その1

「たのしい」が大事。

芝崎
『&Premium』(アンドプレミアム)は
2013年の11月に創刊された雑誌で、
コンセプトをあらわす言葉が
「THE GUIDE TO A BETTER LIFE」です。
表紙には毎号、誌名ロゴ下に、
このフレーズが入っているんですよ。
BETTER LIFEということを
創刊時に謳おうと思ったのは、
世の中のみんなが、だんだん、
そういうことを思ってきていると
感じていたからなんですね。
「じゃあ、いまのBETTER LIFEって何だろう?」
ということを考えていこうと。
そして3年とすこし続けてきた中で、
いまだによく聞かれるのが
「BETTER LIFEって、いったい何ですか?」
ということです。
これまでは、私もちょっと漠然としていて、
答えるのに言葉を選ぶのが大変でしたが、
「生活のたのしみ展」というタイトルを聞いたとき、
「同じだ」って思いました。
LIFEは「生活」だし「生きること」。
それをBETTERにするっていうのは、
きっと「たのしい」ことなのかと。
糸井
本当にそうですよね。
BETTERっていう言葉は、いま、本当に成熟したから
落ち着いて使えるようになった気がするんですよ。
「よりよい」という言葉は、30年前だったら、
お金をいっぱい持ってるぞ、とか、
かっこいい車があるんだ、というふうに、
もっとガツガツしていたと思うんです。
でも、いまBETTERって言葉を使うと、
みんなだいたい同じものを持ってるところまで
たどり着いたうえで、
「より嬉しいのはどっちかな?」という、
そういう意味の「よりよい」になった。
だからやっとBETTERが使えるようになったんだな、
というのがぼくのこの言葉への感想なんです。
いまだと、BETTERと言っても誤解されずに、
金ぴかの摩天楼に行かないで済むようになったんだと、
感慨深いものがあります。

「よりよい」で言えないことを言いたくて、
ぼくは80年代に「おいしい生活。」と言いました。
でも、あのときは「よりよい」に対して、
「おいしい」という言葉はもっと緩いというか、
価値観がバラバラになってもかまわない、
というものでした。
芝崎
『&Premium』が創刊したときのキャッチフレーズのひとつが
「ゴージャスより上質」でした。
「ゴージャス」と「上質」は
本当は違うステージだったんですが──。
糸井
ごっちゃになっていたんですね、長いこと。
芝崎
はい。ゴージャス「で」上質なものもあるけれど、
ゴージャス「じゃなくて」上質なものも本当はある。
ゴージャスかどうかを問わず、
いま本当に欲しいのは上質なものだ、というのは、
この雑誌がいまも大事にしているコンセプトです。
糸井
それを雑誌が、急かせるようにじゃなくて、
毎号やっていけるっていうのが、
時代がここまで──、
悪い意味で言うと停滞したし、
いい意味で言えば落ち着いたというふうに思います。
芝崎
この「生活のたのしみ展」のラインナップを見て
ちょっと思ったのが、糸井さんが昔‥‥というか、
「ほぼ日」を始めるにあたり、
「消費のクリエイティブ」という言葉を
よく使われていたということです。
消費をする人にとって、
どういうことが嬉しいのか、たのしいのか、
私たちは考えてこなかったんじゃないか、
モノを買った時点でもう満足していたのが、
そうじゃなくなってきたんじゃないかと、
いまを予見するかたちで発言なさっていたと思うんですが、
実際、そうなってきていますよね。
震災後はとくに、時間の使い方や、
モノがあってもそれを使っている時間のほうが
大切だということを、みんなが思ってきている。
糸井
そうです、そうです。
芝崎
日本にも消費のクリエイティブが生まれてきた。
それで糸井さんも「生活のたのしみ展」が
できるようになったのかな、と思いました。
糸井
ずっと、名付けようのない、
いろんなことを言ってきたんですが、
この「生活のたのしみ展」という言葉で
やっとひとつにまとまってくれました。
「生活のたのしみ」という言葉を、
生み出さざるを得なかったし、
生み出せたから、いままでの
「そう言うと違うんだよな」という言葉を
使わないで済むようになりました。
「同じこと言ってたんだよね」
ってことだらけなんですよ。
だから、嬉しかったですよ、これを見つけたときは。

ぼくはコピーライターを辞めているんですけど、
ときどきそういうコピーライターの仕事を
自然にやらざるを得ないときがあって、
これはもう典型的にそうでした。
「たのしみ」という概念というか、
漠然としたところをすくい取りたかったんです。

それまでは「雑貨」という言葉で
まとめられそうになってたんですよね。
でも、そこでまとめちゃうと、
膨らみがなくなっちゃうなと思って。
「雑貨」って言葉で場所を作ると、
マニュアルが出来過ぎてしまいます。
それに「雑貨」という言葉は、
経済を語るときのアイテムのようにも使えますよね。
「いまは服が売れない、雑貨のほうが」とか、
「雑貨と服だったら服のほうが利益率が」とか、
「糸井さんとこは、雑貨とか、得意じゃないですか」
なんて‥‥。
そういうつもりで作っていないんだけれど。
芝崎
さらに「たのしみ」に「展」が付くって、
本当はちょっと違和感がありますよね。
「生活のたのしみ展」というタイトル、
どうして付けたのか、お聞かせください。
糸井
まず「展」が気に入ったんです。
芝崎
「展」が?
糸井
そう。「展」を付けることで、
集まってくれる人に会えると思ったんです。
それは「お客さん」と同時に「出展者」ですね。

これまでも「ほぼ日」は、お客さんと接することを、
小さい単位でずっとやってきました。
イベントになると乗組員総出で
お客さんの応対をするんです。
いつも客商売をやっているわけではないのに、
そのお客さん対応を、みんなたのしく、好きになっている。
それはできているんだけれど、いままであんまり、
B to Bの仕事は、していないんですよ。
けれども今回のように「生活のたのしみ」というテーマで
何かやりたいんだ、と相談すると、
ぜひやりたいと言ってくれる人たちがまわりにいる。
その人たちが入りやすいような輪っかを作るには
どうしたらいいだろうと思って、
展覧会を主催するということを思いついたんです。
「展」まで入って、ぼくらの概念を仕事にしていこうと。

出展者は、出たり入ったりもあるし、
「君はちがうね」ってこともあるかもしれないし、
「ぜひ来てください」っていうこともあるでしょう。
似たようなことを考えている人がふたりいたら、
競合だ、バッティングだと考えるよりは、
隣り合わせに並べたらいいじゃない? とか、
いままでの考え方を取り払って、
集まりたいから集まっている。
お客さんだけじゃなく、
作ったり売ったりしてる人とも、
そうしたかったんです。

「展」にすれば、そんなことはやったことない、
という人まで集まれるような気がしたんです。
たとえば「雑誌社もやってくださいよ」と言ってもいい。
企業も、同じ考えでやってるところは入ってほしいし、
スタイリストの人にも、彼らはモノを作っていないけれど、
集めることができます。
それを出したっていいじゃない?
そんなふうにのびのびしてもらいたい。
そのために、どうしたらいいかと考えて、
いい枠組ができたなと思ったのが
「生活のたのしみ展」なんです。


(つづきます)