岡本太郎記念館・館長の、平野暁臣さん。 TARO MONEYに、何を願う? 2


川田剛さんの
プロフィールは、こちら。
前回の、川田剛さんとのお話で、
糸井重里は、TARO MONEYの利益を
寄附として「贈与」することで
税金を納めることに決めました。
糸井重里事務所のCFOである山田真哉もまじえて、
川田さんとのお話を、ひきつづき、お届けします。

糸井 このTARO MONEYが
いいおみこしになるといい。
わくわくするような、表参道の参道を作るような。
TARO MONEYは、
みんなの思いをかたちにするための、
道具立てなんですよね。
川田 そうですね。
特に、寄附は心の問題ですから。
心の問題を外から判断することになると、
どうしても
形式的になっちゃうんですよ。
そうじゃないと、俺はこうだ、俺はこうだ、と、
みんなが勝手なことを言い出しますからね。
表から誰が見ても「まぁしょうがないかな」と
思えるものでなくてはならない。
何かで割り切らざるをえないんです。
糸井 どこまで行っても、心と物質の問題ですね。
川田 寄附も、税も、哲学の話になってきますね。
糸井 ぼくは、若い頃に比べて、
納税意識が高くなってる、ってことに
いま気づきました。
川田 それは、ありがとうございます(笑)。
私は元税務職員だったものですから。
糸井 そうか!
山田 局長、なさってましたから。
糸井 こんなにくだけた会話をしていただいて
ありがとうございます。
川田 いえいえ!
糸井 税金のことって、
「納税と労働と教育が国民の三大義務です」
それ以上の説明がないんですよ。
哲学にいかないように
わざとそこで止めてるんだと思うんですよね。
川田 先般、授業で学生に
「あなたのイメージする税金て何だ?」と、
アンケートをとってみました。
いろんな回答が返ってきますよ。
そうするとみんな考え方が違う。
山田 それを集約した結果、
「義務だから」と言うのが
解答としてはいちばんしやすいんでしょうね。
糸井 ほかの考え方をちょっとでも入れると、
永遠の論争になってくるんだよ。
俺、生まれてはじめて
税金のことを
こんなにたくさんしゃべってるな(笑)。
なぜ自分が納税意識が高まったかというとね、
どうやって節税するかについて
一所懸命考えてる人は儲かんない、
っていうふうに、思うようになったからなんです。
川田 あ! それは、正解です。
ほんと、そうなんですよ。
税金を払わないことを考えている暇があったら、
別の儲けを考えたほうがはるかに前向きです。
糸井 ある季節になると、
細かい税金をどういうふうに払わないかという話を
懸命にする人たちが出てくる。
それが「だめだな」と思えてしまうのは、
それはつまり、防御なんですよね。
どうやって自分たちの利益を
最大限にしようかという話じゃなくって、
どうやって鬼から逃げるかっていう話なんです。
逃げてる姿勢って、稼げないんですよ。
川田 うん、うん。
おっしゃること、よくわかります。
糸井 税金逃れの話を真剣にする人たちのことが
すっごく小さく見えたんです。
自分が大きいか、つったら、大きくはないんだけど。
川田 いえいえ、それだけで立派です。
おっしゃるとおりで、
ディフェンシブになって
とにかく自分の税金を少なくしようなんて言ってたら
発展がないんですよ。
糸井 若いときって、一銭も払いたくないんですよ。
自慢じゃないけど、
例えば20歳の自分は、
もうほんとに、税金返してほしいくらいだった。
本気で。
川田 (笑)。
糸井 きっと、獲物を捕りに行く方法を
まったく知らないから、
頭の中が被害者だったんでしょうね。
被害者の気持ちでいると、一生報われないんですよ。
先生が税務署の側におられるときには、
どんなふうに感じていらっしゃったんですか?
川田 やっぱり、払いたくない、という
気持ちの人が多いですよ。
だけど、その問題を突き抜けた人も
けっこういるんですよね。
やっぱり、成功してる人は、
どっちかと言うと突き抜けた人のほうが多いです。
糸井 税金が払えることが誇りだった時代も
ありましたね。
納税してない人は選挙権がない時代さえ
あったわけで。
だから、いわば納税の権利は
一国一城の主のあかしだったわけです。
山田 納税する人たちは、
そういうふうに、納得して払いたいですね。
糸井 払いたい、払いたい。
山田 税務の勉強をはじめたとき、
ほんとにグレーゾーンが多いんだなと思いました。
ビジネスの数だけ法律を作るわけにはいかないので、
そこはやっぱり限界がありますね。
川田先生は、もともと税を徴収する側にいて、
いまは、税理士の活動をなさっています。
「決まりだから取る」じゃない、
と考えられたことって、
たくさんあったと思うんですけど。
川田 そうですね。
金に執着する人もたくさん見ましたし。
実際私自身が査察の現場に行ったこともありますよ。
山田 〇査、つまりマルサですね。
川田 現場に踏み込んで、寝起きを襲ったこともあるし、
犬に噛みつかれたこともあるし(笑)。
糸井 そのときに、自分を鼓舞する動機は
どういう‥‥?
川田 それはもう、正義感ですね。
あれはおもしろいもんでですね、
ああいうのをやると、
自分が正義そのものみたいになっちゃうんです。
それはそれでよいことだと思うんですが、
冷静になって考えてみれば危険なんですよ。
やってるときは、気づきにくいんですが。
糸井 でも、それがないと、
危険を顧みずに何か守ることって、
川田 できないですね。
糸井 ずっと民間にいると、そういう経験はないですね。
川田 いまは国税を辞めて、税理士活動をしていますから、
逆なんですよ。
ですから、両方のことがわかるようになりました。
ただ、問題なのは
「おさまりどころは、この辺だよな」
という気持ちになってしまうことです。
自分がアンパイアみたいになっちゃうんですよ。
糸井 そこはもしかして、
いまの山田さんと、似ているね。
山田 監査法人側だったのが、いまは、
糸井事務所の中にいますので、
そういう意味では両方の気持ちがわかる。
確かに中間になりますね。どうしても(笑)。
糸井 真ん中が難しいんですよ。
格闘技でもルールを作るのが
いちばん難しいですからね。
山田 そうですね。
税金もルールがすべてですし。
川田先生は、消費税のときに
ちょうど国税におられたわけですね。
糸井 そのときに、消費税の問題点は、
だいたい洗いざらい出ましたか?
川田 だいたい出たんじゃないでしょうかね。
問題は、これから税率を上げていくときに
どうしていくのか、ですね。
例えば医療や食料品にかかる消費税を
どうするんだという問題がすぐに出てきます。
そこは政治的な仕切りの問題です。
基本的にどう考えるのかという
哲学の問題になってしまうんですね。
糸井 また。また、そうなんですよね。
川田 ええ。
糸井 いや、哲学論争だらけだね。
誰がどう決めるんだっていう話ですよ。
川田 そしてそれは、時代と共に変わっちゃうんですよね。
糸井 税金自体が、時代と共に変わったという、
いちばん大きな流れは、どの辺りですか。
川田 消費税の導入あたりからじゃないでしょうか。
糸井 やっぱり、そうですよね。
つまり、あのときに、
経済が生産の側じゃなくて、
消費の側のところに軸足を移した、
ということなんですね。
それ、まだ、あんまり理解されてないですね。
川田 されてないですね。うん。
糸井 税の考え方が進んでる、
モデルになるような国ってあるんですか?
川田 ないですね(きっぱり)。
よくスウェーデン型かアメリカ型か、
というようなことが言われます。
でも、やっぱり、
その国に合う税制はどのように作っていくべきか、
ということで、ある意味で
哲学ということになっちゃうんです。
とにかく、日本として
どういう社会がいいのかで
税のあり方が決まってくる。
税は先じゃなくて、社会のあり方を決めた後です。
糸井 差がつきませんようにと
政治が運営されると
がんばった人は報われないという
ブーイングがあって、
そうじゃないと、格差社会がけしからん、
というふうになる。
必ずみんなが納得することはない。
川田 ありえないですね。
糸井 自分の立場に合わせて
普遍化するかのような意見を言い合うっていうのは、
やっぱりあんまりうれしくないことなんだけどな。
できる限りポジションに関わらないトークを
するべきですよね。
またこれ精神論になっちゃうんだけど。
相続させる財産がないけど、払いたいなー!
っていう貧乏人が出てきたり。
山田 ポジションが逆なことを言うと
かっこいい。だけど、
仲間うちからは裏切り者扱いですね。
糸井 うん。でも、ドラマっていつもそうで、
裏切り者の物語なんですよ。
戦争の前線で、敵の兵隊を助けるのは、
典型的な裏切り者です。
お代官の前で、我が子の手を
争って引っぱるふたりの母親のうち、
本物の母親が手を離す物語も、そう。
ぼくは、これからの時代はそこだと思ってんだけどね。
今度のTARO MONEYなんかは、
このためだけにぼくらがなぜやってるのかという、
しかも税金も納めるぞ、という
ポジションなんて、大きく
わけわかんなくなってるわけです。
これからは、企業がみんな、この役割を
担っていくんだと思う。
川田 非常にいい、おもしろい企画ですよね。
おおいに期待しています。
糸井 いい教材ですね。
岡本太郎のね。
川田 本日はたのしいお話をありがとうございました。

以上で、川田剛さんとのお話は、終わります。
TARO MONEYの販売開始は、
ゴールデンウィークあけです。
次回、糸井重里とTARO MONEYは、あの人を連れて
『明日の神話』を観に行きますよ。
おたのしみに。


2006-04-25 TUE

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