大瀧詠一さんとトリロー先生の話を。
1955年 わんわん物語 日本版パンフレット表紙
(三木鶏郎さん蔵書より)
タイトル

糸井 鶏郎さんは ディズニーの最初の
日本版の「白雪姫」「ダンボ」
「わんわん物語」を監修した、
って聞いたんですが、
何をしたんですか?
竹松 日本語版の音楽監督です。
本国ディズニープロから
送られてきた音楽に
日本語の歌詞を付けて。
当時はキャスティング部と
いうものが無いので、
キャストを決めて‥‥
糸井 吹き替えを?
竹松 ‥‥吹き替えですね。
だから、ディズニー映画の
日本語の初めての吹き替えは、
三木鶏郎が音楽監督ということなんです。
糸井 ハァーッ‥‥それ、すごい!
ハリウッドと仕事をしてるんですよね、当時。
竹松 そうですね。向こうから
レコードを送ってきて、
それを聞いて‥‥
スコアもこの間、出てきたんですけど、
そこに日本語の歌詞を入れていくんです。
ご覧になりますか?
糸井 はい。
大瀧 原盤じゃないですかね‥‥ひょっとすると、
そのレコードって。昔、みんな、
テープじゃなくて、
原盤で音を入れていたんだよね。
竹松 これが、「ダンボ」のものですけど、
この‥‥
糸井 えーっ、「ダンボ」!
竹松 スコアがこういうふうにあって、
ここに‥‥(台詞を読む)、
「驚いた。誰だ」
「こりゃ、驚いた」と
歌詞を付けていくわけですよね。
大瀧 へぇー‥‥これはすごいや。
糸井 「象が空を飛ぶってよ。ダンボだ」
‥‥(笑)!
竹松 ちょうどこの間、字幕文化を
研究されている人
が、
「何か資料がないですか」と。
で、「たしか、あそこらへんに」
と見ていたら、
「LADY AND THE TRAMP」という
「わんわん物語」の脚本が
向こうから送られてきていて、
それを日本語に書き換えたものが
見つかったんですね。
その字幕の方にお話を伺ったら、
その訳は田村幸彦さんといって、
「モロッコ」という映画の‥‥
大瀧 ああ、「モロッコ」ね。スタンバーグの。
竹松 ‥‥最初に字幕を書いた人は、
その田村幸彦さんなんですって。
大瀧 あれが日本最初の字幕なんだよ。
竹松 そうなんですって。その田村さんが、
このときに鶏郎先生に日本語吹き替えを
お願いした人なんですね。
大瀧 ああ、そうなの!
竹松 ですからその田村さんが
これを訳しているんだろうと

多分、これは田村さんの
字ではないか‥‥
というお話でした。
大瀧 やっぱり、そういう‥‥
字幕だったらあの人だろう、
というのがあったんだ。あの頃は。
竹松 鶏郎先生は、
「オリジナル版を見て、
 これを日本語版にするのはとても無理」
と、一度は断ったそうです。
でも、やっぱり、
「子供たちが、英語で見ても
 わからないだろうから‥‥」と。
「日本語吹き替えというものがないと
 楽しめない」ということで、
「是非、やってくれ」というので。
でも、人を集めるのに困って。
それで、外国語版制作の
ベテランであった
カッティングさんという
総指揮をとる方が来日して、
「日本はキャスティング部もないのか!」
と言って(笑)。
大瀧 ないんだよなぁ。
竹松 「わんわん物語」の場合は、
犬役の声優さんを集めるわけですが、
どの方をオーディションをしても、
カッティングさんの気に入らなくて。
大瀧 気に入らないんだ。
‥‥栗貫、一人いりゃあ、よかったんだな。
一同 アッハハハハ!
竹松 それで面白い話が‥‥
カッティングさんがラジオを聴いていたら、
「一人、ブルドッグ役にすごくいい人がいた」
と言うんですって。
大瀧 ほぉー、誰?
竹松 それが、社会党の浅沼委員長(笑)。
大瀧 うまいっ! そりゃ、いいわ。
粋な計らいをするねぇ!
糸井 あっ! そうです、そうです。
そうでした! それ、俺、覚えている!
大瀧 そう?!
竹松 でも、映画のときは鶏郎先生も、
「浅沼さんには頼めない」と。
大瀧 さすがにね。いくらなんでも‥‥
糸井 でも、それ、ニュースとして、
僕、覚えてます!
竹松 その後日談があるんです。
鶏郎先生が浅沼さんと対談したとき、
「じつは、カッティングさんが、
 あなたをブルドッグの役に是非に、
 と言っていたんです」とお話したら、
「そう言ってくれたら喜んで出たのに」
と応えてくださったそうで、
ラジオで「わんわん物語」
やったときには‥‥
大瀧 やったの? 実際に?
竹松 そうなんです、浅沼さんに
やっていただいたんです。
その年に、浅沼さん、
亡くなられちゃうんですよね。
大瀧 1960年。
竹松 これが、そのときの 声優陣のキャストです。
糸井 三木鶏郎‥‥いた!
大瀧 あっ、大平透、いるね。いると思ったよ。
三津田健もいるんだよ。あっ、
小林桂樹もいるの!
あー、馬風だよ。先代の馬風!
糸井 鈴々舎馬風。‥‥今輔。
大瀧 今輔! ばあさん落語の。
糸井 永六輔さんが声優でいる!
大瀧 へぇー!‥‥ 坊屋三郎がいて‥‥
糸井 市村俊行。“ブーちゃん”だったんですよね。
この人はピアノも弾くんだよね、たしかね。
大瀧 弾く。だって、元ジャズピアニストだもの。
糸井 あ、そうなんだ。
竹松 これが、本国から送られてきた
レコードです。

大瀧 あっ、そうだ! 原盤でしょ。
原盤なんだよねぇ!
あの頃はテープじゃないんだよ。
FENのラジオ番組が原盤なんだよ。
だから、ラジオなのに音が引っかかるんだ。
糸井 おかしいよね。
大瀧 ね! ずーっと引っかかっていて、
ズルズルっという音がするんだよね(笑)。
糸井 じゃ、「ウルフマン・ジャック」なんかは、
こういう形で残っているんだ。
大瀧 これが、渋谷の恋文横丁で
売られていたわけだよ。GIが売りに来て。
それを俺が買ったんだよ。
糸井 俺が買った(笑)‥‥の?!
大瀧 買ったんだよ。
で、どっかに行っちゃったんだよ。
もう‥‥残念だな。FENの放出。
糸井 へぇー!
大瀧 うん。天皇陛下の玉音放送も、
この原盤なんですよ。
これをスタンパーでとって、
そこからレコードができるの。
糸井 ほんとうの原盤なんだ!
大瀧 僕、1枚目から最後のまで
自分で持っているんですよ、じつは。
糸井 自分の原盤を?
大瀧 自分のを。今も音が出る。
まだ。‥‥すごい、いい音なの。
こうだよ‥‥絶対、こうだと思った。
(原盤を見て)
‥‥うわぁー、すげぇーなぁ!
糸井 すごいものだねぇー‥‥
大瀧 すごいものだよ。これは!
竹松 そうですね。
大瀧 これは世界各国に出したんだよね、
ローカルカバーで。ディズニー世界戦略。
糸井 それを、船便じゃなくて
飛行機で誰かが持って来る‥‥とか、
したのかな?
竹松 カッティングさんが
持って来たんですかね?
糸井 送る方法がないもんね。
竹松 それで、日本で録ったのも、
まずレコードを再生し、
メロディー通りに歌と合唱を入れて、
さらに台詞を録ったものを編集、
そのテープをまたアメリカに輸送し
それに伴奏を付けたものを
サウンド・トラックへ焼き直すという‥‥
行ったり来たりをしていたみたいですね。
大瀧 じゃ、再生と録音と2トラックにして、
後で向こうで合わせたんだ。
竹松 ええ、そうですね。
糸井 永さんが声優をやっているなんて、
永さん自身、覚えているかなと
いうぐらいの‥‥
このメンバーでの「わんわん物語」、
見てみたいですねぇ!
さすがに、それは残っていないんですか。
竹松 でも、この間来られた方が、
「あると思いますよ」なんて言っていたので。
糸井 どういう関係の人ですか?
竹松 字幕文化の研究をしているかた。
‥‥“パチ文字”って、ありますよね。
大瀧 パッチ?
竹松 字幕の手書き文字のことをカタカナで
“パチ字幕”と言うんですって。
大瀧 フランスの一番最初の映画会社が
「パテー」というんだけどね。
横田永之助が輸入してきた映写機の会社は。
竹松 そうなんですか。
大瀧 それと“パチ文字”と
関係があるかどうかは知らないけど、
この間、レトロ調の
フォントを出した会社かな?
糸井 驚くなぁー‥‥しかし、これ、
江戸時代の話をしているわけでも
なんでもないんだけど、
そういう感じになってきたね。
大瀧 つい最近の話なんだけどね。
糸井 鶏郎さんは、ディズニーを何作か?
大瀧 鶏郎さんは、飽きっぽいから、
一回やって、「あ、こんなものか」と
思ったんじゃない?
竹松 5作、三木鶏郎が続き、
「シンデレラ姫」では、
田村幸彦さんが日本語版監督を
務めることになりました。
大瀧 本家に戻したんだね。それね(笑)。
糸井 そうだよね。
 
いつでも聴けるトリローラジオ
音が聞こえないときはこちらへ!
『鉄人28号』
作詞・作曲:三木鶏郎
歌:今野英明・畠山美由紀・高野寛・首里フジコ
 
再生して音が出るまでにしばらく時間がかかります。
(つづきます!)

2006-01-13-FRI
デザイン協力:下山ワタル
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