第10回 岡本太郎は、生きている。

ぼくはきみの心のなかに生きている。
その心のなかの岡本太郎と
出会いたいときに出会えばいい。
『太郎に訊け2』(青林工藝舎)より

糸井 敏子さんは、
自分が何かを決めるときに、
「太郎が決めてる」って言い方をしますよね。
敏子 うん。
糸井 そう言われたとたん、ほんとに
太郎さんが決めてるんだな、って
思えちゃうんですよ。
敏子 だって、ほんとにそうだもん。
自分ではかりごとを巡らせたことなんて
いっぺんもないのよ。
「将来の計画は?」なんてよく訊かれるけど、
そんなの、なんにもない。
ここにある、やるべきことを、
一生懸命やってるだけなの。
だからぜんぜん怖くないの。
糸井 それって、太郎を
好きとか嫌いとかのレベルでは
ないですよね。
敏子 好きよ。
糸井 それだけじゃない、なんか、
こう‥‥敏子さんは、
本人化してるじゃないですか。
敏子 あははは。そんなことないわよ。
わたくしはほんとに平凡な人間なんだから。
くっついて歩いただけよ。
糸井 敏子さんは、太郎さんを好きだから
手足になってるんですか?
敏子 でもないわねぇ。
糸井 なんなんだよ(笑)!?
だって、ふつうに考えたら
生きてないわけですからね。
敏子 あら、生きてるのよ。
糸井 (笑)生きてんだよね。
これまで敏子さんとは、
何度もこの話をしてるんだよ。
敏子 いっぺんも太郎さんが死んだと
思ったことないもん。
糸井 確信してるんだよね。
僕は、敏子さんにこのツッコミをしては
「生きてる」って言われるのが
うれしいんです。
敏子 ほんとなんですよ。
糸井 そんなにまで人に好かれるって、
どういうことだろう?
僕はね、岡本太郎のいちばんのアートは、
敏子さんに好かれることだったんじゃないか
って思うんです。
敏子 うふふふ。
糸井 絵も彫刻も、すごいと思うものはたくさんあるけど、
ひとりの人間をこれだけ、
「何か」にしちゃったんですよ。
しちゃったんじゃないな、
なっちゃったんだよね?
その力がすごいし、
それだけで尊敬しますよ。
敏子 ほんっとうに、いい男なんだから。
糸井 おぉぉぉ(笑)。
敏子 みんなに見せてあげたいわよ。
みんなに、みんっなに
岡本太郎に触ってもらいたいわ。
糸井 コンピューター系の博士の発言でね、
「問題を解決するには、
 問題そのものになることだ」
っていう、名言があるんですよ。
敏子 うん、うん。
糸井 俺、それに、ジーンときてね。
岡本敏子は岡本太郎なんですよ、
しょっちゅう。
なっちゃってるんですよ、問題そのものに(笑)。
敏子 うん、そうね。
糸井 それが羨ましくてさぁ。
いい男なんだろうな。
敏子 いい男なのよ(笑)!
糸井 かっこいいよ、敏子さん、
それはものすごくね。
そういうこと言われてる人って、
宗教家とかではいるんでしょうけど、
個人と個人の間で、ふつうはないよね。
敏子 あのね、『奇跡』っていう小説を書いたの。
11月26日に本になりますよ。
糸井 それを読めばわかりますか?
岡本太郎さんが、どうして
岡本敏子に好かれたかが。
敏子 うん、わかると思う。
糸井 それだけ人に
好かれてみたいもんですよ。
敏子 糸井さんは、
じゅうぶん好かれてるでしょう?
糸井 先生、それはもう、違います。
敏子 違う?
糸井 違います。
何代か生きて、
8代ぐらい生まれ変わって、
そのうちの1回ぐらいでも
このぐらい好かれてみたいな、と思いますよ。
敏子 あ、そう。


TAROの右にいるのが、敏子さんです。
糸井 この写真、きれいだね。
敏子さん、うれしそうですよね、
いて、うれしそうですよね。
敏子 はい、はい。
糸井 そういう一生送ってみたいよ(笑)。
くそう、
ひ弱な坊ちゃんだったくせしやがって。

(つづきます!)

2003-11-25-TUE

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