ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 福島 大木代吉本店 篇
セキュリテ被災地応援ファンドのこと 八木澤商店の河野通洋さんに誘われて、 福島県の酒蔵、 大木代吉本店の大木雄太さんを訪ねました。 震災で、14棟あった蔵のうち5棟が全壊。 翌日、壊れた蔵に戻ると わずかに残った「もろみ」の発酵する音が こだましていたそうです。 幸い、みなさん無事だったこともあり 放射性物質の検出されていない 安全な原料を使って、生産を再開しました。 取材では、河野さんのほか、 奥州市でバイオエタノールの研究をしている 酒井里奈さんも同席くださり、 「売れ筋の淡麗辛口とは真逆のお酒に  こだわってきた理由」から 「微生物という生きものを相手にする仕事の  おもしろさと、むずかしさ」まで 興味深い話を、いろいろとうかがいました。 大木さんのつくるお酒は 「うまみ」にこだわり抜いているため、 「銀座の寿司屋のお品書」に並んでしまった 「料理酒」なんてのも、あるんだとか‥‥。 担当は、あまり飲めない「ほぼ日」奥野です。
第1回 銀座の寿司屋の品書に載る料理酒。
── 「辺境生物学者」として知られる
長沼毅さんの著書に
「海と陸の動物の総重量を100億トンだとしたら
 地球上の微生物の総重量は1兆トンを超える」
みたいなことが書いてあったんです。
大木 へぇ、そうなんですか。
── それ以来「微生物」という見えない存在が
やたら気になってしまいまして。
大木 あはははは、なるほど。
── で、そんなときに
こちら八木澤商店の河野通洋社長が
「こんど、
 福島の酒蔵さんのところに行くんですが
 来ます?」
と誘ってくださったので
こうして、勇んでおじゃまいたしました。
大木 それはそれは、ようこそ(笑)。
河野 微生物とか発酵のことだったら
何時間でもしゃべれますよね、雄太さん?
大木 ええ、毎日、付き合ってますんで(笑)。
── おお、それは楽しみです!

それじゃ、さっそくではありますが
河野さんとも、長いお付き合いなんですか?
大木 はい、微生物ほどではないんですけど(笑)、
15年くらいになりますか、もう。

八木澤商店さんには、お醤油の原料として
うちのお酒を使っていただいてるんです。
── つまり、お取り引き先という間柄。
河野 うちの醤油の加工品やタレ類の原料として
こちらの「蔵の素」という
特別な料理酒を使わせていただいています。

八木澤の店舗でも
「こんにちは料理酒」という別の料理酒を
販売させていただいたり。
── 料理酒以外にも
「自然郷」という日本酒が有名だそうですが
どういうところが、良いんですか?
河野 ひとことでは申し上げられないんですけど、
ようするに
「化学調味料を使わずに
 手間ひまかけて、おいしいものをつくる」
という、
シンプルな考えかたに基づいているところ。

添加物を使うことなく
保存性を高める工夫をされていたり、
うちと、ものづくりに対する考えかたが
いっしょなんですよね。
酒井 お魚に「こんにちは料理酒」を少しかけて
焼くだけで、
ぜんぜん美味しさがちがってくるんですよ。
── へぇー‥‥。
具体的に、お酒としてはどんな特徴が?
大木 「濃い酒」ですね。
── 濃い?
 
大木 はい、よく日本酒の飲み口を言い表すのに
「淡麗」と言いますけど
「濃い」というのは、その逆です。

つまり、わたしたちは
「濃醇なお酒」をつくろう、と‥‥。
── すみません、日本酒があまり飲めないので
ピンときていないのですが
「濃い」とか「濃醇」というと、つまり?
河野 ようするに「うまみ」の高いお酒、です。
コクがあって、
味に「奥行き」や「厚み」があるんです。
大木 しかし、現在の日本酒の主流を占めているのは
「淡麗辛口」と言いまして
これは
端的に言って「うまみを抑えた」お酒です。
── 淡麗辛口とは、聞いたことあります。
河野 有名な「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」
が良い例ですけど、
つまり「水のような酒」がよしとされていて。
── サラッと、すっきりしているお酒が。
河野 淡くて、平坦で、薄い飲み口。

業界では「そうじゃなきゃ、売れない」と
ずっと思われてきたんです。
大木 よく「磨いてなんぼ」と言うんですが、
日本酒の味の表現というのは
ずっと「消去法」でやってきました。

そこでは、許容されるのは「甘み」くらい、
その他の味や香り、「うまみ」などは
ムダでよけいなものだとされてきたんです。
── へぇー‥‥。
大木 フルーティな香りで「芳醇」と形容される
大吟醸の場合は、また別なんですけど
ともかくも「淡麗辛口一辺倒」の流れのなかで
私どもは、30数年前から
「濃醇な酒造り」をつくり続けてきました。
── あえて主流とは別の道を歩んでいる‥‥と。
大木 ええ、ですから
はじめは、なかなか売れませんでしたね。

でも、河野さんをはじめ「人との縁」で
少しずつ、少しずつ
評価していただけるようになりました。
── やはり、大木さんご自身が
そういう「濃い」お酒がお好みなんですか?
大木 ええ、よく女性にたとえるんですが
スッと切れのよい、あっさりしたお酒でなく、
かといって
華やかな、グラマラスなお酒でもなく‥‥。
── ははあ。
大木 「癒し系」が好き、といいますか(やや照れる)。
── 癒し系?
大木 つまり、ほっとさせてくれるようなタイプが
好きなんです、お酒でも、女性でも(笑)。
── はー、深い表現ですね‥‥。
でも、なんとなくわかりました。
河野 あの、雄太さん、「こんにちは料理酒」って
「蔵の素」が元になってるんですか?
大木 いえ、順番としては
「こんにちは」のほうが「先」です。
河野 いや、その「こんにちは料理酒」というのが、
また、すごいんです。

銀座の寿司屋で出してるくらいだから。
── 銀座の寿司屋?
大木 料理酒ですから
基本的には、ありえないことですけれど
銀座のお寿司屋さんで
「こんにちは料理酒 六〇〇円」と
お品書にあったんです。

あ、飲ませてるんだと思って(笑)。
── へぇー!
 
大木 私も、びっくりしてしまいましてね。

もちろん、飲めるだけのクオリティに
仕上げてはいますが
全国の名だたるブランド酒の横に
うちの「料理酒」が、並んでいたので。
── 堂々と「料理酒」って書いてあるのに
お品書に載せちゃうって、すごいですね‥‥。

でも、それくらい「おいしい」と。
大木 お店のご主人は、
気に入ってくださっているみたいです。
── 料理酒って飲めるんですか、ふつう?
大木 いま、一般に流通してる料理酒は
「安く提供する」という視点でつくられたものが
ほとんどですから、
基本的には、飲めるものはないと思います。

そもそも「不可飲処理」と言いまして、
酒税を低くするために
塩を加え、
酒として「飲めなくして」いますし。
── 「塩が入ってりゃあ
 誰も飲まないだろう」ということで、
税金が安くなる、と。
大木 そうです。
酒井 一般に「料理酒は安いもんだ」と
思われているのは、そういう理由もあります。
大木 私どもの「こんにちは料理酒」は
新しい醸造の可能性を追求しようという
強い思いがあって
いろいろ試行錯誤しながら、整えてきました。

五段仕込みをしたあとに
甘酒を加えて、味をより濃醇にして‥‥。
酒井 え、つまり「六段仕込み」なんですか!?
大木 はい。
── あの‥‥基本的なことがわかってなくて
たいへんすみませんが、
その「六段仕込み」について、教えてください。
大木 ふつう、日本酒の醸造工程では
酒母へ、麹と蒸米を、三段階に分けて加えます。

うまく発酵させるために
そうするのですが
これが一般的な酒造り、「三段仕込み」です。
── つまり、ふつうは三段である、と。
大木 私どもは、味に「濃醇さ」を持たせるため、
「三段仕込み」に
まず「麹」を加えて、さらに「酒粕」を加えて、
最後に「甘酒」を加えているんです。
── それで「六段仕込み」なんですか。
大木 はい。
── そうすることで‥‥。
河野 淡麗辛口と真逆の「濃醇」な酒ができる。
大木 淡麗辛口の場合、
尻上がりに凛として切れるんですが‥‥。
── 尻上がりに‥‥何です?
大木 つまり「すっと消えていく」んですけど、
私どものお酒は
「余韻」が、とても長いのが特徴です。
── 余韻が。
大木 ちょっと舌にざらつくような感じ、ですね。
河野 雄太さんのお酒に「うまみが強い」のには
科学的な裏付けもあるんです。

数年前、お酒に含まれるアミノ酸の量が
ものすごく多いことがわかって‥‥。
大木 そうですね、一般のお酒の3倍ぐらい。
── それも、濃醇な六段仕込み製法だから。
大木 ええ。
── 河野さんが、大木さんのお酒を
お醤油の原料に使ってらっしゃるのは、
どうしてなんでしょうか。
河野 ともかく、こんなにも「いいもの」なのに
世の中に知らせなきゃ、もったいない。

それに、
より手軽に、安くできるもののほうがいい、
という目的だけを追求していたら
日本の伝統的な醸造は、廃れてしまうので。
── なるほど、なるほど。
河野 雄太さんのところでは
手間がかかっても、伝統的な技法を守りつつ、
新しい挑戦をしている。

簡単には真似できないことだと思います。
大木 私どもも、はじめは
ふつうの「三段仕込み」だったんです。

でも、もっとよい酒を‥‥と
酵母の増殖に合わせて温度帯を変えてみたり、
いろいろ試行錯誤しているうちに
四段‥‥五段‥‥六段、と増えていきました。
── 満足できなくて、足していったと。
大木 そうですね、味のバランスを取るために。

発酵すればするほど
酵母は、どんどん糖を分解して
アルコールをつくりだしていきますから
酒は「辛く」なっていきます。

そこで、甘酒や酒粕を加えてみたりなど
いろんな要素を複合させて 
ようやく
いまのスタイルができあがってきました。
── 何年くらい、かかったんですか?
大木 今年で「発売35年」を迎えますけど
やりたいことは、まだまだ、ありますね。
── じゃあ、これからも改良を?
大木 はい、続けていきます。

<つづきます>
2012-07-19_THU
  このコンテンツのトップへ 次へ
 
 
大木代吉本店さんの日本酒「自然郷」も飲める 「ふくしま美酒体験in渋谷」が開催されます。



この連載の第2回にも出てきますが
福島県のお酒って
全国の鑑評会で好成績を収めているんです。
そんな福島の酒蔵が自慢のお酒をふるまう
「ふくしま美酒体験」が
ことしも、渋谷で開催されるそうです。
大木代吉本店の「自然郷」も飲めますので
日本酒のお好きなかたは
参加してみては、いかがでしょうか。

【開催内容】
開催日:2012年9月26日(水)
時 間:19:00〜21:00 
※受付18:30〜
場 所:セルリアンタワー東急ホテル
    〒150−8512 東京都渋谷区桜丘26ー1
    tel: 03-3476-3000

参加費:5000円(お一人様消費税込)
    立食ブッフェディナー
限 定:600名

【お申込方法】
イープラスのサイトよりお申込みください。
※ 定員になり次第締め切らせていただきます。

【参加蔵元】
大七/人気一/奥の松/笹の川/雪小町/金寶/
あぶくま/廣戸川/若清水/南郷/東豊国/白陽/
有の川/自然郷/夢心/蔵粋/喜多の華/大和川/
峰の雪/会津ほまれ/笹正宗/花春/名倉山/
会州一/辰泉/榮川/鶴乃江/末廣/宮泉/曙/
会津豊国/飛露喜/萬代芳/国権/金紋会津/
開當男山/花泉/又兵衛/太平桜/磐城壽

【主催・お問合せ】
福島県酒造共同組合 
tel: 024-573-2131
mail: info@sake-fukushima.jp

 
第1回 銀座の寿司屋の品書に載る料理酒。 2012-07-19-THU
第2回 杜氏の勘と、科学的根拠と。 2012-07-20-FRI
第3回 相手が「生きてる」ことの、おもしろさ。 2012-07-23-MON
 
セキュリテ被災地応援ファンドの ホームページは、こちら。
メールをおくる ほぼ日ホームへ (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN