『東京人』物語。──雑誌『東京人』の高橋編集長と語る、雑誌のこと、東京のこと。──

みなさんは『東京人』という雑誌を知ってますか?

毎号、ちょっと変わった視点から
東京の隠れた魅力を発掘していく月刊誌で、
今年で創刊31年目を迎えたそうです。

ちなみに、過去の特集をみてみると、
木造建築、凸凹地形、特撮、ヤミ市、
中央線、江戸吉原、団地、アウトロー、
東京35区、山の手100名山、などなど、
もう、気になるワードだらけです‥‥。

ほぼ日の東京特集・第11弾は、
そんな『東京人』の高橋栄一編集長と、
『考える人』の編集長を務めた
「ほぼ日」の河野通和による編集者対談を、
全5回にわけてお届けいたします。

テーマは、もちろん「東京」です。

第2回
				なぜ「東京の地形」は面白いのか?


河野
いつも思っているんですが、
『東京人』は特集の切り口が
ほんとに面白いんですよね。
高橋
ありがとうございます。
河野
たしかに東京にはいろんな表情があるけど、
よくタマがつきないなと。
写真
高橋
それはやっぱり「東京」だからです。
河野
地方都市だと難しい?
高橋
と、思います。
例えば、デパート特集をやるにしても、
東京の場合は10年ぐらいで
売場だけじゃなくて
デパートそのものが変化します。
だから、デパートならデパートで
10年に1回は特集ができるんです。
河野
雑誌の「読書特集」みたいに(笑)、
いくら定番をあつかっても、
中身が勝手に変わってくれる。
高橋
僕らの頭の中が同じでも、
まわりが勝手に変わってくれる(笑)。
これは東京で雑誌をつくるときの
アドバンテージだと思います。
写真
河野
『東京人』という雑誌は、
そうした特集を専門家とつくることで、
「東京のジャーナリズム」の役割も
担ってきたように思うんです。
東京のスリバチ地形をあつかった
「東京凸凹散歩」もそうですが、
いまの地形ブームにも
けっこう貢献してますよね。
高橋
ただ、特集のタイミングというのが、
なかなか難しくて‥‥。
ブラタモリに先駆けて出した地形特集は、
全然ダメだったんです。
河野
え、売れ行きが?
高橋
ぜんぜん売れなかった。
でも、最近出した地形ものは
2号続きでほぼ完売。
やっぱりタイミングなんでしょうね。
写真
河野
でも、東京の地形というのは、
やっぱり面白いですよ。
高橋
そう思います。
なぜ東京の地形が面白いかといえば、
それは、いくら頭でわかっていても、
実際に目で確認できないからなんです。
河野
ああ、そうか。
みんな建物にかくれちゃって。
高橋
そうなんです。地形が建物で見えない。
さらに、東京は交通機関が発達しているので、
日常的に足で地形を感じることが
あんまりないんですよね。
だから、雑誌の特集でも
「地形がわかれば街のつくりがわかる」
というのをやりますが、
そんなこと江戸や明治の人からすれば、
地形を利用したり、あるいは地形に無理なく
都市をつくるなんて当たり前のことで、
むしろ地形に逆らってたら、
そっちのほうが面白いぐらい。
河野
街が複雑になりすぎて、
当たり前が見えなくなってるわけだ。
写真
高橋
そう、当たり前が見えない。
だから、その当たり前を発見すると
ちょっとうれしくなるんです。
河野
都市開発で風景がどんなに変わっても、
実はもともとの地形や道って、
ほとんど同じなんですよね。
後藤新平の「昭和通り」とか
虎ノ門の「マッカーサー道路」とか、
ああいうのはまた別の話ですが。
高橋
鉄道の「線路」なんかもそうですね。
2013年8月号で「古道特集」をしたんですが、
東京の古道は「線路」が分断してるから、
つながりがわかりにくい。
河野
JRの「中央本線」なんて、
山梨県から東京駅まで横断してますからね。
高橋
だから、地図上で線路を取ってみると、
古道沿いの神社やお寺の
連続性がよく見えてきます。
河野
そういう話って、
ふだん東京で生活する人には
無用な知識かもしれないけど、
教えてあげると、
みんなよろこびますよね。
高橋
だと思います。
それがお金になるわけじゃないけど、
飲み屋で話すときのネタにはなる(笑)。
河野
うん、つい話したくなります。
写真
高橋
『東京人』のキャッチフレーズにある
「都市を批評し、都市を創る」というのも、
実は本格的に批評するとかではなく、
「ちょっと飲み屋で話したくなる」という、
大衆性みたいなところも大切にしてます。

それこそ『東京人』から
「都市を創る」まで考えるなら、
まずは東京という街に関心を持たないと、
批評することもできないと思うんです。
河野
なるほど。
高橋
例えていうなら、
有名なオーケストラが存在する都市には、
それだけ耳の肥えた聴衆がいるわけで、
ダメな演奏をしたときに、
聴衆が「これは良くない」と
ちゃんと批評するからこそ、
演奏者も成長することができる。
街づくりでもそうした関係性が
つくれたら理想的ですね。
河野
地元ファンや地元っ子の存在って、
街の魅力に大きく影響しますからね。

<つづきます>

2017-08-25-FRI

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