第6回「すばらしい人生」

なんにも知らない子どものころって
音楽も、リズムも、きっと楽しいんですよね。
もう、体が反応しちゃうというか。
ええ、もう、楽しいに決まってますよ。
つんく♂さんって、そういう
「こうやったら楽しいぞ!」っていう話をするとき
ものすごく生き生きしますね。
それはもう、才能ですね。
そうですか(笑)。
子どものころの楽しさをよく覚えてるのかな。
そういう純粋な楽しさについて
リアリティーをもって語れる人は
なかなかいないと思いますよ。
子どもを見てると、
なんか、うらやましいんですよね。
あの、友だちの子どもとかといっしょに
プールに行ったりするじゃないですか。
小学校3年生とか、5年生とかの。
すると、ぼくらはやっぱり、
1時間泳いで、お昼ご飯食べたら
ぽやーっとしてしまうんですね。
ところが子どもは、ご飯食べて5分後には
またバチャーンって水に入るんですよ。
(笑)
で、5時ごろになって
「ぼちぼち戻ってこんと怒られるでー」
って言うたら、悲しそーな顔するんですよ。
7時間ぐらいプールの中におったのに。
そうなんですよねぇ。
オトナの毎日があんなふうになったら、
もうほんとに素敵ですよ。
ねぇ(笑)。
いやそうしたいですよね。
ぼくらにとっての楽しい時間と
あの子らにとっての楽しい時間は
もう、水準がぜんぜん違うんですよね。
うん、だけど、自分にとっても
まったくないわけじゃないんですよね。
楽しい仕事をやってるときって、
まあ、苦しい時間も含めてのことだけど、
終わったときに「終わっちゃったな」
って思うじゃないですか。
オトナでも、たとえば将棋が好きな人は
いつまででもそれをやってたりするし。
そうですね。
うん。だから、そういうふうな時間が、
長く、たくさんあるというのが
すばらしい一生なんだろうなと思うんですよ。
はい、はい、はい。
もちろんそういう時間を過ごすためには
お金を稼ぐ時間もなくちゃいけないし、
お金だけがあって楽しい時間が
ないというのもつまらないし。
そうですね。
あの、ぼくは昔からよく思うんですけど、
死ぬ前に「ああ、おもしろかった」って
言って死にたいんですよね。
で、ほかのある人は、
「ああ、短かったな」って思って死ぬのが
すばらしい人生なんじゃないかって言ってて。
どっちも内容としては同じだと思うんですけど、
そういう毎日を送りたいですよね。
どっちかといえば、糸井さんは、
「おもしろかったな」なんですね。
「短かったな」じゃなくて。
そうですね。
やっぱり、「短かったな」と思うほどには、
短くない時間をけっこう経験していると思うので。
なるほど。
苦しいとは言わないまでも、
「渋い」時間っていうのがやっぱりあるから、
そこまでをぜんぶ引っくるめて、
「おもしろかったな」っていうふうに
言いたいなって思うんですよね。
「短かったな」って言いたい人は
どういうタイプの人なんですかね。
ぼくがそれを聞いたのは、
経済関係の本を出して
すごく売れっ子になった作家さんですね。
あ、なるほどね。そりゃ短いですよ。
そうですか(笑)。
あれですよ、
パチンコで確実に勝ってるときと同じ。
終わったときに「ああ、短かった」って
思うじゃないですか。
うん、短い、短い(笑)。
もう、そのままずっといたいのに、
一日が短くて、もったいないという。
そのままいれば閉店まで間違いなく
勝ち続けられるんですから。
蛍の光が鳴らないことを祈るという(笑)。
そうそう、祈るわけです(笑)。
そういう人生は「短かったな」って
いえると思いますよ。
ぼくらはまあ、ちょっと勝ったり負けたりで、
隣にたまたま座ったおっちゃんと
「メシ行きますか」とか言って外に出たりして、
台を変えたりしながら閉店までおって、
「回ってるんですけどねぇ」
とか言って過ごす一日ですから。
そのとおりですねぇ(笑)。
後ろで「入ったー」て言うのを聞いて、
「うわ、チックショー」とか(笑)。
そうそう(笑)。
それは「おもしろかった」だね。
うん、「おもしろかった」ですね。
そうか、そうか(笑)。
だから、ぼくも、
「おもしろかったな」って
最後に思いたいタイプじゃないかな。
うん。そうでしょうね。
間違っても「短かった」なんて言葉
出てこないと思いますよ。
まあ、でも、90歳くらいまで生きたら
変わってくるかもしれませんけど。
40歳くらいまではおもしろかったけど、
後半はずいぶん短かったなあ、
って思うかもしれない(笑)。
政治家の人たちなんかは
50歳で「若造」って平気で言われますしね。
音楽家は、どうなのかな。
長生きの人と早く死ぬ人のふたつに
はっきり分かれるのかな。
でも、本当に優秀な人は
大概長生きしてますよ。
あ、そうですか。
優秀な人って、
ライフスタイルみたいなところにも
きちんと気を遣ってることが多いので。
でも、さっきの話じゃないですけど、
「天才」と呼ばれるような人は
やっぱりその言葉に負けてしまうというか、
ストレスで潰れてしまったり、
酒に溺れてしまったりして、
短命になりがちなんじゃないかと思います。
とくにロックの世界とかだと、そういうことが、
「あいつは音楽バカだね」みたいな言い方で
かっこいいことだとされてしまうので。
そういう変な人生の方が
お客にとってはおもしろいっていうか、
「天才」にいてほしいのと同じように、
破滅型の登場人物も
舞台にはいてほしいんでしょうね。
いてほしいんでしょうね。
亡くなってからの方が有名になったりして。
それはどっちがほんとにええのか
わからないけども、
やっぱりぼくは人間的に楽しみたいというか、
「おもしろかったな」という点でいうと、
普通でいいんじゃないかなって思うんですけどね。
(続きます)

2006-12-21-THU

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN