糸井 あの、広隆寺の、弥勒菩薩のさ、
小指を折っちゃった大学生がいるんだよね。
そんなことがあったっけ?
糸井 弥勒菩薩が、
あんまりミロク的だったんで。
なんだって?
糸井 弥勒菩薩が、
あんまりミロク的(魅力的)だったんで。
はいはい。
糸井 近づいて、どういうはずみか、
小指を折ってしまったという。
ほぅ。
糸井 その事件が、
オレの人生にどう影響したかというと。
うん。
糸井 たまに弥勒菩薩を観に行く人になってしまった。
へぇぇ(笑)。
糸井 「そんなにええのんか」と。
いい話だね。
糸井 こないだも、京都に行ったとき、観てきたよ。
その事件がきっかけなのか、
いまはもう、高い場所にあって、
簡単に近づけなくなっちゃってるんだけど。
ふーん。そういうことでいうとさ、
ちょっと前に、薬師寺の
日光菩薩と月光菩薩が上野に来たでしょ。
糸井 はいはい。
オレは中学のときに
修学旅行で観たことがあって、
よく覚えてるんだよ。
糸井 うん。
なぜよく覚えているかというと、
あれは、ウエストが、
こう、くびれてるんだよ。
糸井 ほー。
きっと、当時からオレは、
そういうふうに観てたんだね。
つまり、やらしい意味合いでさ。
糸井 中学時代の伸坊が。
そう。「くびれてるな」と思って。
それで記憶に残っちゃった。
糸井 日光、月光、くびれてる。
ははははは、そうそう。
にっこう、がっこう、くびれてる。
糸井 にっこう、がっこう(手拍子)。
くびれてる(手拍子)。
ふたり ♪にっこう、がっこう、くびれてる(手拍子)。
てなもんだ。
糸井 ♪にっこう、がっこう、いやらしい(手拍子)。
♪にっこう、がっこう、いやらしい(手拍子)。
ふたり ♪にっこう、がっこう、いやらしい(手拍子)。
てなもんでさ。
糸井 ははははは。それで?
それで、上野に来たっていうんでさ、
たのしみに出かけたんだ。
今度は、うしろからも観られるっていうしさ。
糸井 ああー、うしろからもくびれてる。
そうそう(笑)。
糸井 ♪にっこう、がっこう、うしろから(手拍子)。
もういいよ。
糸井 もういいか。
ま、ともかく出かけたわけだ、上野まで。
糸井 うん。
でね、うちの奥さんと
いっしょに行ったんだけどね、
奥さん、日光菩薩のほうを、
ものすごく気に入っちゃって、
日光の下にたたずんで、
こう、ずっと見てるんだよ。
糸井 女のくせに。
うん。
いや、菩薩だから、
女でもあるし、男でもあるし。
糸井 ああ、そうか、そうか。
で、日光の方はね、
どちらかというと男っぽいんだ。
月光の方が女っぽい。
ほとんどおんなじに見えるんだけどね、
そういうものらしいんだよ。
糸井 なるほど。
それで、うちのが、いつまでも動かないんだ。
こっちはもう、
出口のところで待ってるんだけど、
ぜんぜん出てこない。
ずーっと、こう、下から見てる。
糸井 小指を折りかねないね。
折りかねない。
小指どころか、腕1本くらい折りかねない。
糸井 ははははは。
しかもね、そのあと、
何日かしてから、また行ったらしいんだ。
「また今日も日光のところ行って来ちゃった」
なんて言ってる。
けっきょく、5回ぐらい通ったみたいなんだよ。
糸井 ええ!
変でしょ?
糸井 ちょっとした愛人だね。
そういうふうに
熱心に仏像を観られるものなのかねぇ、
なんて思ったんだけど、考えてみたら、
自分も中学のときにそうやって観てたわけだよ。
糸井 くびれたところをね。
うん。
糸井 じゃあ、おんなじ仏像を夫婦で‥‥。
いや、おんなじじゃないんだ。
オレが好きなのは月光で、むこうは日光なの。
「悪ぃけど、月光の方は、
 ぜんぜんこない」って言ってた。
「こない」ってのも変な言い方だけどさ。
いったい、なにがくるんだか。
糸井 ははははは。「ぜんぜんこない」(笑)。
「悪いけど」っていうのもねぇ、
誰に悪いのかなぁっていう。
糸井 (笑)



(♪にっこう、がっこう、つづきます)

2009-10-05-MON


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