大瀧詠一さんとトリロー先生の話を。
(左から)大瀧詠一さん、糸井重里、竹松伸子さん、大森昭男さん
はじめに(予告編)

ほぼにちわ!
三木鶏郎、といっても
「だ、誰‥‥?」というかた、少なくないと思います。
これからゆっくりと(たっぷりと)鶏郎さんのことについて
語っていく予定なのですが、
まずきょうはイントロダクションとして
鶏郎さんの「仕事の歴史」を、
ざっと知っておいていただけたらと思います。

三木鶏郎(みき・とりろう)さんは
大正3年に東京に生まれ、
平成6年に80歳で亡くなった音楽家です。
彼が世の中にその名を知られるようになったのは昭和21年。
戦後の、焼け野原になった日本に、
NHKラジオを通じて、コントと音楽を重ね合わせた
「冗談音楽」を発表し、旋風を巻き起こします。
政治風刺を折り込み、GHQに睨まれながらも
『歌の新聞』『日曜娯楽版』『ユーモア劇場』
名前を変えながら8年間続いたその番組は、
最高聴取率が90%だったとも言われる怪物番組で、
つまりは日本中が鶏郎さんの作品を
浴びるように聴いていた時代があったのです。
晩年の三木鶏郎さん
番組からは「三木鶏郎グループ」が誕生、
そこには三木のり平さんや丹下キヨ子さんらがいました。
そのころ結成した「三木鶏郎楽団」にも
ジョージ川口さんら、多彩な音楽家がいて、
鶏郎さんを中心としたチームは、
放送の世界から、舞台や映画にまで、
音楽をメディアに、活躍の場を拡げていきます。
森繁久彌さんらが歌った「僕は特急の機関士で」ほか
宮城まり子さんの「毒消しゃいらんかね」
中村メイコさんの「田舎のバス」
そのころの鶏郎さんの作詞作曲による大ヒットソングです。

1951年に民放がはじまり、
鶏郎さんに依頼がきたのがコマーシャルの仕事でした。
日本初のコマーシャルソング、
小西六(現在のコニカミノルタ)の
「僕はアマチュアカメラマン」は、そうして生まれます。
作詞作曲、というよりも、
商品を宣伝するすべてについて
深くかかわり、多彩なアイデアを出した鶏郎さんは、
ここからCMの世界でたいへんな活躍をすることになります。
「♪明るいナショナル」
「♪ワ・ワ・ワ 輪が3つ」
「♪くしゃみ3回ルル3錠」
ある程度の年齢のかたなら
ぱっとメロディが浮かぶこんな曲も、
鶏郎さんの企画であり、作詞作曲です。
音楽家でもあるけれどコピーライターでもあり、
商品開発にまでかかわった鶏郎さん。
ちなみに鶏郎さんが手がけたコマーシャルソングは、
生涯で380余曲におよぶということです。

1954年にはディズニーが日本で
「ダンボ」を公開するさい、
鶏郎さんに日本語版音楽監督を依頼します。
その後「わんわん物語」など
5本のディズニー作品を手がけますが、
このあたりの経緯については本編で詳しく語られますので
ちょっと省略しますね。

テレビ番組のテーマソングもつくりました。
おそらく30代以上の人なら、再放送もふくめ、
テレビで「トムとジェリー」を見たことがあると思いますが、
この「♪トムとジェリー 仲良く喧嘩しな」
というテーマソングは、
アメリカの曲を訳したものではなく、
日本でのテレビ放映にあたって、
鶏郎さんが詞・曲ともに書き下ろした
オリジナルソングなんですよ。
ほかにも「♪ビルの街にガオー!」と始まる
「鉄人28号」
「♪吠えろジャングルで レオ レオ レオ」と始まる
「ジャングル大帝・進めレオ!」も、
鶏郎さんの作詞作曲です。
湿気のない、からっとした鶏郎さんの作風は、
戦後から高度成長へといたる昭和の日本と
ぴったり歩調をあわせていたんだと思います。

そんな鶏郎さんのまわりには、
才能ある若いクリエイターたちがわんさと集まりました。
作家にキノ・トールさん、永六輔さん、神吉拓郎さん、
野坂昭如さん、五木寛之さんら。
作曲家に神津善行さん、いずみたくさん、桜井順さんら。
歌手には楠トシエさん、中村メイ子さんら。
役者には逗子とんぼさん、
なべおさみさん、左とん平さんらもいました。
鶏郎さんは、日本の放送芸能史をささえてきたチームの、
おおきな「お父さん」だったんですね。

さて──、そんな鶏郎さんの作品が、
ラジオから、テレビから、いつも流れていた時代に、
育った世代の音楽家のひとりに、大瀧詠一さんがいます。
そして、大瀧さんと同い年の、糸井重里。
このコンテンツでは、まずはじめに、
ラジオからテレビから、浴びるように
鶏郎さんの音楽がふりそそいだ時代に育ったふたりに、
音楽と広告、それぞれの道をつなぐキーパーソンでもある
鶏郎さんについて語ってもらいます!
場所は三木鶏郎さんの事務所。
年表&注釈係として、鶏郎さんの晩年の助手をつとめた
「竹松伸子さん」(竹松さんは「三木鶏郎資料館」という
ホームページも運営しています)と、
鶏郎さんの会社につとめたCM音楽プロデューサーの
「大森昭男さん」にも参加していただき、
4人でのにぎやかな座談会になりました。
(ちなみに「はっぴいえんど」解散後、
 最初に大瀧さんをCMソングに起用したのが大森さん。
 その大森さんと組んでたくさんのCMをつくったのが
 糸井重里です。)
その連載は、12月21日ころから、はじめる予定です。
さてさて、その前に!!
「鶏郎さんの音楽は聴いたことがない」という人も
多いと思いますし、「あらためて聴いてみたい」と
思っているかたもいらっしゃることでしょう。
おしらせが、ふたつあります。

まずはコンサート。
じつはこの12月16日、17日、18日の3日間、
銀座の博品館劇場という、座席数が約300のちいさな劇場で、
鶏郎さんの音楽を「子や孫」の世代にあたる音楽家たちが
まるで往年のラジオ・ショーのように演奏する
コンサートが開かれます。
鈴木慶一さん、細野晴臣さん、ハナレグミ、坂本冬美さん、
鈴木惣一郎さん、高野寛さん、畠山美由紀さん、
今野英明さん、首里フジコさん、湯川潮音さん、
小池光子さん、奈歩さんらの出演による
「Sing with TORIRO 三木鶏郎と異才たち」です。
最終日の夜は完売とのことですが、
ほかの回はまだ席があるようですので
都合のあうかたはどうぞご検討くださいね。
(くわしくは上記リンクからどうぞ)
また、このコンサートを記念して
『三木鶏郎ブック』という
公式ビジュアルブックが発売となります。
「ほぼ日」のこのページといっしょに
読んでくださると、うれしいです。

そしてもうひとつ。
往時、まだラジオが生放送が主流だったころに活躍した
鶏郎さんへのオマージュとして、
「ほぼ日」がストリーミング配信で
「いつでも聴けるトリローラジオ」
開設します!
ここでは、トリローさんのいろんな楽曲をはじめ、
上記のコンサートの模様なども
生ではありませんが、おとどけできるよう準備中ですよ!
どうぞお楽しみに〜!

2005-12-16-FRI
デザイン協力:下山ワタル
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