第17回 年寄りは繰り返す。
あのね、古い床屋さんが、うちの前にあって。
もう亡くなったんだけど、そこのおじいちゃんが
とってもおしゃべりだったんだ。
糸井 うん。
おじいちゃんと、その息子と
二代でやってる床屋でね。
あるとき、オレがそこで
息子のほうに刈ってもらってたら、
おじいちゃんが、客のおじいちゃんと
ふたりでおしゃべりをはじめたわけ。
糸井 ああ、いいね。
床屋で、おじいちゃんどうし。
それを聞いてたらね、床屋のおじいちゃんが
「なんとかちゃんはさ、
 なんとかって病気になったんだよね?」
って訊くんだ。で、お客のおじいちゃんが、
「そうなんだよ」って。
そしたら床屋のおじいちゃんが
「でも、痛かったりはしないんでしょ?」って言うわけ。
「ああ、痛かぁねぇんだよ」って答えると、
「痛いのは、ヤだよねぇ、
 そんならいいやねぇ」なんて言うの。
糸井 うん。
で、しばらくすると、床屋のおじいちゃんが、
「なんとかちゃん、どうなの最近?」って言う。
「いや、まぁ、べつに。
 持病はあるけど、昔からだからさ」って言うと
「でも、痛かないんだよね?」ってまた訊くんだ。
糸井 あはははははは。
で、「うん、痛かねぇんだ」って。
オレ、聞きながら「さっき言った」って
つっこんでんだけど、おじいちゃんたちは、
「痛かねぇんだ」
「そんならいいや‥‥。
 痛いのはヤだけどねぇ」って、ずっと言ってる。
糸井 小津映画ですね。
そうそう(笑)。
糸井 いや、たしかにオレも年を取ったけど、
まだ「何度も同じ話を繰り返す」
というところには行かないね。
ああ、オレもそうだな。
「さっき言ったからなあ」って思っちゃうよね。
糸井 そこは行かないね、まだね。
しかし‥‥いずれ行くかね?
行くんだろう。
一同 (笑)
糸井 でも、「繰り返す話に相づちを打つ」っていう
練習はしてるよ。吉本(隆明)さんのところで。
ああ、なるほど(笑)。
糸井 「でも、痛くはないんだ」って繰り返したら、
「ああ、痛くないですよねぇ」って
いい相づちを打ってるよ。
吉本さんは、わりと、年を取るまえから
そういう繰り返しを‥‥。
糸井 やっちゃうね(笑)。
むかし、吉本さんの講演会に行ったときにね、
いちばん前の席で聞いてたら、
オレの隣に座ったやつが
吉本さんの話を聞きながら、
「それ、さっき言ったじゃないか」
なんて言ってんだよ。
なんてやつだ、と思ってさ。
糸井 (笑)
そりゃ、言ったかもしれないけど、
何回言おうがいいじゃないかと思ってさ。
糸井 そうだね。
さっき言ったに決まってるよ、
吉本さんなんだからさ(笑)。
同じこと言いますよ、そりゃあ(笑)。
糸井 それは全部、受け止めなきゃ。
うん、うん。
(つづきはつづきをつづけていく)

2008-05-19-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN