黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第30回 人魚姫は痛い。
糸井 人魚って、
上と下が逆のパターンはないのかな。
え?
糸井 つまり、
上半身が魚で、下半身が人間の人魚と。
ああ、上半身が人間で、下半身が魚の人魚か。
ふたり どっちがいい?
一同 (笑)
これはなかなか興味深い質問だね。
糸井 伸坊、どっちがいい?
もちろん、人魚が女性だとして。
うーん。
ま、あえていやらしい意味で
目的が下半身だとしてもだよ?
‥‥上半身、魚だよ?
糸井 うん(笑)。
それは、キツいんじゃないかなぁ。
糸井 エラとかバコーンと開いてるからね。
そうだよ。
それは、困りそうだなぁ、いろいろ。
糸井 足はめちゃめちゃ綺麗なんだ。
でも、エラがバコーンと‥‥。
糸井 (笑)
あの、アンデルセンの『人魚姫』の話はさ、
人魚が、人間になるために、
下半身を人間にするわけだよね、要するに。
糸井 そう。で、そのかわりに、
しゃべれなくなるんだよね。
ああ、そうだ、そうだ。
しかも、歩くと痛いんだよ。
糸井 そうそう、そこ、つらいね。
歩くたびに痛い、みたいな話でさ。
糸井 そこに「痛い」をもってくるのって
けっこうすごいよな。
いってみれば、でたらめな話なのに、
わざわざ痛みっていう
概念を入れちゃうわけでしょ。
それはちょっとふつうじゃないよね。
人間になる代償として、
しゃべれなくなるだけじゃ、
足りなかったのかな。
糸井 しゃべれないわ、歩くたびに痛いわ‥‥。
もう、そのままでいいんじゃないか?
ははははは、それは、
人魚のままでいたほうが
いいんじゃないかってこと?
糸井 うん。そのままにしといたほうがいいよ。
オレなら人魚のままでいい。
アンデルセン的には、
どういうつもりで
ああいう話を作ったのかねぇ。
糸井 どういうつもりかねぇ。
まぁ、ふつうに考えると、
思ったとおりにしたいと思うと‥‥。
糸井 代償がありますよ、と。
っていうことかもしれないけど、
あんなに悲劇的にしなくてもいいような。
糸井 もうちょっと軽くとらえてみようか。
つまり、あの、人間になれますけど、
「ちょっと痛いですよ?」と。
「チクッとしますよ?」みたいなこと?
糸井 そうそうそう(笑)。
つまり、ライトな教訓としては、
願えば叶うこともあるけれど、
「ちょっとチクッとしますよ?」と。
はははははは。
あの、「チクッとしますよ?」ってのはさ、
かねがね、うちの奥さんが、
「言い方でごまかしてる」って言っててさ。
糸井 ははははは。
で、うちのが、
それのイヤな言い方の例として
編み出したのが
「ズグッとしますよ?」っていう言い方。
糸井 わぁ、それはイヤだね。
痛そうだよね、
「ズグッとしますよ?」は。
糸井 「ズグッと」は、してほしくない。
魔法使いのおばあさんにそう言われてたら、
人魚姫もやめてたかもね。
糸井 「この薬を飲むと、2本の足がはえて、
 おまえさんは人間になれるけど、
 ズグッとしますよ?」
あはははははは。
(伸坊さんの奥さんはおもしろいなぁ。つづきます)

2009-11-03-TUE

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