湯村輝彦×糸井重里  ごぶさた、ペンギン!  『さよならペンギン』復刻記念 なつかしはずかし30年振り対談 湯村輝彦×糸井重里  ごぶさた、ペンギン!  『さよならペンギン』復刻記念 なつかしはずかし30年振り対談
#4 ほんとに貴重な本なんだ。 #4 ほんとに貴重な本なんだ。
糸井 湯村さんの世界は、
変わらず、エロティックで。
湯村 そうだねぇ。
あのころから、いままで‥‥。
糸井 ずーっとエロティックでした。
湯村 だって、エロじゃなかったらさ、
『さよならペンギン』を指さしながら)
こんなかわいい絵本は出せなかったよ。
糸井 ああーー、そうですねぇ。
湯村 どっちにしろ、純粋だってことでさ。
糸井 ははははは。
だから、わかりやすいエロの部分は、
(壁の大きなグラフィックを指さしながら)
こういう仕事でぜんぶ済ませちゃって、
のこった純粋さで
ペンギンの絵を描いてたんですかね。
湯村 これは、純粋無垢だよ。
なんていうの?
もう、澄んだ目で描いてる。
糸井 ははははは。
湯村 この本ね、復刻するって聞いて、
探したんだけど、見つからなかったんだよ。
そうそう、最初にソフトカバーで出て、
ちょっとあとでハードカバーで出たんだよな。
糸井 そうですね。
で、気がついたら、この本が、
ぼくが自分の名前で出した
「はじめての本」だったんです。
湯村 へーー。
糸井 だから、これ、
本としてはデビュー作なんです。
湯村 そうなんだね。
(本をぱらぱらめくりながら
 あとがきの写真を見つけて)
ああ、ここ、「美人喫茶」だ(笑)。
糸井 サンジェルマン(笑)。
湯村 サンジェルマンね。
当時の伊勢丹、いまの丸井のところに
ドーンとガラス張りの喫茶店があって、
美人のウエイトレスがいっぱいいてさぁ。
ここで、日がな一日、こうやって、
コーヒー飲んで打ち合わせ。
糸井 そうそう(笑)。
湯村 「行かない?」って電話かかってくるから、
ここで待ち合わせて。
ずっとふたりで話してると、そのうち、
コーヒーがどんどんタダで出るようになってネ。
そのうちサンドイッチとか
頼まないのに出てきちゃったりして。
いい思いしたよね(笑)。
糸井 それも湯村さんなんですよ。
だから、とにかく、モテるんだよ。
湯村さんといると、こっちもモテてる。
湯村 いや、これ、いい写真だねェ。
なんか、ぜんぜん、
いやらしいこと考えてない感じだね。
糸井 考えてない?
湯村 考えてないよ(笑)!
もう、純粋に、
かわいいペンギン描かなきゃなって。
糸井 ふふふふふ。
あの、この『さよならペンギン』を
つくってるときのプロセスは、
ぼくはわりと記憶があるんですよ。
というのは、ぼくがことばを描いて、
湯村さんに渡したあと、
絵が1枚できるごとに、ぼくは見に来てたんです。
湯村 そうだったっけ。
できたぞー、みたいなこと?
糸井 そうそう「1枚、できたよ」っていうから
うれしくなって見に行くんですよ。
で、どんどんよくなっていくの。
「つぎも、また、いいからネ」って
湯村さんが言うのにつられて、見に行くの。
さぞかし、いいんだろうなと思って来ると、
また、ほんとに、いいわけですよ。
湯村 そっか(笑)。
糸井 当時は湯村さんがあの新しい絵の具を
憶えたばっかりのころで。
絵の具の、リキテックスじゃなくて‥‥。
湯村 ガッシュね。
糸井 ガッシュか。
湯村さん、その画材がまだめずらしいから
たのくてしょうがないんですよね。
湯村 そうなんだけどさ。
チューブから絵の具をこう出して、
汚れたら洗って取り替えて、
みたいなことをやってるうちに
だんだん面倒くさくなってきてさ。
糸井 (笑)
湯村 あとね、描いてるうちに、
ひどい口内炎がいくつもできちゃって。
糸井 あー、そうだそうだ、そうだった(笑)。
湯村 もう、口が閉まんなくなっちゃって。
開けっ放しの、腫れ腫れで。
すぐによだれ出ちゃうわでさぁ、
おまけに、痔じゃない?
一同 (笑)
湯村 上からよだれ、
下から血を垂らしながらさぁ。
それで、絵の具が、面倒くさい。
糸井 はははははは。
湯村 這いずり回りながら描いたの。
それでもうね、
こんな、つらいのヤダと思って、
やめちゃったから、
絵の具は、これ一回だけ。
糸井 そう、やめたんですよね。
湯村 もうガッシュやめちゃったの。
それでサインペン。ラクな方を選んだの。
糸井 だって、湯村さんの絵の具って、
この『さよならペンギン』以外に
見たことないですもん。
湯村 ないでしょ。これだけだよ。
たしか「デザイン」っていう雑誌の表紙に
一回だけつかったかな。でも、それだけ。
本になってるのなんて、間違いなくこれだけ。
糸井 うん。ないですよね。
湯村 ないね。
だから、オレの作家人生の中で
ほんとに貴重な本なんだ、じつは。
糸井 あのころの湯村さんってさ、
ちがった画材や新しい方法で、
「違った自分の味」が出せるなら、
なんでもうれしそうに取り入れてたよね。
湯村 そう。
糸井 ぼくがあるとき筆ペンでなにか書いてたら、
「なにそれ?」って言って
すーぐ、それで絵描いたりさ。
湯村 そうそう。
だから、『ペンギンごはん』のほうは、
筆ペンで書いてるんだよね。
「ヘタうま」っていうコンセプトも
じつは『ペンギンごはん』あたりから
はじまってる。
糸井 仕事のはじまり自体は、
『さよならペンギン』よりも
『ペンギンごはん』のほうが先で。
あのころから、
ヤケなんだか自由なんだかわかんない、
みたいなところに
ガーッと行きましたよね。
湯村 うん。自分のなかで、
なにかが弾けたのかもしれない。
糸井 自由になっちゃったんだ。
というか、あのへんまでの湯村さんって
じつは意外に真面目で(笑)。
湯村 そうそう(笑)。
いろんな賞とったものにしても、
けっこう、真面目なんだよ。
糸井 ちゃんと商品になってるという。
湯村 なにやってもいいんだって言ってるわりに、
ちゃんと真面目にやってて。
糸井 真面目でしたよ。
だって、湯村さんの色指定って、
ものすごく厳しかった印象があるもの。
湯村 あー、そうだね。
糸井 自由といえば、自由にやってるんだけど、
「ここは絶対譲らないんだ」みたいなことは、
すっごくあったじゃないですか。
湯村 そうかもしれない。
糸井 だから、あのころの湯村さんは、
「こうでなきゃいけない」っていう自分を、
捨てたくてしょうがなかったわけですよ。
湯村 ああ、捨てるよろこびみたいなね。
糸井 うん(笑)。
湯村 もう、明日は違うオレになる。
糸井 そう。だから、その「違う自分」の、
ある一面が『さよならペンギン』なんですよ。
湯村 そうか、そうだ。
で、けっきょく、これだけだったんだ。
糸井 そう、だから、やっぱり貴重ですよね。
2011-04-04-MON