第7回
かわいいね、みんな、かわいい。

── TAROは、環境に恵まれたのはもちろんですが、
自分でも、かなりのがんばりが
あったのかもしれません。
目を見開いていないと、
のまれてしまう危機感が
あったのではないでしょうか。
みうら 世間からは
たぶん厳しいことを言われていたんだろうし、
変な人だと思われていたんだろうね。
でも、その「変」を、
KEEP ONした人だけが
芸術家っていわれて、
KEEP ONしなかった人を、
たんなる「変な人」と呼ぶんだろうね。

ずーっとKEEP ONすることって、
俺はかなり重要だと思う。
── 亡くなるまで、作品をたっくさん、
つくりつづけましたからね。
みうら やっぱ、じいさんまでやるってとこが
おもしろいよね。
「じいさんでもこれかい!」ってとこが
おもしろいんだよね。
「じいさんはこれじゃねーだろ!」ってとこが
おもしろいんだよね。
── うははははは。
みうら そこがすごいよな、と思うわ。
やっぱ、描いてるとうまくなるもん、
絵って。
なんないんだもん、岡本さん、すごいよ。
── 『今日の芸術』という著書にも書いてあります。
「芸術は、うまくあってはならない」。
みうら そのへんが岡本さんの、マイルールなんだよ。
マイルールでマイブームなんだよ、
この人の。
── そうやってがんばらないと、うまくなくは
描けなくなっていくんだなあ。
みうら 俺、デッサンが下手だったんだけど、
美大に行くためにはデッサンができないと、
だめなんですよ。
あの審査って、芸術じゃないから。
── 「うまさ」ですよね。
みうら うん。形がとれてるか、
光を感じてるか、ってことだから。
あんなことする意味がぜんぜんわかんなくて
二浪もしちゃったんだけど。
横尾さんも、本で
「アカデミックな教育は意味がないから
 大学に行くのをやめた」
とか書いてたけど、
たしかにそれはそうだな、と思った。
でも、俺は行っちゃった手前ね(笑)、
もうどうしようもないんだ。
だからもう、高卒でいい、もう、ほんとに!
── なにもそんなにヤケクソ風に
おっしゃらなくても。
みうら もお〜〜ほんっと、
行かなきゃよかったと思っちゃった、
そんなんだったら。
なんの意味もなかったもん。
── TAROは、パリの大学に行ったとき
民族学を学びましたね。
みうら ああ、わかるわかる。
だから、もう「ある」んだよね。
もう「ある」ものを、
マイルールで描いてるかんじがする。
── さて、ここが
TAROのアトリエだったところです。
みうら へええ。そのままにおいてあるんだね。
この絵は?


左にある絵は?
── 「明日の神話」という絵なんですけれども、
これは実は壁画の下絵なんです。
壁画実物は、先日メキシコで
35年ぶりに発見されたそうなんですよ。
みうら そうなんだ、35年ぶり!
へええ。
ねえ、あそこに船が描いてあるのがいいよね。
── 右の下側に小さく黒い船が
描いてありますね。
みうら 全部壊そうとしてるよね、あれで。
ここまで描いといて、台なしだもん。
ほら、みてよ、子どもの絵みたいに、
船が描いてあるよ、あそこに。
── ええ。
みうら かわいいね。
── ええ。
みうら ‥‥ところでこれ、
お風呂屋さんにあったら
ぜったい、なごめないね。
情熱的だもんね。
うん、いい絵だね。
大っきい絵って迫力あるよね、やっぱ。
── みうらさんも
描いていらっしゃいましたよね。
100号の絵を、たくさん。
みうら うん、「天狗レノン」とか。
誰も描かないの、描こうと思って。
── どういうきっかけで?
みうら 仏画の連載やってたんだけど、
雑誌の片ページだったから、
いつも小さい絵で入稿してたんだ。
でも、担当の編集の人がおもしろい人で、
ちょっと困らせようかな、と思って
大きい絵で描いてみたんですよ。
それで「持って帰って」って言ってみた。
そしたら、その人、
たいへんそうにかかえて、
だまーって、持って帰って。
そのようすを、事務所の窓からみてて、
おんもしろくてさー。
それから、その人を困らせるために
どんどん大きくしてって、
ついに、100号の絵を描いたの。
タクシーにも乗らないサイズ。
編集部の人が3人がかりくらいで来て、
何にも言わず持って帰った(笑)。
── たいへんですよ、それ。
みうら 撮影しなきゃなんないし、
ヤでしょうがないよね、そんなの。
── 入稿のだんどりとか、考えただけで
気が遠くなります。
みうら ところで、岡本さんってさ、
にこーって笑ってるとこと、
ガーッとポーズとってるとこと、
ぜんぜんちがうね。
サービス精神なんだよね。
── そうですね。
言葉も、わかりやすいものを選んで
話していたんだろうと思います。


TAROのアトリエで、TAROのポーズ。
みうら 岡本さんってさ、
顔が、もう、「太陽の塔」だよね。
自分の似顔絵じゃん?
目、むいて、眉間にシワ寄ってる。
── そうですかね?
「太陽の塔」の、
おなかの顔ですよね。
みうら そうだよ。口もそうなってるもん、この人。
太陽の塔のおなかについてるの、
自画像なんだよ、きっと。
だって、目、ものすごくむいてるもん。
── そうですね‥‥。
よくよくみると、似てるなあ。
みうら 岡本さんの絵が嫌みにみえないのは、
プリティーだからだよね。
人物も、やっぱり
プリティーな方だったんだろうね。
── そうでしょうね。
みうら プリティーな人じゃないと
つくらないもん、自分の蝋人形。
そうとうプリティーな発想だよ。
あの手の椅子なんかも、すーごくプリティ。


絵の右に、プリティな手の形の椅子。
── 外にいっぱい椅子が置いてありますよ。
もう暗くなっちゃったけど、
庭に出てみましょうか。
庭では、大きいオブジェが制作されたそうです。
塀が低いからよく人が覗いたそうですよ。
みうら かーわいいよね、
みんな、かわいい。


木の下に大きくてかわいい彫刻が。
みうら この大きいの、
呪術に使う人形みたいだね。
かわいいんだよね、
アフリカとかの呪術の人形って。
で、やることすっげえこわいんだよね。
ものっすごい恨みとか込めたりするんだけど
かわいいんだよ、そういうもんって。
だって、五寸釘打つやつだって、
かわいいじゃん?
── たしかに。
みうら かわいいから、こわいんだよね。やっぱね。
「かわいいこわい」って、
岡本さんの魅力だよね。
── これ、鐘なんですけど。
みうら ついてみようかな。
あー、いい音すんね。


ガイーン、ゴイーン!
── みうらさんだったら、この庭、
今後どうデザインされますか?
みうら この庭ですか?
そうですね、とりあえず、これ、ぜんぶ、
どけますね。
── ははははは。
そうですか。
みうら どけます。
庭として、使います。
── これで、記念館見学はおわりです。
ありがとうございました。
みうら なんか、勝手にしゃべっちゃったなぁ。
── でも、TAROもきっと同じことを
考えているような気がしますね。
みうら でも、なんか、岡本さんに
「そういうことは
 しゃべることじゃないんだ!」

とか言われそうだよ。
「そういうことは、
 言葉にすることじゃない!」とか。
いまにも怒って、
あのへんから出てきそうだよね。

(みうらじゅんさんの遺伝子の巻・おわりです)

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2003-12-05-FRI

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