その3

六本木ヒルズになったわけ。

芝崎
じつは、この企画を知って驚いたというか、
すぐに思ったのは、
「なぜ六本木ヒルズでやるのかな?」
ということだったんです。
糸井
これはね‥‥(笑)、そうですよね。
会場をみんなで探しまくったんだけれど、
雨が降ってもできるってことと、
ある広さが必要だってこと、
そして食堂ができるっていうことが、
すべてできる場所って、本当にないんです。
ぼくらがもしむやみにお金があるんだったら、
その要素を全部備えた場所を作りたいくらいです。
そんななか、六本木ヒルズには
そういう条件をクリアできる設備が揃っていました。
いっぽうで体育館的な場所であるとか、
大きなイベントをひらくカンファレンスの施設だとか、
冗談のように「東京ドームだったら?」ということまで
考えてみたんですけれど、
それは「生活のたのしみ展」のデビューとして
どうなんだろう? と。
体育館的なことじゃないような気がちょっとしていて。
1回目は、とてもそこまでのサイズにはならないし、
でも、なっても構わないと思いながら
やったほうがいいとは思っています。
芝崎
六本木ヒルズという言葉で
普通の人たちがもつイメージとは、
まったく関連はないということなんですね。
六本木ヒルズって、実際には、
そこに住んでらっしゃるお金持ちの方たちだけが
あそこにいるわけじゃないわけです。
いろんな方がいる。
海外からいらっしゃる方も来るし、
映画を観に来たとか、美術館のついでとか、
買い物ついでなど、いろんな人が来る。
だから、いつも「ほぼ日」を見ている人じゃない人たちが
たくさん来るところをあえて選んだのかなと
私は思ったんです。
糸井
いえ、それを選べるほど、ぼくらに余裕はありません。
きっとどこでやっても
行ってみようって思ってくださる人が、
まずは来てくれるんだろうなと思います。
六本木ヒルズって、
電車とかでちょっとだけ便利じゃない感じがしてたのが、
ぼくは「いいぞ」と思いました。
都心なんだけれど、
渋谷や新宿などのターミナル駅からすぐ、
というわけではない、そういう場所に
「普段行ってないんだよね」
っていう人が来てくれるのは、
ぼくらのやってることを
理解してもらうのにいいんじゃないかな。

三國万里子さんのちっちゃいイベントって、
奈良でやっても、青山でやっても、
同じようにひとが集まるんです。
そんなイメージから始まるんだろうなと思いますね。
芝崎
最近、雑誌を作っていて思うのは、
六本木ヒルズに住んだり、
お勤めなさってるような方たちも、
生活で何を使ったらたのしいんだろう?
みたいなことをすごく考えていて、
所有したから嬉しい、ということだけじゃ、
全然、もう、ないということです。
糸井
ないですね。そうですね。
芝崎
モノへの価値の付け方が
ずいぶん変わってきたんだなと。
糸井
変わりましたね。
昔のお金持ちは、百貨店の外商に頼っていれば
なんとかなったんです。
でも、外商が腕組みして悩んでいるのが「いま」ですよね。
「お宅の生活のレベルだったらこれが必要です」
という考えじゃなく、
どこまで目が届いてるかみたいなことが、
多分、かなり問われているんじゃないでしょうか。

例えば「ほぼ日」の「うちの土鍋」とか、
「やさしいタオルケット」などは、
セゾンカードのポイント交換の商品としてお願いされて、
出すんですけど、すごく人気が高いんですよ。
つまり、ポイントを山ほど持ってるのに、
買う(交換したい)ものがない人がいるんです。
その人たちに対して、伊賀の福森雅武さんと
いっしょにつくった土鍋であるとか、
伊藤まさこさんとつくった
素晴らしい木綿のタオルケットは、
高価であっても、すぐになくなってしまうんです。
それが「いま」だと思うんですね。
家に執事がいるわけでもないし、
執事だからといって知識を持っているわけでもないのが
「いま」ですからね。
芝崎
そのモノが実際どんな作りになっているかとか、
作っている人がどんな考えを持っているかとか、
そういうことを本当にみんなが
考えるようになってきています。
「生活のたのしみ展」は、
出展する人の名前がわりと立っていますよね。
誰のお店かというその「誰」が、すごくわかりやすい。
糸井
ぼくらも、仕事していてたのしいです。
こういう人たちを集められるっていうのは。
芝崎
ここに来ないと、これは買えない、
というものが多いのかなと思ったんですけど。
糸井
両方あると思います。
数の少ないものは来ないとダメですけれど、
遠くにいる人にも届くように
あとからウェブで販売する商品も
あるようにと考えています。
今回は初めてのことですから、
これから先どうなっていくかの実験を
しなきゃいけませんよね。
パッとなくなると怒られるわけですから。
──
出展者のみなさんは
「新しいことをやっていいんでしょう?」と
ワクワクしてくださっている印象です。
糸井
「新しい」って言葉とこの人たちが
セットでやってくると思うと、ニヤニヤしちゃうね。
このお皿の上だったら美術も音楽も乗りますから、
そこのあたりは興味深いんです。
人が解釈することで、増やしていってくれますから。

(つづきます)