黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第17回 タカアシガニの大きさ。
阿修羅像、あるでしょ? 
興福寺の阿修羅像。
糸井 はい、はい。
なんか仏像の話してたら、うちの嫁がね、
「阿修羅像って、
 タカアシガニに似てるよね」って言うんだ。
たしかに、似てるんだよ。
タカアシガニの、このさぁ、脚のところと、
阿修羅像の手のこういうふうに見えるところ。
糸井 ああー。
細くて折れそうな筒っぽいものがさ、
こう、入り組んでるあたりが。
糸井 あの、タカアシガニってのが
ちょっとよく思い浮かばないんだけど。
あ、そう?
ええとね、伊豆の方とかでとれる
ものすごく大きなカニなんだけどね。
軽く、1.5メートルくらいあるような。
糸井 1.5メートルって(笑)。
いや、ほんとに。
糸井 ま、とにかくデカいと。
いやいや、あのー、
ほんとにそれくらいあるんだ。
糸井 1.5メートル?
うん。
糸井 カニで? それはちょっと。
いや、ほんとに。
だって‥‥いるんだから。
一同 (笑)
糸井 ま、いいか。
「ま、いいか」じゃなくてさ。
ほんとだよ。そのくらいあるよ。
お店でふつうに頼んで出てくるようなやつも
こーのくらいはあるよ。
糸井 それ、ぜんぜん
1.5メートルじゃないじゃない。
いや、だから、これは脚だよ、脚。
食べる用に、切った、脚の一部。
人間でいったら、二の腕くらいのところ。
糸井 でも、1.5メートルって、そうとうだよ?
胴体が1.5メートルあるって
言ってるんじゃないよ?
糸井 もちろん、脚ごとでしょ。
脚ごと、脚ごと。
あれ? そんなにないのかな? 
こう、1.5メートル‥‥いや、あるよ! 
1.5メートルくらいあるんだよ。
糸井 その脚ってさ、どうなってるの? 
ビターンと、こう、
カニが開脚した状態を計って
1.5メートルなんじゃないの?
はははははは、カニが開脚(笑)。
糸井 (両指をカニの脚のように
 ギュッと折り曲げて)
ほんとは、こういう状態で、
1.5メートルあるって言いたいわけでしょ?
うん。
糸井 (両指をぎゅっと折り曲げて)こうと、
(両指をピーンと伸ばして)こうとでは、
だいぶ、大きさが違ってくると思うよ。
でも、どっちにしろ、
1.5メートルは大きいよ。
いや、あるんだよ、信じてくださいよ。
タカアシガニ、大きいんだよ。
糸井 全体像を見たことあるの?
全体像って、言われても‥‥。
ああ、でも、中身をくり貫いたあとの、
剥製がね、飾ってあるの見た。
それは、明らかにデカい。
1.5メートルある。
糸井 それはさ、なんかさ、
ノーマルのやつじゃなくて、
ちょっとしたスターのカニなんじゃない?
え?
糸井 つまり、ものすごく珍しいから
飾ってあるというか。
ある種のこう、巨根伝説みたいな。
はははははは。
なんで巨根伝説にいくんだよ(笑)!
一同 (笑)
糸井 ごくまれに、
「こんなデカいのもいるんですよ!」
っていう。
いや、そういう感じでもなくて‥‥。
え、ほんとに知らない? タカアシガニ?
糸井 なんか、深海にいるようなやつ?
そうそう、深海、深海。
というか、浅瀬にいたら怖いよ。
1.5メートルのカニが。
糸井 逃げまどうね、海水浴客が。
パニック映画『タカアシガニ!』だ。
おもしろいねぇー。
いや、違う、フィクションじゃないんだ。
水族館とか行ってごらんよ。
水槽、まるまる1個貸し切りで、
タカアシガニがワシャーっといるからさ。
糸井 それも、巨根伝説だろう? 
めずらしいから、
水族館に入れられちゃったんだろう?
ははははは。だから、
どうして巨根伝説にいくんだ(笑)。
糸井 男根祭りみたいなもんだろう?
カニの話をしてるんだよ。
糸井 あの、ずいぶん昔にさ、日野皓正さんに
ニューヨークで会ったんだ。
うん。
糸井 そんで、日野さんの家におじゃまして
いろいろ話してたときに、日野さんが、
「アメリカ人のも、
 ふつうの大きさなんだよね」って、
サラッと言ったのを覚えてるなぁ。
ははははは。その手の話だと、
湯村(輝彦)さんが
アメリカに行ったときの話がおかしくてさ、
バスに乗ったら、ものすごくデカい黒人が
いちばん後ろのシートにどーんと座ってたと。
糸井 うん。ふふふふ。
それで、こうひざのあたりで、
手を、こういうふうに撫ぜ回してて
なにやってんだろうな? と思ったら、
ひざのあたりまである、それを、こう‥‥。
一同 (笑)
糸井 それを触ってたって言うんだよな(笑)。
あの、オレは、思うんだけどね。
うん。
糸井 あれはウソだよ。
湯村さんはウソをついてると思う。
ははははははは。
糸井 タカアシガニ。巨根伝説。
いや、だから、カニの話。
水族館に行ってごらんよ。
いるから、でっかいのが。
糸井 だから、水族館にいるタカアシガニは
大きいんだよ、特別に。
もう、なんでもいいけどさ。
糸井 逆に言うとさ‥‥あ、これは、もう、
まさしく「逆に言うと」なんだけど。
つまり、正確な意味での
「逆に言うと」の使い方なんだけど。
なに。
糸井 逆に言うと、
水族館にいるクジラは小さいよね。
はははははははは。逆に言ったねぇ(笑)。
糸井 うん。ものすごく
「逆に言った」っていう実感がある。
ははははははは。
糸井 水族館のタカアシガニは大きい。
逆に言うと、水族館のクジラは小さい。
水族館にクジラって、いる?
糸井 いるよ。ハナゴンドウクジラとか。
それはね‥‥1.5メートル以上、ある。
ああ、思い出した。
ポイントは、大きさじゃない。
タカアシガニは、
興福寺の阿修羅像に似てるっていう話だ。
糸井 ハナゴンドウはクジラじゃなくて、
イルカだったかな‥‥。



(なんとか収拾をつけつつ、つづきます)

2009-10-19-MON

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