東北の仕事論。続続・八木澤商店篇
 
第5回
誰でもはたらける環境を創りたい。

河野 東北は、震災の「復興」が終わったとしても、
当面は「人手不足」なんです。

「人口減少」という問題が残りますので。
糸井 ええ。
河野 だから、新しい町をつくるうえで
「どんな人でもはたらける、環境の整備」が
はやく必要だと考えているんです。
糸井 ぼくも、すごく、そう思う。
河野 シングルマザーや障がいのある人、
80代のお年寄りでも
元気に、安心して
はたらけるような環境をつくろう、
という構想を
アイエスエフネットの渡邉幸義社長と、
いま、一緒に考えているんです。
糸井 へえ、おもしろそう。
河野 渡邉さんのアイエスエフネットでは
「25大雇用」と言って、
ニートやフリーター、シニアや無戸籍の人など、
うまく社会に入り込めない
さまざまな境遇の「25」の項目を挙げて
その「25項目」に該当する人を雇用するという
活動に、取り組んでいるんです。
糸井 はたらく「意思」はあっても
はたらけない「境遇」の人がいる、と。
河野 すでに「3000人」を雇用していて、
今年は「4000人」に届くそうです。
糸井 動かすことで、流していくという考えですね。
河野 そう、やっぱり「はたらく」ということです。

社会で必要とされている、
自分もあてにされているんだと思えることで
自立していける環境をつくれたら、と。
糸井 いまの話をうかがっていても思うんですが
アイデアのある企画は
ほっといたって動いていくし
ノーアイデアだと、きちんと滞りますよね。

国の仕事だって言ったって
全体的に「ソフト産業」の意識がなければ
止まっちゃいますから。
河野 このあいだは
手芸がすごく上手な93歳のおばあちゃんを
雇ったって聞きました。
糸井 ああ、いいですね。
「いっしょに立とうよ」ってことですよね。
河野 そうです。
糸井 ぼくが知っている範囲で、さすがだなあ、
足に地が着いてるなあと思うのは
クロネコヤマトの先代の小倉社長がつくった
障がいのある人たちのパン屋さん。
河野 スワンベーカリー。
糸井 あれ、口先だけでああだこうだ言うのとは
まったくちがうレベルで、
走ってるな、突き抜けてるなあと思います。

でも、今のアイエスエフネットさんの話は
本当にすごいことですよね。
しかもそれが、東北ではじまるというのは。
河野 もちろん、厳しい面だってあります。

自分の給料は
自分でちゃんと稼ぎ出すんだぞって言うし、
いま、あなたの労働はこういう状態だと
きちんとわかってもらうこともしますしね。

労働の「対価」としての賃金だってことを
成り立たせなかったら、長続きしないから。
糸井 うん、うん。
河野 ですから、訓練が必要な人たちについては
ふつうにやってたんでは
3万円、4万円の賃金なんですけど
かならず最低賃金は
もらえるようになるからと励まして、
トレーニングをするんです。

逆に、最低賃金をもらっている人たちも、
きちんと仕事をやらなかったら
3万円、4万円のころに戻っちゃうよと。
糸井 そこは徹底してるんですね。
河野 そのかわり、
ちゃんと仕事ができるようになった人は
どんどん外に紹介して、
より給料のいい職場に転職してもらう。
糸井 そういう人が、4000人いるんですか。
河野 もう、ちっちゃな町くらいの規模ですね。

キックオフのシンポジウムのときは、
陸前高田の市役所に、
本当に、たくさんの人が来てくれました。
自分たちにも
はたらく可能性があるんじゃないかって。
糸井 すごいなぁ。
河野 でも、将来的には人口減少といういよりも
じつは「資源枯渇」のほうが
地球的規模で考えたら、よっぽど怖いと思う。

人口が減少するということは、
人口一人あたりの「資源」は増えますから
それを大切に守る体制さえ整えれば、
人が少なくたって
持続可能な社会はつくれると思うんですよ。
糸井 なるほど。
河野 海に宝があるとは、よく言われますけど、
宝って意味では「森林」もすごいんです。
糸井 東北へ行くたびに感じてますよ、それは。
河野 森林を「木質バイオマス」、
つまり
再生可能なエネルギーに変えていければ
エネルギーの自立も目指せますし。

震災後に、
「自分たちの地域のエネルギーは
 自分たちでつくりたい」
と考えた絵は、まだ生きているんです。
糸井 ああ、おっしゃってましたね。
河野 エネルギーと食料が自給自足ができて、
誰もが必要とされる、
そういう職場のある環境をつくり出す。

そうできれば
黙っていても人口は増えると思います。
糸井 うん。
河野 陸前高田の人口の「自然減」って
毎年、けっこうな数になるんですけど
「社会増」なんです。

つまり、若い人たちが増えてるんです。
糸井 それは、戻ってきてる人たち?
河野 いえ、外から入ってきた人たちですね。
結婚して
陸前高田に住むって決めた人たちです。
糸井 そういう人たちは
河野さんたちの「なつかしい未来創造」を
媒介にしてるんですか?
河野 いえ。そういうケースが無数にあるんです。

<つづきます>
2015-03-17-TUE
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