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鳥越俊太郎の「あのくさ こればい!」

第609回

ほぼ日編集部様

10月15日のニュースから

昨日に続き今日も驚かされました。
自分になじみが深い会社がある日突然倒産という
記事を読まされる身になってください。
昨日は「ポラロイド」でした。
で、今日は朝刊はお休みなので夕刊からですが、
朝日の2面にこんなベタ記事があるのを発見、
ええっ?!ですね。

「洋菓子のヒロタ 民事再生法申請」

洋菓子のヒロタ(本社・神戸市)がなんと倒産だという。
あの「ヒロタのシュークリーム」だよ。
負債総額50億円だそうだ。
この会社は1921年創業ということらしい。
1921年ということは大正10年ということだから、
随分古い会社だ。
全国に店はあるようだが、やはり本社が神戸にあるように
東京というより関西でなじみのある洋菓子店だった。

私がなぜここまで
「ヒロタのシュークリーム」にこだわるかというと、
私には忘れられない思い出があるんですばい。
その辺の話は今回PHP新書で出版した本
(『ニュースの職人 「真実」をどう伝えるか』)の中に
書いていますが、さわりをちょいと紹介しておくと、
私がまだ30チョイ過ぎのころの話です。

当時、私は毎日新聞の新潟支局から
大阪本社に転勤になった後、岸和田通信部勤務を経て、
1972年春から
大阪府警捜査2課担当になったころの話です。
私は新潟支局勤務時代は支局の先輩記者から
「鳥越君は警察は回らなくてもいいよ」と
事件記者落第のらく印を押されていまして、自分でも
「おれは警察は向かないんだ」と
思い込んでいたところがありました。

それが、1972年春から大阪府警担当の
キャップになったばかりで、私の尊敬する先輩、
F記者から電話がかかってきました。
「鳥ちゃん、君なあ、大阪府警に来てくれや」
彼の下で捜査2課をやってくれという話でした。
しかし、先に書いたように私は自分は
警察回り(警察担当)は落第だと思っているものですから
「いやあ、僕にはダメですよ」と
断ったほどです。

ま、結局は私はその72年の春から
大阪府警の捜査2課担当記者になったわけですが、
私の前任者時代に、ある汚職事件について一部を
捜査着手前に毎日新聞に書いたために事件が潰され、
以来大阪府警の捜査2課の中では
「毎日は危ないでぇ・・・・」
という声が囁かれていたそうです。

でも、捜査が始まる前に捜査情報を少しでも漏らしてくれる
ネタ元(情報源)を一つでも作らねばと必死で夜回り
(夜に刑事さんの自宅を訪ね、
役所では絶体に漏らしてくれない情報を
何とか自宅でそっと聞き出そうというものです。)に
精を出していました。
こういう作業を業界では
「夜討ち朝駆け」
と呼んでいます。

その夜討に行くとき先輩記者の見様見まねで
私も自腹を切って当時はかなり高価だった
サントリーウイスキーの
「オールド」(通称ダルマ)を買って
「N」という捜査2課のある巡査長の自宅を訪ねました。
そこで名刺を渡して挨拶したのはいいんですが、
持っていったウイスキーを渡そうとしても
彼はなかなか受け取らないんです。
それはそうなんですね。
捜査2課というのは公務員の贈収賄を
取り締まっているところですから、
自分がウイスキーを貰って情報を漏らせば、
これは立派な贈収賄になるわけですね。

じゃあ、警察官が新聞記者から
何も手土産を受け取らないかというと、
それはそんなことはなくて、大体は受け取るんです。
まあ、渡し方が大事なんですね。
私の場合ははじめて会っていきなりウイスキーですから
警戒されたんでしょうね。
で、N巡査長と玄関で「受け取ってください」
「いやダメです」の押し問答の末、
私は玄関の下駄箱の上に
「ダルマ」を置いて帰ってきました。
で、翌朝、大阪府警の毎日新聞のボックスに行くと、
Fキャップが怖い顔しています。
「鳥ちゃん、あのなあ、夜回りにウイスキー持っていって
 突き返されたんは君が初めてやでえ」
見ると、キャップの机の上に昨晩私が置いてきた
「ダルマ」が鎮座しているんです。
わー、こりゃいかんわ。
人のまねして何にも自分で考えないでやると、
こういうことになるんだなあ・・・・
これからは達成すべき目標をちゃんと考えて、
それにはいちばんいい方法は何か、
自分の頭で考えないといけない・・・・

そういう私にとっては恥ずかしい失敗の果てに出てきたのが
「ヒロタのシュークリーム」
だったのです。
刑事さん本人は酒が飲めるというので
ウイスキーを喜ぶんですが、
奥さんは必ずしも喜んではいない。
そういう事実が見えてきたのです。
刑事という職業はかなり過酷な仕事なんですね。
だから酒を飲むんですが、その結果
過労と酒の飲み過ぎが重なって
多くの刑事さんが肝臓の病で亡くなっていきました。
刑事さんの奥さんも賢い人は
その辺の因果関係を知っているんですね。
だから「ヒロタのシュークリーム」は喜ばれたんです。
第一、一箱でも500円も出せば
相当大きいのを持っていくことが出来ました。
安上がりだったんですね。

そのヒロタが倒産とは・・・・・
私の青春が壊れていくような気がしますばい。

昨日の「ポラロイド」といい、
今日は「ヒロタのシュークリーム」かあ・・・・・・・

やや感傷的な気持ちで
時の流れを受け止めかねている私ですが・・・・・
ここで寝ましょう。
また明日午前5時起きで
マリナーズ対インディアンズの最終戦だ。


鳥越さんがキャスターをされている
「ザ・スクープ」サイトはこちらです。
http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/
放送をインターネット上でも見ることができますよ!



ニュースの職人 「真実」をどう伝えるか
著者:鳥越俊太郎
PHP研究所
本体価:¥650
10月17日発売!




「そのニュースちょっと待った!」
著者:鳥越俊太郎
PHP研究所
本体価:¥1080
ISBN:4569616747



「鳥越俊太郎のあのくさ、こればい!」
著者:鳥越俊太郎
プラネット出版 2000/10出版 19cm 413ページ
本体価:¥1,480
ISBN:4939110087

2001-10-16-TUE

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