方眼のサイズ決定!
佐藤卓さん×糸井重里
ある日の対談。
2009.08.18
ほぼにちわ。です。

今年、みなさんがおつかいの「ほぼ日手帳2009」は、
グラフィックデザイナー佐藤卓さんのご協力のもと、
従来のデザインが徹底的に見直され、製作されました。
そのなかでもいちばんの大きな変更点は
4ミリから3.45ミリに変更になった方眼でした。

1日ページに書き込める量を増やし、
時間軸の下にフリーなスペースをつくるために
吟味して決定した大きさでしたが、
2003年版から6年、変わらず踏襲されていた大きさを
変えたということもあり、
予想されていたことではあったのですが、
違和感を感じる方も多かったようです。

毎年恒例の「ほぼ日手帳アンケート」でも
3.45ミリの方眼を「つかいやすい」と感じた方と
「ちょっと小さい」と感じた方が、
同じくらいの割合で存在するということがわかりました。

「ほぼ日手帳2010」では、
方眼の大きさをどうするのか?
製作にあたり、まず直面した問題がそこでした。

そこで、まずは、
実際にお使いになっているユーザーの方に
生のご意見をうかがうべく、
「ほぼ日手帳2009方眼座談会」を開催しました
その内容は昨日お伝えしたとおりです。
「読み返すときに文字が目に入ってこない」
「殴り書きが増えた」
「横棒の多い感じを略すことが増えた」
「逆にマス目にとらわれなくなった」など、
実際に長くつかった人ならではの
生々しい意見がいくつも飛び出し、
私たちにとっては
たいへん意義のある座談会となりました。

その座談会に参加し、
ユーザーの方々の意見と要望を
ダイレクトに受け止めることになった
佐藤卓さんと糸井重里。

いったんそこでのやり取りを持ち帰り、
それぞれ検討、熟考することになりました。

そして数日後、具体的には11日後、
ふたりはそれぞれの結論を抱えて
会うことになりました。

「ほぼ日手帳2010」の
新しい方眼の大きさが決定した
対談の様子をお届けいたします。
それでは、どうぞお読みください。


●わからないレベルでの微調整

糸井 先日の座談会、おもしろかったですか?
佐藤 いやぁ、すごくおもしろかったです。
ああやってユーザーの方の声も聞きつつ
いろいろと検討を重ねていくっていう
双方向のやりとりがすごくいいと思うんです。



糸井 そう言ってもらえてうれしいです。
で、今日はですね、あの座談会を受けて、
ぼくらのなかにおそらく生じたであろうものを、
これまで卓さんが吟味してきた
さまざまなデザインと照らし合わせながら、
すり合わせていきたいなぁと。
佐藤 わかりました。
そもそものところからお話しすると、
最初に「ほぼ日手帳」を見たときに、
「もう少し書き込めてもいいんじゃないかな」
という印象がありました。

それは、私自身の字が小さいというのも
あるのかもしれませんが‥‥。
糸井 座談会のときも、
細かい文字がキレイに書き込まれた
卓さんの「ほぼ日手帳2009」を見て、
ユーザーの方々が驚愕されてましたもんね。
「マス目が小さいとか言ってたのが
 申しわけなくなってきました」
とか言う人もいて(笑)。
佐藤 (笑)



糸井 まぁ、それはさておき(笑)。
佐藤 はい(笑)。
「もう少し書き込めてもいい」と感じたことが
方眼の大きさを見直した理由のひとつです。
また、意識されていない方が多いと思いますが、
あの方眼というのは、毎日のページだけでなく、
「年間インデックス」や
「月間カレンダー」にも使用されていて、
それぞれのページをレイアウトするときの
制約というか、根本的なルールになっているんですね。




 ※写真は「ほぼ日手帳2009」のものです。

糸井 なるほど。
佐藤 それを考慮して、
「年間インデックス」や「月間カレンダー」を
うまく見渡せるようなレイアウトにするために
最適な方眼のサイズはどれくらいか?
という視点からも、見直していきました。
糸井 つまり、
「もっといっぱい書けるぞ」っていう喜びと、
「ほかのページもぴたっとおさまるぞ」
っていう機能面のバランスを突き詰めた結果、
3.45ミリの方眼にたどり着いたと。
佐藤 いってみれば、そういうことですね。
糸井 もう、それは、まちがってないというか、
大正解をありがとうございます、
という気持ちはいまももちろんあります。
佐藤 (笑)
糸井 で、先日の座談会に戻りたいんですが、
卓さんが最初におっしゃった理由、
「もっといっぱい書けるぞ」
っていうことへの喜びって‥‥。
佐藤 そう! 意外にないんですよ。
それはこのまえの座談会でよくわかりました。
「いっぱい書けるようになってうれしい」
っていう意見はないですね。
糸井 そうなんです。
もちろん、座談会で出た意見がすべてじゃなくて、
ぼくは「ほぼ日」に届く手帳への感想メールって
ほとんどすべてに目を通してるんですけど、
たしかに見かけないんですよ、
「方眼が小さくなって
 いっぱい書けるようになった」は。
佐藤 そうですね。
それは、やってみてわかったことです。
それに気づかせてくれたことだけでも
あの座談会に参加してよかったと思いました。



糸井 その意味でいうと、
ぼくがあの座談会で得た大きな収穫は、
「手帳をつかっている人たちに
 方眼の大きさを気にさせちゃダメだ」

ということです。
佐藤 あー、大きさがどうこうじゃなくて、
そこを意識させた時点でよくないと。
糸井 意識すればするほど、
「自分の文字にとって最適な方眼とは?」
みたいな話になっちゃうんです。
そんな、張り詰めた状況において、
全員の意見が一致することってないと思うんですよ。



佐藤 なるほど、なるほど。
糸井 そういう意味では、もし変えるんだったら、
「あ、気づきましたか」というような
気づく人は気づくみたいな
変えかたじゃないといけない気がするんです。
だから、結論のひとつとしていうと、
ガラっと4ミリに戻すつもりは
まったくない
んですね。
佐藤 うん、うん。
糸井 じゃあ、どうするのか?
「え? 変えたんですか? 気づきませんでした」
と言われるような大きさって、なんだろう。
そこをずっと考えていたんですが、
ぼくが「このくらいかな」って感じたのが、
「3.7ミリ」っていうサイズなんです。
佐藤 なるほど。微調整。
糸井 微調整です。
「じゃあ4ミリに戻します」っていうんじゃなく、
最適なサイズを目指して、
しつこく微調整していくことのほうが
いいんじゃないかと思うんです。
佐藤 賛成です。
「安易に変えるつもりはない」というのも
スタンスとしては一貫していて
わかりやすいのかもしれませんけど、
そこから一歩進んで
しつこく微調整していくのも‥‥。
糸井 うん。
この言い方は変かもしれませんが、
「かっこいい」んじゃないかな(笑)。
佐藤 うん、「かっこいい」です(笑)。
結論としては、ぼくも、
はっきりわからないレベルで
微調整するのがいいと思っていて。
糸井 うん。
佐藤 森正洋さんという
陶磁器デザイナーの方がおられて、
かつて「G型しょうゆさし」という
醤油さしをデザインされた方なんです。
いまではどこのお店にも置いてある、
醤油さしのスタンダードなんですが、
その「G型しょうゆさし」って、
開発するときにいろんな人に
いろんなことを言われまくって
できあがったものなんです。


G型しょうゆさし

糸井 ああ、あの醤油さしですね。
醤油さしって、
日本人のほぼ全員が手にするものですし、
いろいろ言いたくなる道具ですよね。
たしかに、あの「G型しょうゆさし」は
自分と他人、両方がつくってると思います。
佐藤 そうなんですよ。
だからこそ、あの醤油さしはすごい。
名作なんです。
糸井 ですよね。
きっと、製作途中の、試作品が、
何パターンもあるんでしょうね。
佐藤 そう思います。
多くの人の意見を聞いて、
それらがちょうど交差する点を
探していったものって
やっぱりものすごく残るものなんですよね。


●デザインとは世の中に隠れている
 数式を発見すること。


佐藤 じゃあ、3.7ミリ版をつくってきましたので
見ていただきましょうか。
糸井 え? つくってきたんですか?
佐藤 じつは、方眼の大きさを微調整する前提で
ほぼ日の方とやり取りしていたら、
「糸井が『3.7ミリの方眼』を
 候補にしているみたいです」ってうかがって、
ぼくの思う方向性とも一致していたので
つくってみたんです。



糸井 うわぁ、そうだったんですか。
(マジマジと眺めつつ‥‥‥‥)
卓さん、3.7ミリ、当たりかも
佐藤 そうですか(笑)。
糸井 うん、これ「4ミリにしたよ」って言われると
「本当だ」って感じると思うんですよ。
で、「去年と同じだよ」って言われたら
「そうかな」くらいに言うと思うんですよ。
どっちの人も受け入れてくれる気がする。
佐藤 ああ、それって、おもしろいですよね。
糸井 気温とかに似てますね。
佐藤 気温?
糸井 寒いとか、暑いとか、
温度計で計れるように思うけど、
感覚ってそうじゃないじゃないですか。
たとえば、春に「暖かいね」っていうのと、
秋に「寒いね」っていうのを比べて
いったいどっちが暖かいのかっていったら、
温度計で答えが出るようなことじゃないですよね。
佐藤 ああ、なるほど。
糸井 ふたつの点と点を機械的に比べただけじゃ
答えが出ないものってたくさんあると思うんです。
佐藤 だからこそ、
プロセスが大事なのかもしれませんね。
実際につかってもらった人の意見を聞いて
その両端から中間へたどりつく。
そういったプロセスこそが
多くの人を満足させるものなのかもしれません。
それって、すごい論理だなぁ。
糸井 一回一回、真摯に結論を出してないと
成立しない方法論なんでしょうけどね。
だから、卓さんがこうして意見を吸い上げて
きちんと形にしてくださるからこそ、
みんなが納得できるんだろうと思うんです。
じゃないと、お客さんの声を
たんに機械的に扱ってるような
感じになっちゃいますから。



佐藤 いえいえ(笑)。
でも、今回はぼくも反省しました。
糸井 いや、こういう仕事のしかたって、
ぼくらも、何度やっても、
やっぱり発見の連続なんですよ。
毎年、ほぼ同じものをつくっていれば
安定してくるのかもしれませんけど、
それはおもしろくないし、
やっぱり少しでもよくしていきたいですし。
かといって、全部変えるぞ!
っていうわけにもいきませんしね。
自動車なんかの場合だったら、
同じ商品名だとしても新商品に見せたいから
ガラっと変えちゃうことがあり得るけど。
佐藤 「ほぼ日手帳」は見事にその逆ですね。
糸井 そうですね。
ひとつの商品として、
継続すべきところを継続し、
変えるべきところを変えて、
なにかしら、新しく足す。
その意味で重要なことっていうのは、
やっぱり、去年と今年、
卓さんがやってくださったように
「毎回、細かく検討して調整を繰り返す」
ということなんじゃないかなぁ。
佐藤 そうですね。
糸井 いやぁ、しかし、方眼に関しては
いい結論にたどり着いたと思います。
3.7ミリ。



佐藤 じつは、去年、方眼の大きさを検討したときも、
3.7ミリ版をつくってるんですよ。
その意味では、まったく新しいサイズじゃなくて、
徐々に3.7ミリに調整されてきたといっても
いいのかもしれません。
糸井 あ、そうか、そうか。
いやぁ、そう考えると、ちょっと不思議だなぁ。
佐藤 あとは、2011年版で
変えずに済めばいいですね(笑)。
糸井 それがいちばんいい。
毎回、真剣に取り組んでいきましょう。
2010年の方眼は、3.7ミリです。
現状の3.45ミリが好きな人にとっては、
0.25ミリだけ、大きくなります。
4ミリに戻すことを望んでいた人には、
「0.3ミリだけください」って言いたいです。
佐藤 いやぁ、こういうやりとりって、
ひとつのプロダクトの行く末として
すばらしいと思うんですよ。
糸井 そう思ってもらえると(笑)。
佐藤 本当にいいと思います。
デザインって、なにか世の中に隠れている
数式を発見することなんだな
って
実感させられますよ。




いかがでしたでしょうか。
感想のメール、アンケート、座談会、
そして卓さんとのやり取り‥‥。
たどり着いた結論の微調整、
それが、3.7ミリの方眼です。

この新しい方眼を
いち早く体験していただくために、
「ほぼ日手帳2010」の1日ページを
pdfファイルにしてみました。
ダウンロードして実感してみてください。



なお、ほぼ日手帳2010の
「月間カレンダー」のページに関しては
昨年と同じ、3.45ミリ方眼がつかわれます。
これは、対談中に卓さんが触れられているとおり、
7日間を見開きの2ページで
見渡せるようにレイアウトするとき、
3.45ミリ方眼がもっともきれいに収まるためです。


クリックすると大きい画像が表示されます。

9月1日の発売まで、いよいよあとわずか。
まだまだお伝えすべきことがたくさんありますので
つぎの情報を楽しみにお待ちくださいね。
それでは!