●わからないレベルでの微調整
|
糸井 |
先日の座談会、おもしろかったですか? |
佐藤 |
いやぁ、すごくおもしろかったです。
ああやってユーザーの方の声も聞きつつ
いろいろと検討を重ねていくっていう
双方向のやりとりがすごくいいと思うんです。
|
糸井 |
そう言ってもらえてうれしいです。
で、今日はですね、あの座談会を受けて、
ぼくらのなかにおそらく生じたであろうものを、
これまで卓さんが吟味してきた
さまざまなデザインと照らし合わせながら、
すり合わせていきたいなぁと。 |
佐藤 |
わかりました。
そもそものところからお話しすると、
最初に「ほぼ日手帳」を見たときに、
「もう少し書き込めてもいいんじゃないかな」
という印象がありました。
それは、私自身の字が小さいというのも
あるのかもしれませんが‥‥。 |
糸井 |
座談会のときも、
細かい文字がキレイに書き込まれた
卓さんの「ほぼ日手帳2009」を見て、
ユーザーの方々が驚愕されてましたもんね。
「マス目が小さいとか言ってたのが
申しわけなくなってきました」
とか言う人もいて(笑)。 |
佐藤 |
(笑)
|
糸井 |
まぁ、それはさておき(笑)。 |
佐藤 |
はい(笑)。
「もう少し書き込めてもいい」と感じたことが
方眼の大きさを見直した理由のひとつです。
また、意識されていない方が多いと思いますが、
あの方眼というのは、毎日のページだけでなく、
「年間インデックス」や
「月間カレンダー」にも使用されていて、
それぞれのページをレイアウトするときの
制約というか、根本的なルールになっているんですね。
※写真は「ほぼ日手帳2009」のものです。
|
糸井 |
なるほど。 |
佐藤 |
それを考慮して、
「年間インデックス」や「月間カレンダー」を
うまく見渡せるようなレイアウトにするために
最適な方眼のサイズはどれくらいか?
という視点からも、見直していきました。 |
糸井 |
つまり、
「もっといっぱい書けるぞ」っていう喜びと、
「ほかのページもぴたっとおさまるぞ」
っていう機能面のバランスを突き詰めた結果、
3.45ミリの方眼にたどり着いたと。 |
佐藤 |
いってみれば、そういうことですね。 |
糸井 |
もう、それは、まちがってないというか、
大正解をありがとうございます、
という気持ちはいまももちろんあります。 |
佐藤 |
(笑) |
糸井 |
で、先日の座談会に戻りたいんですが、
卓さんが最初におっしゃった理由、
「もっといっぱい書けるぞ」
っていうことへの喜びって‥‥。 |
佐藤 |
そう! 意外にないんですよ。
それはこのまえの座談会でよくわかりました。
「いっぱい書けるようになってうれしい」
っていう意見はないですね。 |
糸井 |
そうなんです。
もちろん、座談会で出た意見がすべてじゃなくて、
ぼくは「ほぼ日」に届く手帳への感想メールって
ほとんどすべてに目を通してるんですけど、
たしかに見かけないんですよ、
「方眼が小さくなって
いっぱい書けるようになった」は。 |
佐藤 |
そうですね。
それは、やってみてわかったことです。
それに気づかせてくれたことだけでも
あの座談会に参加してよかったと思いました。
|
糸井 |
その意味でいうと、
ぼくがあの座談会で得た大きな収穫は、
「手帳をつかっている人たちに
方眼の大きさを気にさせちゃダメだ」
ということです。 |
佐藤 |
あー、大きさがどうこうじゃなくて、
そこを意識させた時点でよくないと。 |
糸井 |
意識すればするほど、
「自分の文字にとって最適な方眼とは?」
みたいな話になっちゃうんです。
そんな、張り詰めた状況において、
全員の意見が一致することってないと思うんですよ。
|
佐藤 |
なるほど、なるほど。 |
糸井 |
そういう意味では、もし変えるんだったら、
「あ、気づきましたか」というような
気づく人は気づくみたいな
変えかたじゃないといけない気がするんです。
だから、結論のひとつとしていうと、
ガラっと4ミリに戻すつもりは
まったくないんですね。 |
佐藤 |
うん、うん。 |
糸井 |
じゃあ、どうするのか?
「え? 変えたんですか? 気づきませんでした」
と言われるような大きさって、なんだろう。
そこをずっと考えていたんですが、
ぼくが「このくらいかな」って感じたのが、
「3.7ミリ」っていうサイズなんです。 |
佐藤 |
なるほど。微調整。 |
糸井 |
微調整です。
「じゃあ4ミリに戻します」っていうんじゃなく、
最適なサイズを目指して、
しつこく微調整していくことのほうが
いいんじゃないかと思うんです。 |
佐藤 |
賛成です。
「安易に変えるつもりはない」というのも
スタンスとしては一貫していて
わかりやすいのかもしれませんけど、
そこから一歩進んで
しつこく微調整していくのも‥‥。 |
糸井 |
うん。
この言い方は変かもしれませんが、
「かっこいい」んじゃないかな(笑)。 |
佐藤 |
うん、「かっこいい」です(笑)。
結論としては、ぼくも、
はっきりわからないレベルで
微調整するのがいいと思っていて。 |
糸井 |
うん。 |
佐藤 |
森正洋さんという
陶磁器デザイナーの方がおられて、
かつて「G型しょうゆさし」という
醤油さしをデザインされた方なんです。
いまではどこのお店にも置いてある、
醤油さしのスタンダードなんですが、
その「G型しょうゆさし」って、
開発するときにいろんな人に
いろんなことを言われまくって
できあがったものなんです。
G型しょうゆさし
|
糸井 |
ああ、あの醤油さしですね。
醤油さしって、
日本人のほぼ全員が手にするものですし、
いろいろ言いたくなる道具ですよね。
たしかに、あの「G型しょうゆさし」は
自分と他人、両方がつくってると思います。 |
佐藤 |
そうなんですよ。
だからこそ、あの醤油さしはすごい。
名作なんです。 |
糸井 |
ですよね。
きっと、製作途中の、試作品が、
何パターンもあるんでしょうね。 |
佐藤 |
そう思います。
多くの人の意見を聞いて、
それらがちょうど交差する点を
探していったものって
やっぱりものすごく残るものなんですよね。 |
●デザインとは世の中に隠れている
数式を発見すること。
|
佐藤 |
じゃあ、3.7ミリ版をつくってきましたので
見ていただきましょうか。 |
糸井 |
え? つくってきたんですか? |
佐藤 |
じつは、方眼の大きさを微調整する前提で
ほぼ日の方とやり取りしていたら、
「糸井が『3.7ミリの方眼』を
候補にしているみたいです」ってうかがって、
ぼくの思う方向性とも一致していたので
つくってみたんです。
|
糸井 |
うわぁ、そうだったんですか。
(マジマジと眺めつつ‥‥‥‥)
卓さん、3.7ミリ、当たりかも。 |
佐藤 |
そうですか(笑)。 |
糸井 |
うん、これ「4ミリにしたよ」って言われると
「本当だ」って感じると思うんですよ。
で、「去年と同じだよ」って言われたら
「そうかな」くらいに言うと思うんですよ。
どっちの人も受け入れてくれる気がする。 |
佐藤 |
ああ、それって、おもしろいですよね。 |
糸井 |
気温とかに似てますね。 |
佐藤 |
気温? |
糸井 |
寒いとか、暑いとか、
温度計で計れるように思うけど、
感覚ってそうじゃないじゃないですか。
たとえば、春に「暖かいね」っていうのと、
秋に「寒いね」っていうのを比べて
いったいどっちが暖かいのかっていったら、
温度計で答えが出るようなことじゃないですよね。 |
佐藤 |
ああ、なるほど。 |
糸井 |
ふたつの点と点を機械的に比べただけじゃ
答えが出ないものってたくさんあると思うんです。 |
佐藤 |
だからこそ、
プロセスが大事なのかもしれませんね。
実際につかってもらった人の意見を聞いて
その両端から中間へたどりつく。
そういったプロセスこそが
多くの人を満足させるものなのかもしれません。
それって、すごい論理だなぁ。 |
糸井 |
一回一回、真摯に結論を出してないと
成立しない方法論なんでしょうけどね。
だから、卓さんがこうして意見を吸い上げて
きちんと形にしてくださるからこそ、
みんなが納得できるんだろうと思うんです。
じゃないと、お客さんの声を
たんに機械的に扱ってるような
感じになっちゃいますから。
|
佐藤 |
いえいえ(笑)。
でも、今回はぼくも反省しました。 |
糸井 |
いや、こういう仕事のしかたって、
ぼくらも、何度やっても、
やっぱり発見の連続なんですよ。
毎年、ほぼ同じものをつくっていれば
安定してくるのかもしれませんけど、
それはおもしろくないし、
やっぱり少しでもよくしていきたいですし。
かといって、全部変えるぞ!
っていうわけにもいきませんしね。
自動車なんかの場合だったら、
同じ商品名だとしても新商品に見せたいから
ガラっと変えちゃうことがあり得るけど。 |
佐藤 |
「ほぼ日手帳」は見事にその逆ですね。 |
糸井 |
そうですね。
ひとつの商品として、
継続すべきところを継続し、
変えるべきところを変えて、
なにかしら、新しく足す。
その意味で重要なことっていうのは、
やっぱり、去年と今年、
卓さんがやってくださったように
「毎回、細かく検討して調整を繰り返す」
ということなんじゃないかなぁ。 |
佐藤 |
そうですね。 |
糸井 |
いやぁ、しかし、方眼に関しては
いい結論にたどり着いたと思います。
3.7ミリ。
|
佐藤 |
じつは、去年、方眼の大きさを検討したときも、
3.7ミリ版をつくってるんですよ。
その意味では、まったく新しいサイズじゃなくて、
徐々に3.7ミリに調整されてきたといっても
いいのかもしれません。 |
糸井 |
あ、そうか、そうか。
いやぁ、そう考えると、ちょっと不思議だなぁ。 |
佐藤 |
あとは、2011年版で
変えずに済めばいいですね(笑)。 |
糸井 |
それがいちばんいい。
毎回、真剣に取り組んでいきましょう。
2010年の方眼は、3.7ミリです。
現状の3.45ミリが好きな人にとっては、
0.25ミリだけ、大きくなります。
4ミリに戻すことを望んでいた人には、
「0.3ミリだけください」って言いたいです。 |
佐藤 |
いやぁ、こういうやりとりって、
ひとつのプロダクトの行く末として
すばらしいと思うんですよ。 |
糸井 |
そう思ってもらえると(笑)。 |
佐藤 |
本当にいいと思います。
デザインって、なにか世の中に隠れている
数式を発見することなんだなって
実感させられますよ。 |