第13回 毎日、おもしろかったなぁ
カネはないけど、というときは、
タモリさんは、毎日、なにをしていたんですか?
なんにも、していないですねぇ。
ともだちのところにいって、
てんてんと、転がりこんで……。
2日いたり、3日いたり。
それで、飽きたり。
後輩のところにいって……。
そこは宿泊禁止なんですよ。
宿泊禁止なのに泊っていて、
どういうわけか、下宿のおばさんに気にいられて。

おばさんとおじさんが、
下宿の2階の奥の部屋にいるんですけど、
オレはそこの下宿人じゃないのに、
奥の部屋で、メシ食ってたりするんです。
(笑)サービスしたりするんですか?
いや、まったくしてない。
のちのイグアナの芸の片鱗みたいなものは?
多少、そういうことは
やっていたんでしょうねぇ。
年寄りに話をあわせるのがうまいタイプ?
年寄りに対する
アマチュアのインタビュアーとしては、
ピカイチ、ですからねぇ……。
(笑)
戦前の事件とかをきいて
「そういうことですか、真相は!」と。
(笑)あはははは。
「キミ、知らない?」
「知らない! 知らない!
 いやぁ、そういうことだったんですか。
 まさか、日本軍から……ねぇ?」
(笑)つまりそれは、
アマチュアの
「笑っていいとも」じゃないですか。
まぁ、当時から、
「いいとも」やってたんですね。
20歳ぐらいから、ずっと……。
つぎの下宿にいっては、
おじさんやおばさんに話しかけて。
今、
質問のかたちできいていたんですけど
ぼくの20歳前後というのも、
ほとんど、おんなじなんです。

「なにもすることがない」
という言葉の実態が、ものすごく豊かだった、
という気がするんですよ。

「なにしてた?」
ときかれたら、なにもしてはいない。
でも、毎日、ものすごくおもしろかった。
おもしろかったですよ!
同時に、ものすごく、
「退屈だ! 退屈だ!」って、怒っていましたもん。
退屈さとおもしろさって、矛盾してないんですよね。
うん。おもしろかったですよねぇ。

なんにも、やることはないけど。
将来の目標もないですし。
なかった。
なにがしかになれるなんて思っているヤツ、
まわりに、ひとりもいなかったですから。
いなかったなぁ。
「夢を持て」とか、そういう
余計なことは、誰もいわなかった。
高校時代には、
自分のなかに、龍が1匹、ひそんでいて
こいつがいつか出てくるんじゃないかと
思っていたんだけど、
高校卒業するぐらいのときになると
「‥‥あ、いないんだな」と。
(笑)
「あれは、龍にみえたトカゲだよ」と。
ともだちのあいだで、
全国に通用しそうなヤツなんて
いなかったですからねぇ。
いなかった。
だけど、
おもしろかったですよねぇ。
貧乏だけどおもしろくて、
いろんな人たちに、ほどこしを受けて、
豊かな生活をしていたなぁ。
明日に、続きます
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2007-01-10-WED

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN