その2
布を見れば、谷さんがわかる。
岩立
ずいぶん前に、
谷さんのお仕事だということを知らずに、
ヨーガン・レールのお店で、
谷さんの村の布を買いました。

非常に複雑な織りのシルクだったと思います。
もちろん値段も高かったけれど、
何でこれほどのものができるのか、
よくこれができるなと思って、感心したんですね。

どんな人がやっているのかも知らずにいたんですけれど、
もうすでに谷さんはあちら(ラオス)にいらしてから、
16年目になられる。
そんなに長くなさっていた方ということが、
私、最近やっとわかって、だんだんいろんなことが
納得できるようになったんです。

というのは、私も最初は中南米に、
そしてインドなどあちこちに行って、
手仕事というものをずっと見続けてきました。
谷さんの、たとえばこういった豆敷っていわれるもの。
どのひとつをとっても、
ふたつと同じものがないっていうのは、
もう皆さんお気づきですよね。
それはほんとうに糸からつくり、
紡いで、染めて、織った布に、
その上にまた模様を考えて、刺繍をして、
後始末はきちっとして、そのぜんぶが手仕事です。
それで、1000円という値段で売ってらっしゃる。

私にはできないなと思うんです。
これだけのものができる土壌のあるところっていうのは、
非常に少ないんですよ。

たとえば、さきほど谷さんが言われた、カンタ。
あれはちょっと時代が前だったからできたわけです。
今、同じようなカンタのできていた
バングラデシュあたりに行っても、
この豆敷のような創造性のあるものはありません。
できる人がいないからです。

だから、今はNGOのリーダーの方が、
決まったデザインを渡すんですね。
そうすれば、はずれたものは少なく、ロスがない。
けれども、そうやってできたものは、
まったく面白くないんです。
私はそういうものを、コレクションには加えません。

でも、谷さんのところのものは違う。
どういうことなんでしょう。

谷さんはしきりに、
これを売り物にしていることを
ずいぶん気にしてらっしゃるようですけど、
それ、私はちょっと違うと思うんですね。

これは共同作業でできたもので、
谷さんが関わったことで、
つくり手の人たちが変化しているんです。

私が最初に買ったものは、
もっと単純な布でしたよ。
それから見ると、
すごいバリエーションが生まれている。
これって何なんだろう?! と、
ほんとうに、私のほうがびっくりするぐらいです。

それはね、やっぱり谷さんとつくり手の
ぶつかり合いの中から
育ってくるんじゃないかと思うんですね。

谷さんは、単純に「お願い」してるんじゃ
ないと思うんですよ。
できあがった布を持ってきた時に、
いろいろ谷さんがコメントを言うに決まってる。

「ちょっとこれ、ダメじゃないの」

‥‥とまでは言わないかもしれませんけど、
なにかのコメントを言っているはずです。
で、いいときはものすごく褒める。

彼女たちにしてみたら、
いままでただ当たり前にやってた日常の仕事を、
ちょっと違う目の人が評価してくれることで、
自分の仕事をどんどんどんどん掘り下げていくような、
そんな感じがするんじゃないでしょうか。
つまり、谷さんと、ラオスの少数山岳民族の人たちは、
すごくいい出会いだったと思うんです。

生地のことを言いますとね、
一見、そんなに目立たない布です。
暑い時は涼しくて、寒い時は暖かい、
そういう実用的な布です。

ただ、見た目ではわからないんですよ。

だいたい最近の世の中では、
出来上がった表面の評価ばかりになりがちですけれど、
ほんとに、着心地っていう、
ものの本質を考え抜いて作られた布っていうことを、
まず谷さんが意識して、
作ってもらっているんですね。
そういうものが土台にあるから、
できるものがやっぱり面白いんです。

そこまで迫って、一緒に作り出せるっていう方は、
なかなかないと思うんです。

今、いろいろなところにある手仕事のなかで、
こういうものができるのは、
奇跡じゃないかっていうぐらい不思議です。
たとえば植物染料を使うといってもね、
その色を出すための素材づくりからやっているんですよ。
藍染に必要な灰汁だって手づくりです。

ラオスの布と糸のあざやかで深い色は、
こんな天然の色素で染められています。

青系‥‥‥‥藍
黄色‥‥‥‥マンゴー
赤系‥‥‥‥ラック(カイガラムシ)
茶系‥‥‥‥カーン(ラオスの樹木)
緑‥‥‥‥藍とマンゴーの組み合わせ
黒‥‥‥‥泥
だいだい色‥‥‥‥ソンプー(ラオスの樹木)
ベージュ系‥‥‥‥コイア
(ココナッツの外側の繊維)

──
岩立さんは、谷さんと初めて会ったとき、
「何も言わなくていいのよ、すべてわかるから」
と言葉をかけられたそうです。
布を見れば、谷さんのしてきたことが
岩立さんにはすべておわかりなんですね。
岩立
こういうことって、
手仕事をやる人にとっては夢の仕事なんですよ。
そういう意味では、鈴木照雄さんの仕事も、
もちろん夢の仕事です。
2016-02-04-THU
岩立広子さんが応援する
谷由起子さんのラオスの布展を
TOBICHI2で開催します。

岩立フォークテキスタイルミュージアム

第7回展
「インド北部の毛織物   ─ ヒマラヤ山麓、山の民の巻衣装 ─」

Woolen Textiles of North India 
― Wrap-around Garments in the Himalayan Mountains ―

2016年3月19日まで (期間中:木・金・土曜日 開館)

インド北部 ヒマラヤ高地、
カシュミール織物の逸品と、
ヒマーチャルプラデーシュ州の山の民の
手紡ぎ手織りの愛らしい巻衣装から、
沙漠地帯の遊牧民が陽除けのために纏うブランケットなど。
インドならではの羊毛の手仕事を見て頂きます。


岩立フォークテキスタイルミュージアム

住所: 〒152-0035 東京都目黒区 自由が丘1丁目25-13

TEL:03-3718-2461

サイト:http://iwatate-hiroko.com/index.html

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