら。」みたいな。
それ、妙にリアリティあるね(笑)。
いや、ぼくらもそうだったんです(笑)。
大学のときとか、プロになったけど、
「一週間に2曲書かなあかんわー」っていうときも
明日やろうと思って寝てたわけじゃないですか。
言われてる締め切りは明日なのに、
「1曲もできてへんてー、やばいなぁー」って。
いまなら、1週間に5曲10曲作ることになったら、
必死に時間つくって曲書くんですよ。
だから、いま、昔の自分のことを思うとね、
「オレ、あんなに時間あったのに!」
って思うんですよね。
ああ(笑)。
あのころにいまのぶん、作っとけばっていうね、
でもそのころは当然無理なんですけどね。
なーにが違うんだろうねぇ(笑)。
(続きます)

2006-12-22-FRI

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