第5回 百目のまぶた。
糸井 百目(ひゃくめ)といえば、
水木しげるさんの絵が
思い浮かぶんだけど。
うん。
あれは、昔からいるおばけというより
オトナになってから、
そういう、水木さんの絵なんかで
知ったおばけだね。
糸井 あの百目ってさ、
まぶたがこう、ぶよぶよして、
垂れ下がってるでしょ。
あれはちょっとした老化というか、
筋肉の不具合みたいなものなんだって。
へぇー。
糸井 お医者さんに聞いたんだけど、
まぶたの、筋というか腱のようなものと、
まぶたを上げたり下げたりする筋肉とが、
歳をとると、だんだん離れていくわけ。
あの、政治家のまぶたとかがさ、
こう、百目的になってるでしょ。
うん(笑)。
なってるね、百目的に。
糸井 あれは、ようするに
まぶたの腱を動かす筋肉が
機能してないからなんだって。
で、ああいうふうになると、
やっぱり、見えづらいわけ。いろんなものが。
そこでどうするかっていうと、
こう、あごをあげて、
たるんだまぶたの隙間から
向こうを眺めるようになる。
すると、こう、政治家っぽい、
世の中を睥睨するような感じになる。
あ、なるほどねぇ(笑)。
糸井 逆にいうと、歳をとった政治家が
なんだか偉そうに見えてしまうのは、
本人の性格的なことではなくて、
たんにまぶたの筋肉が
衰えてしまったからかもしれない。
(あごを上げてまぶたの隙間から
 世の中を眺めながら)
そうか、ほんとだね。
糸井 で、たるんだまぶたを
ムリにでも上げるときっていうのは
眉毛をあげる筋肉を使うんだって。
ところがね、眉毛の筋肉を過剰に使うと、
頭部を行き交ってるぜんぶの
筋肉や筋に影響しちゃうから、
首や肩が凝りやすくなるらしい。
え! うそ!
糸井 そうなんだってよ。
オレ、ふざけて耳が動くとか言って
昔から顔中の余計な筋を
動かしてる気がするんだけど、
じゃあ、あれはよくないね。
糸井 うん。きっとよくないよ。
でも、伸坊が耳を動かすのは
きっとおもしろいから
続けていいんじゃないかな。
ちなみに、たるんだまぶたを切って、
たるみを取ってから縫い合わせる
手術っていうのもあるんだよ。
そうするとね、当たり前だけど
視界がすごく広くなって見やすくなる。
おまけに、肩こりもとれる。
わりと流行ってるらしいんだ、その手術。
1時間半くらいで終わるらしいんだけど。
ふーん。
糸井 たしかに、自分のまぶたというか、
おでこのあたり全体をこう、
持ち上げてみるとさ、見やすいんだよ。
(持ち上げてみる)
あ、ほんとだね。
ってことは、いつもは見づらいんだね。
糸井 それを教えてくれた医者がさ、
「私もその手術をしたんですよ」なんて
気軽に教えてくれるわけ。
「ラクになりますよー」とか言って。
で、パッとその医者の顔を見たら、
かわいい目をしてんだよ。
あはは。
一同 (笑)
糸井 で、おばけの百目の話に戻るんだけど。
戻るね、律儀に(笑)。
糸井 当たり前だよ。
脱線させたものの礼儀だよ、そこは。
脱線マナー。
糸井 脱線マナー。
とっさの脱線マナー。
どたんばの脱線マナー。
糸井 どたんばの脱線マナー(笑)。
で、百目だけどね、おばけの。
うん。
糸井 百目ってのはさ、1個ずつのまぶたが
いちいち、たるんでるわけだよ。
あー、そうだね。
糸井 あのたるみを手術で直そうとすると、
1個あたり1時間半ずつかかるから
そりゃあ、たいへんだよ。
手間賃も高くつくね。
糸井 そうそうそう。
で、まぁ、けっきょく
なにが言いたいかというと、
個展のために描くおばけのなかに、
百目を入れるとたいへんだよ、っていうこと。
目が百個もあるからな。
糸井 そういうことだよ。
個展の初日まで時間がないんだからさ。
描く目の数は少なければ少ないほうがいいよ。
そりゃ、どうも、ありがとう。
糸井 ちなみに、何枚くらい描くんだっけ?
おばけの絵は。
今度の個展で?
だいたい、20枚ぐらいかな。
糸井 20枚。ああ、そうか。
うーん‥‥‥‥40枚くらい描いたら?
そ、そんなに‥‥。
さっき、目を描くときは
あんなに心配してくれたのに!
糸井 はははははは。
あー、びっくりした。
糸井 そこがいちばん怖かった。
はははは。
(まぶたのたるみを気にしつつ、つづきます)

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2010-10-24-SUN