イラストレーター・福田利之さんが
すべての製品のデザインを手がけている、
テキスタイルや布プロダクトのブランドが
「十布」です。「テンプ」と読みます。

「十の布」とあるように、
発表されるプロダクトには数字がふられています。


tenp01からはじまって
tenp02、tenp03‥‥とつづき
このたびTOBICHI2で開催する「つつむ展」では
新作のtenp06が発表されます。

福田さんとディレクターの滝口さんに
「十布」のこれまでを
ゼロから教えてください、とお願いしたのが
今回のインタビューです。

デザインも、かたちも、国もさまざまな
6つのシリーズの布たち。

そこに共通する思いは「生活」でした。

全7回の連載です。

おふたりのプロフィール

福島の刺子織

滝口
次に登場するtenp02は
「福島の刺子織(さしこおり)」です。
ほぼ日
これはわたしたちにとっても
特別なシリーズです。

ほぼ日手帳2015のカバー
いっしょにつくらせていただいて。

福田
はい。お世話になりました。
滝口
そもそも、
「十布」を「十の布」と名付けたのには
10のカテゴリーをつくるという意味があるんです。
ほぼ日
あ、そうなんですか、
それは知らなかったです。

なるほど、10シリーズになるから「十布」。
滝口
ええ。

それで、次のtenp02をどうしよう、と考えていたときに
福田さんから「まず下見しよう」と声をかけられて
ふたりで見にいったのが刺子織でした。
福田
下見というのは口実で、実はもう、
そのときには刺子織がやりたかったんです。

半ば誘導のように滝口さんを連れていきました。
ほぼ日
誘導(笑)。福島までですか。
福田
いや、そのときはまだ東京のお店です。

刺子織がおいてある蔵前のお店。
ほぼ日
実物の刺子織を見せるために。

福田さんはすでにその時点で、
刺子織の魅力をご存知だったわけですね。
福田
だいぶ前になりますが、
盛岡にある「光原社」という民芸のお店で
はじめて刺子織を見て‥‥心を掴まれました。

それからその刺子織はずっと手元にあって
「いつか自分でもやりたいなぁ」と思っていたんです。
ほぼ日
憧れていたんですね。
福田
はい。

ですから滝口さんとふたりで、
「やりましょう」となったときは
うれしかったです。

そこから刺子織職人の大峽(おおはざま)さんに
つないでいただきました。
滝口
いよいよ行きましたよね。福島へ。

大峽さんにお会いして、
実際に工程を見せていただいて、
そして「つくりたいんです」とお話をして。

それからですね、やりとりがはじまりました。

ほぼ日
こういう幾何学模様のようなデザインだと
福田さんが刺子のルールのようなものを
理解しなくてはならないわけですよね。
福田
そうです。まずそこからですね。

大峽さんとどうしようか相談して、
グリッドのような枠のなかで
デザインすることになりました。
滝口
出来上がった指示書のようなものを
大峽さんにお見せしたら、
デザインのデータ量が通常の3、4倍あるそうで。

製品として仕上げてくださってからも
ご自分でびっくりされていました。
ほぼ日
なんかもう回路図のような‥‥。

滝口
912列で1周する模様なんです。

えぇと、「紋紙」ってわかりますか?
ほぼ日
モンガミ?
滝口
穴の空いた型紙で、
そのパターンに沿って模様が織られるんです。
福田
オルゴールのシートみたいな感じですね。
ほぼ日
ああ、なるほど。
滝口
紋紙は1枚に1列のデータが入っているので、
912となると紙の量もすごいことになりました。

これを仕上げてくださった職人さんには
ほんとうに感謝しています。

ほぼ日
福田さんはデザインをするうえで、
グリッドで表現するという制限は
お嫌ではなかったですか。
福田
そうですね、とくに嫌なことではないです。

十布全体に言えることなんですが
もともとテキスタイルには、絵より制約があります。

色数もそうだし、技法とかもそうですし。

でも、その制限が楽しいっていうのがあって、
それは刺子織も同じです

ほぼ日
とはいえ、
刺子織の制限は他よりも多いように思えます。

福田さんらしいイラストレーションは、
前面に出にくくなりますよね。
福田
そうですね。
ほぼ日
でも、手ごたえはある。
福田
やっていておもしろかったです。
ほぼ日
そのおもしろさの理由のひとつは、
もしかしたら職人さんへの敬意なのでしょうか。
福田
そう、それはとてもあります。

本当に商品で掴まれましたから。
たとえばtenp01を買ってくださる方は
ぼくの絵を好きでいてくれている人だと思うんです。

それはすごくうれしいんですが、
ぼくの絵を前面に出すばかりだと
十布がいま以上に広がらないと思いまして。
ほぼ日
なるほど‥‥。

tenp02は独り歩きしそうな、
ものとしての強さがあるように思います。
福田
やっぱり、流行りとかではない
もともとずっとあったものですからね。
滝口
「十布」の01を買う人と02を買う人は、
おそらく違う人なんだと思います。

ターゲットが絞れていないというのは、
ブランドとしては
いかがなものかなというのはあるんですけど。
ほぼ日
いや、それが「十布」の特徴だと思います。

ターゲットうんぬんという考えよりも
もっと手前にあるたいせつな希望は
「生活に寄り添う」ということですよね。
滝口
はい。

生活のなかで使ってほしいから、
tenp02では椅子やクッションもつくりました。
ほぼ日
この刺子織が「十布」の2回目、
というのがすごくいいですよね。

02がこのブランドを広げたように思います。

(つづきます)

2017-12-22 FRI