YAMADA
天童荒太さんの見た光。
対話するように書いた物語。

シンプルに書くことはむずかしい


天童 シンプルが、いちばんむずかしいな、
ということは、
やっぱり書いていて感じるんです。

困難で複雑な問題を難解な言葉で
高尚ぶって語るのは、
大してむずかしいとは思わない。
心にも届かないし。

平明な言葉で、そうした問題を
多くの人の感情の底へと
根づかせることができるかどうかってこと。

シンプルな表現のままで、
どこまでいけるのかな、
ということを思いながら
やっているんですけど、
やっぱり、小説は、むずかしいです……。

今回の新しい『家族狩り』五部作は、
去年一二月に一回最後まで書き終えています。
でもそれで終わりって閉じるのでなく、
刊行ぎりぎりまで、
まだよくなってゆくんだ、
終わってないんだって開いてる。


だからこれからも、
まだ第四部、第五部と、
妥協せずにゲラを直していきます。

ただ、今の段階でも、ぼくの表現は、
『永遠の仔』『あふれた愛』よりも、
大ざっぱに言うと、二段か三段、
上に来ているということは感じているんです。

ゲラをもう一回きっちりやれば、
もう一段、たぶんのぼれるだろうと
思うんです。
そういう実感は身についているし、
「なんか、成長したな」
っていう自信みたいなものは、
得ることができてますね。

自信を得ると言っても、
同時に、すぐに次の階段の、
のぼり口の端っこが見えるもんですから、

「うわ、まだまだ先があるんだ」
「ああ、オレは才能ねぇなあ」
「ダメだ、ダメだ、
 こんなんでオレはよくやってるよ」

って、落ちこむのと
イコールになってくるんですけど(笑)。

だから、苦しくても次の階段に手を掛けて、
一歩ずつでもいいからのぼるようにして
書かなきゃいかんだろう……
そのことのくりかえしですね。
ほぼ日 その姿勢は、ほんとにかっこいいですね。
天童 (笑)いやぁ、かっこよくはないですよ。
ほぼ日 前の『家族狩り』のときに
書く根底にあった
「怒り」みたいなものも、それがないと、
表現の世界に入らなかった可能性だって
大きいかもしれないですよね。

だからこそ、天童さんにとっては
「今となっては低い段階にいたな」
と思えるであろう、かつての
執筆状況も、興味深く思っているんです。

天童さん自身は
「もう見たくないほど低い段階のもの」
と思われているかもしれないのですが、
たとえば、まだのぼりかけの人にとっては、
その「低い段階でのもがき」が
「等身大のもがき」に見えるかもしれません。

もともと、天童さんの読者の中には、
「毎回、出し惜しみせず、
 全力を尽くしていく」
という姿勢や過程そのものに
勇気を得ているかたも、
多いだろうと思うんです。

そういう人にとっては、
「天童さんの、ちいさい頃からの
 創作に関する考えの推移」って、
ものすごく聞いてみたいことだと思うんです。

どういう過程で、表現に対する考えは、
どう変わってきたか。
それをうかがっても、よろしいでしょうか?
天童 それは、ふりかえる段階を、
どこに設定するかによるんですけどね。

今回は、三時間の
ロング・インタビューということですから、
まぁ、ちょっと踏みこんで、
ほんとにちいさい頃まで、
いってみましょうか……。

子どもの頃。

思い出すことと言えば、
愛媛の松山の実家の近所が、
貸本屋だったことです。
ぼくには兄が二人いて、
当然のように漫画を借りてきている。

だからぼくもやっぱり、
同年代の他の人と同じように、
漫画に夢中になっていたし、
しかも一人っ子や長男の子よりませた感覚で、
兄たちが読んでたものを、
どんどん吸収してたなぁと思うんですね。

読んでいたのは、手塚さんをはじめ
赤塚さん、藤子不二雄さん
水木しげるさんはもちろん、
永井豪さんの漫画とか、トキワ荘にいた
寺田ヒロオさんの『スポーツマン金太郎』とか
杉浦茂さんの『猿飛佐助』も
ぶっ飛んでて好きでした。

『サイボーグ009』や、
『マグマ大使』も、思い出します。
もちろん『巨人の星』とか
『あしたのジョー』とかの
メジャーも読んでましたけど、
ワン・オブ・ゼムでね、
ともかく雑多になんでも読んでましたよ。

まぁ、五歳や六歳の頃から、
いや、もっと前かも。
三つ四つの、ものごころつく頃から、
漫画ばかり読んでいたのは、確かなんです。

いまのよい子のみなさんが、
絵本とかを読んでもらってるのを、
図書館とかで目にするとね、
ああ、ぼくはあの頃、
『ワル』とか『ハレンチ学園』を
読んでたんだなあって……。

※明日に、つづきます。
 天童さんの言葉への感想やメッセージなどは、
 postman@1101.com
 こちらまで、件名を「天童さん」としてお送りください!
 明日は、天童さんの中学生時代。小説よりも何よりも、
 映画にハマっていたという話を、ご紹介するんですよ。





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第1部
「幻世の祈り」
第2部
「遭難者の夢」
第3部
「贈られた手」
第4部
「巡礼者たち」
『家族狩り』は5月下旬まで刊行され続けている作品です。
天童さんの言葉への反応は、件名を「天童さん」と書いて、
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インタビュアーは「ほぼ日」の木村俊介でおとどけします。

2004-04-22-THU

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