谷川俊太郎、kissなどを語る。
しかも、新作『kiss』を、「ほぼ日」で
1000枚限定特典付きで発売します。

第12回
いつから気取り出したんだ?


谷川 やっぱり、詩というものに対する
一種の先入観みたいなものはありますよね。
「詩はこうでないといけない」みたいなことが、
どっかに頭にある。
それに合わせようとしちゃうから、
つまんないのかもしれない。
糸井 うーん。
谷川 もっと普通の、
「友だちが欲しい」とか
「恋人が欲しい」とか、
そういういうものが、
ハッキリ言葉になってるほうがずっといい。
そういう「野生の言葉」に対して
けっこう気取っちゃうからね、みんな。
糸井 気取らないことを身につけるのは
難しいんですかね?
谷川 子どもはみんなそれを持ってる。
だから、子どもの詩が
けっこうおもしろいんですよ。
糸井 そうですよねぇ。
谷川 どのへんから気取らなきゃいけないように
なるのかね(笑)?
やっぱり小学生ぐらいからかな?
糸井 「詩って、何だ?」って習った憶えは
ないわけですよね。
詩は何でもいいのだけれども、
でも、先生の頭のなかに、
すでに予定されたものがあったんでしょうね。
谷川 それは当然ありますね。
糸井 ぼく自身は、作詞からはじまったんですけど、
詩を習った憶えがなくて、
今でも書けてるんだか
書けてないんだかわかんないんですよ。
ただ、基準にしてるのは、
俺が自分でもう1回読んだときに、
気持ちいいかどうか
谷川 うんうん。それはあるね。
糸井 正直言うと、
読む人の姿も見えてないんです。
だけど、ぼくは
自分が平凡な人間だっていう意識が
すごく強いんです。
その平凡な自分が読み直して
「いいじゃん」って言ってくれる。
それだけを頼りに書いてるんですよ。
谷川 それはぼくも、
ほとんど同じですね(笑)。
糸井 そうですか。
谷川 自分をすごく常識的な人間だと
思ってるんですよ。
だから、自作に対する批評眼で
書いてるところがありますよ。


♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪

糸井 そんな谷川さんが、よその現代詩の、
たとえば吉増剛造さんとかの詩を読むときは、
どんな気持ちで読むんですか?

吉増剛造
詩人。1939年生まれ。
第一詩集『出発』(64年)以来、
先鋭的な現代詩人として、
国内外でパフォーマンスなど多彩な活動を行なう。
「黄金詩編」で第1回高見順賞受賞。
谷川 いやぁ、
いろいろあって
おもしれぇな、と。
糸井 はぁ!
谷川 現代詩といっても、
まあ、植物もいろいろある、
お魚もいろいろいるのとおんなじように、
いろいろあるなぁ。
彼が声に出して読んでると、
「なんか、なんかあるなぁ!」みたいなさ(笑)。
糸井 そうですね。
吉増さんの詩って
わかんないままに、なんか、つかまるんですよね。
谷川 そう。ああいう性質が言語にあるっていうことを、
ぼくはすごく大事だと思ってます。
糸井 あの、美しいとかっていう言葉をつい、
思い出させちゃうみたいな。
谷川 そう、そう。
意味だけじゃないんだな、言語っていうのは。
体に結びついてるし、声に結びついてるし。
音楽とも共通の
調べとかリズムのような力があるということを、
思い出させてくれる。
糸井 うん、うん。
ほかに、ご自分で
意識なさってる詩はありますか?
谷川 ぼくのところへ送られてくるものもあるし、
エネルギーがいるから
あんまり読まないんだけどね。
人の評判を聞いて読んだりするんですが、
例えば『世界中年会議』っていう
おもしろい題の詩を出してる四元さんって
詩人がいるんです。
彼は、出自が全く現代詩の世界ではないんです。
ミュンヘン駐在の、ある製薬会社の重役なの。
前はアメリカにいて、海外にほとんどずーっといて、
結婚して子どもも現地で育ててる。
自分のビジネスマンとしてのリアリティ、
それから自分の家庭のリアイティみたいなものを、
詩に書いてる人なんですよ。
いわゆる現代詩の人たちとぜんぜん違うところから
書いてるから、すごくおもしろいの。


四元(よつもと)康佑
1959年8月21日大阪府生まれ。
1991年、第一詩集『笑うバグ』を発表。
ビジネスを主題にした作品群が
大きな注目をあつめる。
現在ドイツのミュンヘン在住。
『世界中年会議』は第二詩集。
糸井 ほおぉ。
谷川 それから、こないだ、あとがきを書いたんだけど、
覚和歌子さんって人がいます。
『千と千尋』のテーマを作詞した人。
あの人は、プロの作詞家でもあるんですけど
まったくの現代詩の世界ではない。
あの人、なんだかとにかく、
まず歌からはじまってるんですね。
それで、歌と拮抗するような詩を読みたいといってる。
声の発想なんですよ。活字じゃないの。
それがすごい新鮮なんです。


覚(かく)和歌子
早稲田大学卒業と同時に作詞家に。
小泉今日子、SMAPなどに作品を提供。
落語とのバトルライブ「噺家の会」をはじめ、
自作詩朗読パフォーマンス競演を展開している。
映画「千と千尋の神隠し」主題歌「いつも何度でも」作詞。
昨年、第一作品集『ゼロになるからだ』を刊行。
糸井 ぼくも、おもしろいなと思いますよ。
覚さんは、人が注目する
1行の両脇にある言葉が上手なんですよね。
谷川 うーん、なるほどね。
糸井 「ゼロになるからだ」という言葉で、
みんながあの詩を憶えるんだけど、
それを立てるためには、
まわりがほんとにいい景色もってないと、
あの言葉は絶対に浮いちゃう。
「この人は、この1行のために書いてるんだ。
 だけど、その周囲を上手につくれるから、
 成り立ってるんだなぁ」と思う。
谷川 そうなんです。覚さんのような、
現代詩の世界からじゃない人のほうが、
今はけっこうおもしろいって、
どうしても思っちゃいますね。


<つづきます。次回をおたのしみに!>

●●●●谷川俊太郎さんの、詩の世界●●●●

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おおきなさかなはおおきなくちで
ちゅうくらいのさかなをたべ
ちゅうくらいのさかなは
ちいさなさかなをたべ
ちいさなさかなは
もっとちいさな
さかなをたべ
いのちはいのちをいけにえとして
ひかりかがやく
しあわせはふしあわせをやしないとして
はなひらく
どんなよろこびのふかいうみにも
ひとつぶのなみだが
とけていないということはない

『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』(青土社)より

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谷川さんの「kiss」について

「kiss」はCDショップなどで
2月5日より発売されています。
ショップにない場合は、
店頭にてご注文くださるか(商品番号PSCR-6105)、
インターネットの各ショッピングサイトにて
お買い求めくださいませ。
「kiss」をお聴きになった感想も、ぜひ、
postman@1101.comまでお送りくださいね!

CD「kiss」のポリスターの
スペシャル・コンテンツはこちらです。


谷川賢作さんが音楽を担当する映画「ジム」のおしらせ●

「kiss」のピアノを担当している谷川賢作さんが、
音楽を担当する映画「ジム」が
シネマ・下北沢にて
レイトロードショーで公開中です。
本日2月12日(水)には、
「ジム」サウンドトラック発売記念として
上映前にミニライブもありますよ!
(19:00より整理券配付です)

ジム 山本起也監督作品
2/21まで、シネマ・下北沢にて、
20:30より1回上映します
特別鑑賞券\1300 
    ※劇場窓口、チケットぴあ、都内プレイガイドにて
      お求めください。

当日 一般\1500
お問い合わせ:TAM office 03-3312-5963

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2003-02-12-WED


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