革カバーのご質問に、
革のプロがお答えします。
2009.10.06
ほぼにちわ。です。

先週、9月29日から出荷がはじまりました
「ほぼ日手帳2010」、
いち早く受け取られた方々からぞくぞくと
「届きました」のお知らせをいただいていて、
手帳チーム一同、たいへんはげみになっています。
ありがとうございます。
これから受け取られるみなさまには、
いましばらくお時間をいただいておりますが、
順調に作業を進めておりますので、
どうぞ、たのしみにしていてくださいね。
出荷時期のご案内はこちらをご覧くださいませ。

さて本日は、みなさまからいただいている
お問い合わせのなかから
「革カバー」に関するご質問を集めて
お答えいたしたいと思っています。

ほぼ日手帳の革カバーのことなら、この方に。
製作チームを代表して
みなさまからのご質問にお答えするのは、
株式会社伊勢丹・外商統括部の
籠浦兵衛(かごうらひょうえ)さん
です。


Q.

ピッグスキンの革製品を
使ったことがないのですが
どういう特徴がありますか?
籠浦 ピッグスキンの性質としては、
薄く通気性がよく、柔軟性があるという特徴があって
手袋などによく使われていますが、
バッグや革小物にしたときのいちばんの魅力は、
やっぱりピッグ特有のしぼ模様ですね。
海外の高級ブランドでも
バッグや革小物にピッグスキンを使って
すばらしい商品をつくっています。
そこで多く採用されているのが
イタリアの「チベット社」というタンナーの革で、
今回のピッグスキンの革カバーには、
そのチベット社の「チンギアーレ」という
猪豚革を使っています。
チンギアーレはヨーロッパでは
古くから使われている高級素材なんですが、
とくに、このチベット社の革は、
なにより発色がすばらしいんです。
仕事柄いろいろな革を見ていますが
こんなふうに微妙な色は、
なかなか出せるもんじゃありません。

今回手帳カバーをつくるときにも、
まず、革を小さくカットした色見本で候補を選んで
サンプルを取り寄せたんですが
1枚革のサンプルがはじめて届いたときには
「うわ、すごいの来たな!」って思いましたよ。
発色もいいし、透明感もあるし、
光沢といい、パーンと張った感じといい‥‥
なんというか、表面がキュッとしまってて、
パーンと張ってるんです。わかります?
ーー は、はい(笑)。
カバーを手にしてみると、よくわかります。
そのピッグスキンについては、
こういうご質問もいただいています。

Q.
ピッグスキンと牛革では、
「育ち度」はどうちがいますか?
籠浦 「育ち度」というと、
経年変化の度合い、ということですね。
一般的に革の経年変化というと、
手に脂や汗で革がなじんで起こる自然な変化、
ツヤが出て、色も落ち着いて、形もなじんで、
といったことがありますが、
ヌメ革のように日に当たって色が濃く変化する
といったこともあります。

これは、牛革とピッグスキンといった
革の種類のちがいというよりも、
「なめし」の方法や表面加工のちがいによるものです

「なめし」の方法には、
植物の渋(しぶ)でなめす「タンニンなめし」と、
化合物をなめし剤にした「クロムなめし」、
その両方を組み合わせた
「コンビなめし」という方法があるんですが、
これを経年変化の度合いで順番をつけると、
「タンニンなめし」の革が、
いちばん変化の度合いが大きくて、
次に「コンビなめし」、その次に「クロムなめし」
ということになります。

タンニンなめしは、表面加工が少ない分、
手の脂や汗の影響を受けやすいということと、
タンニンが太陽の紫外線と結びついて
色が濃くなるという性質があるんです。
そういう面で、タンニンを多く含んでいるほど
変化が大きい
と言えるわけです。
ーー ピッグスキンはどの方法でなめしているんですか?
籠浦 チベット社は、なめしも染色も加工についても
企業秘密といいますか、
いっさい公表していないんです。
タンナーによっていろいろ工夫がありましてね、
それで革の仕上がりがぜんぜん違うので、
職人の腕のみせどころといったところがありますから。
ただ、なめしの種類に関しては、
革の断面の色やなめし剤の含有率の試験結果から、
クロムなめしと言っていいと思います。
ですので、このピッグスキンは、
色が大きく変わっていくということはなく、
じっくり使っていくうちに
手の脂や汗でなじんでツヤが出て、
という自然な経年変化ですね。
ーー そうすると、ピッグスキンは、
いまの発色のまま長く楽しめて、
逆に、もっと経年変化をたのしみたい方には
タンニンなめしの牛革がおすすめ?
籠浦 そうです、そうです。
それぞれに良さがあるんです。
ピッグスキンについてもうひとつ言うと、
クロムなめしはタンニンなめしに比べて、
表面にキズがつきにくいという利点もあります。
だからたとえば、女性のバッグなどのように
変わらずきれいに使いたいものに向いているんですよ。
ーー 高級ピッグスキンだけど、
そういう意味では、気軽に使えるんですね。
TSブラックも、クロムなめしですか?
籠浦 そうです。
ああいうやわらかさ、しっとりとした質感は
タンニンでは出せないんです。
やわらかさが必要なもの、たとえばジャケットなど、
衣料品に使われる革は、ほとんどがそうですし、
市場に出ている革製品の9割か9割5分は、
クロムなめしの革製品です。
タンニンにもクロムにもそれぞれの良さがあって、
目的によって使いわけているんですが、
植物由来のタンニンなめしは
環境にやさしいということでも近年見直されて
クローズアップされています。

Q.
「タンニンでなめした革をヌメ革と呼ぶ」
という説明を他で読みました。
2010年のタンニンなめしの牛革カバーは、
「色の着いたヌメ革」ということですか?
籠浦 そうですね。
ヌメ革というのは、タンニンなめしの革を
表面加工をせずに仕上げたもので、
今回のタンニンなめしの牛革カバーは
ヌメ革と同じつくり方をしています

もともとは、染色もしないナチュラルな色の革をさして
ヌメ革と呼んでいたんですが
いま、一般的には、色をつけたものも
ヌメ革と呼ばれるようになっています。

ただ、ヌメ革の特徴に
日に当たると色が濃く変化するということがありますが、
今年のカバーは
グレープ、マスタード、オレンジレッドと
どれも濃いめの色に染めているので、
ナチュラルな色、仕上げのヌメ革ほど
目に見えて色が変わっていくということは
ないんじゃないかと思います。

Q.
「タンニンなめし」の牛革カバーは、
以前の「タンニン仕上げ」のカバーと、
どんな違いがありますか?
ーー こちらは、2007年、2008年版の革カバー、
「牛革タンニン仕上げ」のカバーを
お使いの方からのご質問です。
今年の「タンニンなめし」の牛革が
植物から抽出した渋(しぶ=タンニン)だけで
なめしているのに対し、
「タンニン仕上げ」と名付けた以前のカバーは、
クロムなめしで下処理した牛革を、
タンニンで仕上げたもの、でしたね。
籠浦 そうです。ぼくらの言葉でいうと、
今年のタンニンなめしの牛革のように
タンニンだけでなめしたものを
「フルタンニン」と呼んでいます。
以前の「タンニン仕上げ」のほうは、
「コンビなめし」と呼んでいる方法ですね。

じつは、ぼくが使っているこのカバーが
ちょうど2007年版の
「牛革タンニン仕上げ」なんです。
自分がはじめて取り組んだ手帳カバーということで
とくに思い入れがあって、使いつづけているんです。
 
ーー 今年いただくお問い合わせには
革の経年変化の度合いについてのご質問が
多いのですが、いまのお話によると、
コンビなめしの「タンニン仕上げ」に比べると
今年のタンニンなめしのほうが
経年変化は大きい、ということになりますね。
籠浦 そうです。
とくに色の変化は、革が含んだタンニンが
紫外線と結びついて起こるものなので
タンニンの量がより多く含まれる革のほうが
変化は大きいということになります。
お使いになる環境や使いかたにもよりますが、
コンビなめしの「タンニン仕上げ」のほうは
タンニンなめしの革よりも、
より変化がゆっくりだ、と思っていただくと
いいんじゃないかと思います

Q.
革は使い込むほど変化するようですが、
具体的にはどう変わるのでしょう。
濃い色目は、褪せて薄まるのでしょうか?
籠浦 色が褪せて薄まる、ということではないですね。
最初のうちは表面の顔料が少し落ちていくと思いますが、
色が薄くなるという程度ではなくて、
余分な顔料が落ちて定着していくという感じです

ぼくが使っているこの「牛革タンニン仕上げ」のカバーは
2007年から使い続けて、今年で3年目なんですが、
こんなふうに透明感が出てます。
ツヤが出て、丸みが出てきて、
こう自分の形になってくると、
愛着も増して、なかなかやめられません。
 
右が籠浦さんが使っている2007年版の
「牛革タンニン仕上げ・オリーブグリーン」。
左は、サンプルとして保管してあった未使用の同カバー。
ーー ほんとですねえ。
並べてみると、使い込んだカバーは
ツヤが見事に出ていますね。
よく見ると細かいキズはありますが、
こうなるとそれも味に見えてしまうというか、
なんだかかっこいいです。
籠浦 経年変化は、革を使うたのしみのひとつですが、
1年で確実にこうなる、というものでもないんです

使っているうちに、手になじんで自分の形になっていく、
使っているうちに、いつのまにかこうなっていた、
というようなところがあります。
それをたのしんでいただけるとうれしいですね。
革は、使いかたによって5年でも10年でも、
長く使っていただけますから。
ーー 籠浦さんは、引き続きそのカバーを使われるんですね。
籠浦 手放せませんからねえ(笑)。
でも、ピッグスキンもすっごく使いたいんですよ。
うちの上司や同僚なんかも、
来年はピッグスキンだ! って言ってますけど、
ぼくもずっと使いたかった革なのでねえ。悩んでます。

お客様にも、長く愛用していただきたいという気持ちと
新しい商品も買っていただきたいという気持ちと‥‥
ぼくらの仕事のむずかしいところです(笑)。


革には、まだまだ深い話がいっぱいありそうですが、
今日のところはこの辺で。
革のおはなしは、また機会をあらためて、
お届けしようと思っています。
それでは、また。