谷川俊太郎 × 松本大洋   詩人と漫画家と、絵本。   『かないくん』をつくったふたり。     谷川俊太郎さんが一夜で綴り、 松本大洋さんが二年かけて描いた絵本、 『かないくん』ができあがりました。 絵本をつくるにあたって、 ふたりは直接顔を合わせませんでした。 ぜんぶの作業が終わったこの日、 物語を書いた詩人と、絵を描いた漫画家が、 はじめてのような、旧知のような、 不思議な挨拶を交わしました。 そして、絵本について、お互いのことについて 深く、長く、ことばを交わしました。 谷川俊太郎さんと、松本大洋さん。 わくわくするような顔合わせの対談を たっぷりとお届けします。
 
#6 漫画とことば。
 

谷川 自分では文章とか、
詩みたいなものは書かないんですか?
松本 書いたことないですね。
谷川 芝居はありますよね。
松本 はい、あります。
(『花』
 『メザスヒカリノサキニアルモノ
  若しくはパラダイス』)
谷川 お母さん、(工藤)直子さんの詩なんか読みます?
松本 あー、あまり読まないですね。
照れくさいっていうのが、あって。
もちろんまったく読まないわけでは
ないんですが‥‥。
母は、ときどき、詩を送ってくるんですよね。
で、「どうやった?」っていう
目をしてこっちを見るので。
谷川 ああー、そう(笑)。
照れない人だからね、あの人ね。
松本 そうですね。
谷川 俺なんか子どもに自分の詩読ませて
「どうやった?」って聞く勇気ぜんぜんないけどね。
一同 (笑)
松本 なんていうのか、
ふだんの母をよく知っていると、
やっぱり、少し照れくさいというか、
切り離してなかなか見られないのかもしれないです。
うーん、でも、読むと、
やっぱり、すごいなと思います。
ことばの使い方、谷川さんももちろんすごいですし、
ぼくなんかの作品で使うことばは、
うん、やっぱり、比べるとつたないと思いますね。
そんなに卑下するわけではないんですけど、
漫画って、すごくこう、多種競技っていうか、
やり投げもして幅跳びもしてみたいな感じなので、
ことばだけを取り出すと、やっぱり。
谷川 ああ、なるほどね。
松本 ときどき、漫画のなかでも、
絵だけで勝負できたり、
ことばだけでも強い人もいて、
そういう人のことばはやっぱり圧倒されますけど。
谷川 古今東西の漫画家で、
好きな人っていうのはいますか?
松本 はい。大友克洋さんとか。
あとやっぱり手塚(治虫)さんのも好きでしたし、
あとフランスにもすごく好きな作家さんがいて、
ニコラ・ド・クレシーっていう人なんですが、
フランスの人たちは、もう、
「絵」で漫画を描こうとするんですね。
これがそうとう強引で、なんていうか、
ものすごく難しいことをやっている。
彼なんかは漫画家とは少し違う、
それこそ詩人のような感じで。
谷川 うん、そういうのでは、ぼく、
メビウスっていう人の作品を見たけど
あの人は、なんかすごいね。
現代詩みたいだななんて、思った。
松本 ああ、メビウス、はい。
メビウスさんはぼくもすごく好きです。
谷川 ちょうど祖父江さんが手伝ってくれて、
六本木ヒルズで『ピーナッツ』の展示を
やってたんですが、
『ピーナッツ』なんかは読みます?
松本 はい、いいですよね。
谷川さんの訳もすごく好きです。
谷川 ほんと。
あの人(シュルツ)はセリフというか、
ドラマ的な設定がうまいんですよね。
そこがふつうの漫画に比べると飛んでて、
すごくいいと思うんだけど。
松本 そうですね。
谷川 ジェームス・サーバーってどう?
松本 あ、わからないです。
何を描かれた人ですか。
谷川 アメリカの古い漫画家で作家です。
小説的なものも描くんだけど、
なんかユーモラスな文章も書くし、
ぼくは、絵がすごい好きなんですけどね。
文章も好きだけど。
『たくさんのお月さま』は、
今江祥智さんが訳してます。
松本 へぇー、読んでみます、
ジェームス・サーバー。
古い方でいうと、ぼくは
ベン・シャーンっていう人が好きで。
谷川 うん、いいですよね。
松本 和田誠さんが
ベン・シャーンを好きだっていうのを
なにかで読んだことがあります。
谷川 そうですね。
あと、粟津潔(あわづきよし)さんが
すごく影響受けてますよね、
ベン・シャーンの。
粟津潔さんってもう知らないか。
松本 わからないですね、すみません。
ぼくは不勉強なもので、
絵描きの人とか、詩人の人、
よく知らないんですよ。
谷川さんは、この人がいたから
自分は詩人になったっていうような人は
いらっしゃるんですか?
谷川 いや、ぼくも不勉強なんですよ。
松本 (笑)
谷川 他人の詩って、ほんとに読んでないんです。
みんな、詩の勉強をしてから
詩人になっているんだけど、
ぼくは友だちに誘われたから
詩書き始めただけで、
詩を書きたいなんて気持ち、
なかったんですよね。
松本 ふーん。


(つづきます)
2014-01-27-MON
 
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