オリジナル・ラヴの田島貴男といえば、
泣く子も黙る、サウンドのクオリティと歌唱力。
そんな「こわいものなし」にみえる田島さんが、
TAROの文庫本をボロボロになるまで
読み込んでいるという噂を聞きました。
以前ケーキづくりが趣味だったという田島さんに、
岡本太郎記念館の庭にあるカフェ
a Piece of Cake
お話をうかがうことにしましたよ。


第3回
もったいないぞ、落ち込まないと。


── 田島さんは最近、CDの録音などで
「一発録りをした」とおっしゃっていることが
多いですが。
田島 「一発録り」は、
歌と演奏がからみあっていて、
生きた歌になるんです。
レコーディングのときって
歌詞ができあがってないことが多くて(笑)、
なかなかできないんですが、
演奏と一緒に歌をいっぺんに録っちゃうのが、
ほんとはいちばんだと思う。
── スタジオで音楽をつくりあげていくスタイルが
一般的に思われていたような時代があって、
いま、田島さんのような方が
「一発録り」とおっしゃっているのは
変化の象徴になるようなことだと思うんです。
田島 僕はもともと、
60〜70年代の音楽のファンなんです。
80年代でいうとパンク、ニューウェーブまで。
多重録音とか、
ドラムベース別録りっていう録音方法を
とっている音楽って、
どっちかというと
「自分がぞっこん惚れる!」みたいな
音楽じゃなかったりするんですよ。
一発で録っている歌は、
いちばん「歌」だな、と感じます。
そこになるべく近づきたいと
僕はいつも思ってるんです。
── 「録音」が、さも目的のように
考えてしまいがちですが。
田島 音楽は「録音」が目的なんじゃなくて、
まずは、いい演奏と歌があるということが
基本的なあり方なんじゃないかな、と思うんです。
そこから発展して、
ビートルズがやったような
録音でいろんなしかけをつくったりする
というようなことが出てくる。
── まず最初の演奏がいい、歌がいい、
ということがあって、
録音でおもしろいことをやる。
田島 音楽の、なにがいいかっていうと、
「歌が泣けるか」「演奏が泣けるか」
「そこでグッとくるかどうか」
というところだと思うんです。
── 「グッとくるかどうか」は、
表現者自身が自由でないと
できないことですよね。
田島 そうですね。
でも、もちろん
ある程度のテクニックが必要だし、
ソウルがないとだめなとこなんですよねぇ。
── TAROの表現の自由さは、
どういうところにヒミツがあるんでしょう?
田島 岡本太郎さんの言う自由って、
ただ自由なだけではないですね。
「マイナスに賭けろ」っていう言葉が
端的にあらわしていると思うんですが、
縛りがきつければきついほど
拘束や決まりごと、プレッシャーが
あればあるほど、
自由であろうと
思うことに意義がある

と言っているんだと思う。
── 迷ったときには、
プラスに思える道よりマイナスの道を選べ、
という、TAROの言葉ですね。
田島 そっちに行ったら危ないんじゃないか、
ということを知っているうえで、
そっちの道に行ってしまえ、ということ。
それは、す〜ごく正しい
思うんです。
岡本太郎さんが言いたかったのは、
「そういうところを通ったうえでの自由さ」
なんじゃないのかな、という気がします。
── TAROは、パリから日本へ
決然とした覚悟をして
帰ってきたということなんですが。
田島 うん、岡本太郎さんは、
自分の描く絵では、
日本でうまくやっていけないだろう、
ということがわかっていたんだと思います。
たぶん、フランスでは現代絵画が
一般的であっただろうけど、
日本ではまったくそうでない状況だったから、
日本のほうがきついって
わかっていたんでしょう。
でも、そこであえてやっていくぞ、
と思ったんでしょうね。
理解されない絵を描くぞ!!とね。
それが岡本太郎さんを
とてもよくあらわしていると思うんです。
アホウじゃないか、
この人は!
かーっこいいぃ
(ウラ声)
って、僕は思う。
── 瞬間瞬間にマイナスに賭けて
生きていくってことは、
いまを生きる人たちにとって、
新鮮に聞こえるけど、
実践しにくいことかもしれませんよね。
田島 岡本太郎さんが言っていることで
大事だと思うのは、
がんじがらめになったり
やばいと思っている自分に、
「困難な状況にいるとき、
 そのときこそ
 おまえは
 すばらしいんだ」

って言ってるということなんです。
自分を縛ったり、
やりたいことをやれない状況だったり
そういうときって、じつは、
すっごいラッキーな状況にいるぞ、
ということでしょう。
そういう状況の取り方は、
岡本太郎さんが兵隊にいって、
自分からすすんでぶん殴られた、
あのエピソードがあらわしてます。
不良の生命力というか、
そういう状況で盛り上がっていくときが、
命がいちばん彩られているんですね。
── 「おまえは、いまがすばらしい」
っていうのは、
みんなに言いたいところですね。
田島 ええ。自分にとっての障害に立ち向かって
もっと苦しい気分になるというのが
「自由なんだ」ってことなんですよ。
やりにくいところがなくて、
障害を感じることができていない人っていうのは、
じつは不自由だと、そういう気がします。
だから、大事なのは、
疲れちゃって、「ハー」となってるときに
「落ち着くな!!!」
っていうかさ(笑)。
なんていうんだろうね!
── ‥‥TAROは疲れなかったんでしょうか?
田島 いや、しょっちゅう疲れて、
「俺はもう死にそうだ」とか
言っていたと思います。
そこで岡本太郎さんがとことん落ち込んでいるのが
すばらしいな、と思うんです。
── 追い込む、追い込む!
田島 「あっ、もったいないもったいないもったいない、
 もっと落ち込まないと!」(笑)。
負けても勝ってもどっちでもいい。
まずぶん殴られちゃえばいいんだ、
それがすばらしいことなんだよ、と言ってる。
そこが泣けるんです。

(金曜に、つづきます!)


a Piece of Cake
おすすめののみもの

ハニー・レモネードice 
800円

a Piece of Cake

岡本太郎記念館の庭に面したカフェです。
庭にあるTARO作品を眺めながら
おいしいお茶やケーキをたのしめます。
※記念館に入館しなくても、カフェに入れますよ。
 お散歩がてら、気軽に入ってくださいね。

2003-12-16-TUE

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