谷川俊太郎、kissなどを語る。
しかも、新作『kiss』を、「ほぼ日」で
1000枚限定特典付きで発売します。

第7回
俺を好きなの? 詩を好きなの?


糸井 谷川さんは、詩で、
さんざん愛のうたをお書きになってるけども……。
谷川 さんざんか(笑)。
そんなに書いてんのか。
糸井 ぼくね、以前、矢野顕子と
何かの本の仕事のときだったと思うんだけど、
谷川さんは詩を仕事にしていて、プロで、
それをピアニストみたいにいつも弾いてるわけだから、
言葉を受け止めさせて、さらっていっちゃうのは、
つまり、「兼ねてる」のはずるいよねって(笑)、
話した憶えがあるんです。
谷川 なるほどね。
ハイ、さんざん書いてますが(笑)、
それで?
糸井 ご自分では、
これは「2重に通用する」ということを
思っていらっしゃるんですか?
谷川 (笑)、あのぅ、ある人に、ええと、
ラブ・レターを書きました。
そこに、詩的な、ちょっとした表現が
1節あったんです。
その詩的な1節が、わりとうまく書けてるから、
雑誌に発表しよう、と思ってしまったんです。
でも、さすがに無断ではまずいんで、相手に
「こないだの手紙のここの部分を、
 詩にして雑誌に発表したいんだけど」
って言ったんです。
ちょっと呆れられたんだけど、
「ま、いいわよ。じゃあ、コピー取ってあげる」
って言われたのね。そしたら、ぼく、
「もう、コピー取ってある」(笑)。
糸井 ハハハ、うんうん。
谷川 そういうふうに、
実生活と混じりあってるものもあるんですけども、
でも、ほとんどの場合、
そういうことはなくて。
糸井 わけるんですね?
谷川 うん。詩は、フィクションとして
書いてるのがほとんどなんです。
糸井 実際に、ほとんど?
谷川 だれか具体的な相手がいて、
その人に気持ちを込めながら書くということが
ほとんどないんですよ。
もし、特定の人のことを思い描きながら書くときは、
恋愛詩じゃなくなっちゃったりする。
違うものになっちゃったりします。
糸井 はぁぁ、なるほど。
谷川 だから、実際に読んで口説かれちゃったとしても、
私は責任とれませんよ、
っていうふうになっちゃいますね。
つまり、詩作品と詩人は、
ひじょうに微妙な距離があるものだから、
同一視してもらっちゃ困るって、
ぼくは、しょっちゅう言ってるんですけど。
糸井 うん、うん。
谷川 現実に、例えば誰かが
ぼくのことを好きだ、と言うとします。
よく美人の女性が
「あの人は私の顔めあて。
 顔がキレイだから好きだって言ったんでしょ」
って言うでしょ?
おんなじ心理になりますよね。
この人は俺の詩が好きだから、
俺のこと好きだって言ってんじゃないの?
糸井 複雑ですねぇ。
谷川 いや、複雑じゃないですよ(笑)。
バカみたい!

♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪
糸井 美人のほうは、
なんとなく人格とわけられるけど。
谷川 そうそうそう。
「じゃあ、詩を抜かしたら、おまえ何なの?」
って言われたらさぁ、もう、困っちゃうわけですよ。
自分が自分の書く詩と一体化してるから。
「詩とは切り離して俺のこと愛してくれよ」
って言ったら、
「じゃ、あんた、ただのジイサンじゃん」
みたいな話になっちゃうわけでしょ?
糸井 以前、松本人志が、
「本業のお笑いを口説くときに使うのは反則だ」
って言ってました。
笑かして口説いちゃいけないって。
谷川 そうか。
ぼくもほとんど、
本業の詩を口説きには使ってません。
さっき言ったのは、まれなケースですから(笑)。
口説きが先で、それを雑誌に出したんだから。
糸井 おそらくぼくも同じことがあるんですよ。
日常でうまいこと、
たまたま言葉が出ちゃったときには、
ものすごく申し訳ないというか、
「あっ、出ちゃった、ゴメン」
という感じになるんです。
そういうつもりはなかったと、ただ思ったんだよと。
でも、そのことがまた、口説きなんですよね。
谷川 そうですよ。
糸井 「ほんっとに思ったら言っちゃったんだよ」
というほうが、悪辣ですね、結果的には(笑)。


「kiss」レコーディングのときの、谷川さんです。
糸井 谷崎潤一郎とか金子光晴の
ラブ・レターが出てきてて、
いまぼくらはそれを読むことができるわけだけど、
ひどいですね(笑)、生々しくて。
谷川 そうね。
糸井 「何とかちゃんが可愛くて可愛くて」とか(笑)。
だけど、もしそれが作品だとしたら、
そっちのほうが力はあるんです。いま読むと。
谷川 それは、そうですね。
糸井 困っちゃうんですよ、読んでて。
「何とかちゃんが可愛くて可愛くて
 もういまでも飛んで行きたいぐらいです」
って書いてあるほうが、金子光晴の詩より、
じかに、胸をつかまれるようなところがある。
詩人は大変なことだな(笑)、と。
谷川 ただ、その手紙は、
ほんとに本音が書いてあるかっていうと、
その部分も、もしかすると
作ってるかもしれませんからね、
詩人なんてね。
ここにはこう書いたほうがいいんだ、というような
計算が働かないとは限らない。


<つづきます。次をおたのしみに!>

谷川さんの詩のコラボレーション・ライブがあります●

2月16日に、世田谷パブリックシアターにて、
谷川俊太郎さん、岸田今日子さんの朗読とお話、
アンサンブル・コンソナンツの木管三重奏がたのしめる
ライブがあります。

 詩的に音楽会 in さんちゃ
 2月16日(日) 午後5時開演(4時30分開場)
 世田谷パブリックシアター
 チケット料金:S席(1-2階)\4000
        A席(3階)  \3000
 チケット取扱:チケットぴあ0570-02-9990
        (クラシック専用)
  くりっくチケットセンター03-5432-1515
 お問い合わせ:コレクタ03-3239-5491
 アンサンブル・コンソナンツのホームページ
 http://home.catv.ne.jp/dd/ekons/kusakarif.html

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谷川さんの「kiss」について

「ほぼ日」から販売していましたCD「kiss」は
完売いたしました。
たくさんのご注文、ありがとうございました。
なお、CDショップなどでは、2月5日より店頭に並びます。
ショップにない場合は、
店頭にてご注文くださるか(商品番号PSCR-6105)、
インターネットの各ショッピングサイトにて
お買い求めくださいませ。

CD「kiss」のポリスターの
スペシャル・コンテンツはこちらです。

2003-01-31-FRI


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