湯村輝彦×糸井重里  ごぶさた、ペンギン!  『さよならペンギン』復刻記念 なつかしはずかし30年振り対談 湯村輝彦×糸井重里  ごぶさた、ペンギン!  『さよならペンギン』復刻記念 なつかしはずかし30年振り対談
#6 いまじゃ描けないね、もうね。 #6 いまじゃ描けないね、もうね。
糸井 復刻することになって、
あらためてこの絵本を読んでみて
気づいたんですけど、
すごく小さいんですよね、ペンギンが。
湯村 え?
糸井 こんなに主人公が小さく描かれてる絵本は
なかなかないと思う。
湯村 ああー、そっか。
糸井 主人公なのに、ぜんぜんアップなし。
なんていうか、
ずーっと、ちっちゃいんですよ。
湯村 ふふふ、ほんとだ。
ちっちゃいよな。
糸井 そういうところを
まったく気にしてないのが、
『さよならペンギン』のいいところで。
湯村 いまじゃ描けないね、もうね。
うーん、なんだろうな、
別の人が描いたような感じがするんだ。
いまは、とても描けないねェ‥‥。
糸井 これ、ぼくが最初に
ラフみたいなものを描いてるんですよね。
湯村 そう。
軽い絵コンテになってた。
糸井 あ、そうか、そうか。
だって、この見開きに
トラを描く理由ないもんね。
文章のなかに「トラ」は出てこないもの。
湯村 そうそうそう。
だから、トラを描かせたかったんだろ、オレに。
自転車じゃなくてサ。
一同 (笑)
糸井 そっかー。
たしかに、デタラメでもなんでもいいから、
コンテがなんかないと、
この文章だけでは手がかりがなさすぎる。
じゃあ、ペンギンが小さいのも
ひょっとしたら、ぼくのデタラメな絵コンテが
原因なのかもしれない。
湯村 どうなんだろうね。
糸井 どうなんでしょうね。
いまとなっては、もう、わからない。
ただ、なんだろう、
そのころって、「ウブ」っていうか、
なんにもわからないころだからさぁ、
絵本の、見開きのこのページ全体が、
すごく大きく思えたんじゃないかなぁ。
湯村 あー。
糸井 こんなにおっきくて広い場所なんだから、
「なんでも載せられるぞ」っていう気持ちが、
この背景の、この、無駄に豊かな描き方に
つながってるんじゃないかなあ。
だって、豊かですよねぇ、この本は。
湯村 そうだねェ。
糸井 広いだろう、っていうよろこびが
オレの中にもあったし、
湯村さんもあったんじゃないかなぁ。
湯村 うーん。よろこびと同時に、
口内炎と痔のくるしみも感じられるね。
糸井 (笑)
湯村 でもねぇ、これはほんと、もう描けないよ。
糸井 描けませんか。
湯村 描けない。
糸井 この波だって、なんていうか、
こんなにおおらかに描く人は
そんなにいないと思いますよ。
湯村 なかなかねぇ。
そう言われると。
糸井 高さはあるし、広さはあるし。
湯村 うん。ごまかしがない。
糸井 あー、こっちの砂浜もいい。
湯村 ざぁーっていう音が聞こえそうだよね。
糸井 うーん、いいなぁ‥‥。
このサボテンも丁寧に描いてる。
湯村 あ、このバックの赤は、
たぶん、色指定だね。
なんでここだけ指定したんだろうなぁ‥‥。
糸井 わかんないですね(笑)。
湯村 うーん、なんでだろう。
糸井 このころって、とにかく、
技法をちょっとでも変えてみたい、
みたいな雰囲気がありましたよ。
だから、そういう手法も
混ぜてみたんじゃないかなぁ。
湯村 ああ、そうネ。
糸井 やっぱり、ちょっとずつ
「裏切りたい」って気持ちがあるんですよ。
このころのぼくと湯村さんの
すごく近い関係の仕事においてさえ、
いつも「裏切りたい」って思ってませんでした?
湯村 ああ、それは、思ってた。
それがないと進めないから。
なんか裏切らないと進めないっていうね。
糸井 うん。
それはもう、ことばにして
しょっちゅう言ってましたよね。
前に進むために。
湯村 あとね、オレの励みになってたのはね、
糸井から原稿が来るじゃない?
あのころはたしか、糸井は、
オレンジ色の封筒をつかってたんだけど、
その封筒にね、かならず手書きで、
なんか書いてあるんだよ。
「てるぼうへ」とかなんとか、
ちょっとしたメッセージが。
憶えてる?
糸井 書いたと思う。
湯村 アレ、取っときゃよかったなと思ってねぇ。
糸井 書いたんだろうなぁ。
湯村 それはなんかね、愛の瞬間みたいな感じ。
糸井 いや、そうですよね(笑)。
湯村 それもらうと急にやる気になってきてさ、
やるぞーみたいな感じで。
糸井 いや、ぼくらはホモじゃないけど、
愛の瞬間ですよ。
湯村 ネ。
糸井 やっぱりそうですよ、それは。
湯村 ちょっと絵が入ってたりとかしてさ。
糸井 仕事も、そういうやり取りも、
うれしくてしょうがないんですよね。
湯村 うれしいんだよ。
で、もらうと、オレもうれしい。
ちょっと硬い紙の封筒でね。
しばらくそれは溜めてあった。
で、自信がなくなるとそれ見たりして。
それは、なんかね、いいものだったね。
弱ってるときに、励ましてくれたりとかね。
手書きの文字でさ、こう、スッと入ってる。
糸井 黙って渡せないんでしょうね。
なんか、思いがあるんですよ、きっとね。
湯村 それはね、だから、オレも、
人にはそういうふうにするようにしてる。
いまも、ひと言、入れたりして。
それ、面倒くさいことじゃないと思うんで。
そういうのがあるかないかで、
気持ちが、ずいぶん違うよね。
糸井 違いますね。
湯村さんがテリー・ジョンスンマークを
原稿に添えてくれるのも、うれしかったですよ。
タバコくわえてるリーゼントのおにいさん
みたいな絵があって、「テリー」って書いてる。
湯村 ああ、そうそう。
糸井 あれは、いまあってもいいですね。
描いたらどうですか、いま。
湯村 そうねェ、うーん‥‥
いまだとリーゼントじゃなくて、
ちんぽこの先みたいな頭になっちゃうなァ。
糸井 (笑)
2011-04-06-WED