『東京人』物語。──雑誌『東京人』の高橋編集長と語る、雑誌のこと、東京のこと。──

みなさんは『東京人』という雑誌を知ってますか?

毎号、ちょっと変わった視点から
東京の隠れた魅力を発掘していく月刊誌で、
今年で創刊31年目を迎えたそうです。

ちなみに、過去の特集をみてみると、
木造建築、凸凹地形、特撮、ヤミ市、
中央線、江戸吉原、団地、アウトロー、
東京35区、山の手100名山、などなど、
もう、気になるワードだらけです‥‥。

ほぼ日の東京特集・第11弾は、
そんな『東京人』の高橋栄一編集長と、
『考える人』の編集長を務めた
「ほぼ日」の河野通和による編集者対談を、
全5回にわけてお届けいたします。

テーマは、もちろん「東京」です。

第3回 アウトロー、墓地、江戸吉原。


河野
『東京人』の数ある特集の中でも、
僕のお気に入りは
「芸者さんに会いたい」なんです。
高橋
あれはすごく評判が良かったです。
あの特集の中には、
芸者さんを料理屋に呼んで、
酒飲んで、ごはん食べて、
いくらお金がかかるとか、
そういう発想を入れていません。
写真
河野
そうそう、僕もそこに驚きました。
新橋、赤坂、神楽坂、浅草といった
花街のメカニズムや「芸者」という職業に
フォーカスした特集でした。
高橋
誰かが言ったんでしょうね、
「お座敷遊びじゃない」って。
あの特集は僕にとっても新鮮でした。
河野
小説家の色川武大さんが表紙の
「アウトロー列伝」も面白かった。
高橋
その特集も人気でした。
アウトローと呼ばれる人たちって、
やっぱりどこか魅力があるんですよね。
写真
河野
アウトローの人たちは、
取材に協力的だったんですか?
高橋
あのときは、生きてる方は
取り上げてなかったと思います。
河野
あ、そうかそうか。
高橋
で、メインの対談が、
フランス文学者の鹿島茂さんと
元外交官の佐藤優さん。
河野
2人ともアウトサイダー、ですね(笑)。
高橋
そもそもこの特集は、鹿島茂さんの
「アウトローは法律に従わないやつじゃなく、
法律に守られない人間を言うんだ」
という言葉がきっかけなんです。
それに当てはめて考えてみると、
アウトローのまた別の顔が見えてきて、
すごく面白い特集になりました。
河野
高橋さんから見て、
特に思い入れのある特集は?
高橋
ここにお持ちした中では‥‥、
あ、これはすごく好きです。
写真
河野
墓地ですか?
高橋
これまでの墓地紹介って、
「ここに誰々のお墓があって、
その人はこういう人で‥‥」
という“個人”としての故人の
紹介ばかりなんですね。
でも、これは「墓地で紡ぐ」
っていうのがポイントで。
河野
墓地で紡ぐ。
高橋
例えば、雑司ヶ谷霊園には、
ケーベル、小泉八雲、夏目漱石
のお墓があるんですが、
その3人を軸にしながら、
「日本人の宗教観を語る」
というようなことをしたんです。
夏目漱石と小泉八雲の関係性など、
同じ場所で眠る人たちで
ストーリーをつくってみようと。
漱石でいえば、
彼が愛したと言われる大塚楠緒子の
お墓もここにありますから、
別のストーリーもつくれます。
写真
河野
あ、それは面白い。
高橋
駒込にある染井霊園では、
宮武外骨、野村文夫、高田早苗たちの
お墓を取り上げながら
「明治ジャーナリズムの興亡」
について語ってみるとか。
河野
ああ、いいですね。
高橋
これは野心的だったんだけど、
あまりうまくいかなかった(笑)。
河野
あんまり売れなかった。
高橋
一方、非常に反応が良かったのは‥‥。
河野
はいはい、江戸吉原だ。
写真
高橋
これは非常に売れました。
このときは我々の
欲求不満が出たというか‥‥。
いや、吉原で欲求不満というと、
誤解されてもいけないのですが(笑)。
河野
(笑)。
高橋
実は、東京都がスポンサーだったときは、
吉原の特集ができなかったんです。
河野
え、それはなぜ?
高橋
女性の人権問題もありまして、
議会で云々とかで。
河野
そうかそうか、なるほど。
写真
高橋
吉原なしで江戸東京文化を扱ってたのが、
東京都が予算を
つけてくれていたときの『東京人』。
その時代が16年くらいありました。
河野
じゃあ、江戸東京博物館は
いまも吉原を取り上げられない?
高橋
吉原そのものは
取り上げていないはずです。
芝居小屋を復元して、
そこに歌舞伎「助六」の助六と揚巻を配し、
その脇でひっそりと吉原を垣間見る‥‥。
河野
ああ、そうでしたか。
じゃあ、ここでその積年の恨みを‥‥。
高橋
そう、恨みを晴らした(笑)。
河野
江戸東京文化を語るのに
吉原ヌキってのは、
なかなか辛いものがありますね。
高橋
それで、念願の江戸吉原で完売。
河野
それは良かった。
高橋
それで気を良くして、
結局、江戸吉原だけで
パート4ぐらいまで出しました。
河野
すごい(笑)。
高橋
パート4でも売れ行きは良くて、
まだまだやりたかったのですが、
取り上げるネタのほうが、
先に尽きちゃいました(笑)。

<つづきます>

2017-08-26-SAT

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