映画
『滝を見にいく』
 を見にいく。

  ── 試写会、対談、ロケ地レポート ──
その2 沖田作品は歌がポイントですから。

糸井 山で迷子になったとき、
おばさんたちはああなりましたけど、
この7人が男だったら、
きっとサバイバルものになりますよね。
沖田 あ、そうかもしれません。
糸井 「ぼくはナイフの扱いに慣れてます」とか、
「おれは罠の作り方を知ってる」とか、
目的意識がたくさんある話になると思う。
沖田 それはそれでたのしそうです(笑)。
糸井 うん。たのしい映画になると思うけど、
そういうのは見たことあるんですよ。
『滝を見にいく』には、
そういう目的意識の人がぜんぜんいない。
沖田 そうですよね。
糸井 せいぜい、
「あれはどうかしらねぇ」って言うくらいで。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
沖田 あんまり本気で、
なんとかしようと思ってないかもしれない。
糸井 そう。
だって必死になってたら、寝る時に歌わないよ?
沖田 (笑)
糸井 しかも、『恋の奴隷』を。
沖田 そうですね(笑)。
糸井 沖田作品は歌がポイントですから。
‥‥でもなぜ、あそこで『恋の奴隷』を?
沖田 まぁ、なんとなく、
風情にあるまじき歌がいいなと思って。
「あなた好みの女になりたい」
という歌を、
おばちゃんたちが絶唱するっていうのは、
画(え)として美しいんじゃないかと。
糸井 「あなた好みの女になりたいっていう気持ちが、
 今も心の中にないわけじゃないわよ!」
という、なんでしょう‥‥みなさんの迫力が(笑)。
沖田 そう(笑)、そうなんです。
糸井 迫力が歌声になって鳴り響いてました。
沖田 「悪い時はどうぞぶってね」と。
糸井 「悪い時はどうぞぶってね」(笑)。
すっごい歌詞です。
作詞は、なかにし礼さんですよね。
この歌にも愉快犯ぶりを感じます。
沖田 感じますね(笑)。
糸井 なかにし礼さんは、
けっこうその、愉快犯をやってるんですよ。
『時には娼婦のように』とか。
「これをリリースしたら、人がなんか思うぞ」
っていう愉快犯。
で、そのなかにし礼さんも、
まさかこの映画で歌われるとは思ってなかった。
沖田 はははは。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
糸井 ぼくは沖田監督の
『後楽園の母』(2008年・テレビドラマ)を見てるんです。
沖田 え?! あ、そうですか。いやぁ‥‥。
糸井 『後楽園の母』では、鮎川誠が『恋唄』を歌います。
沖田 はい。
糸井 酔っ払って歌ってますから下手なんです。
すっごい下手なのに、ものすごく響いてくる。
「なんていい歌なんだろう」と。
沖田 まさか、
『後楽園の母』まで見ていただいてるとは‥‥。
糸井 あれは名作ですよ。
沖田 ありがとうございます。
糸井 特に『恋唄』の場面‥‥
あの歌は阿久悠さんの作詞で、
『KIYOSHI』っていう、
前川清さんの初ソロアルバムに入ってる曲なんです。
沖田 はい。
糸井 そのアルバムには
ぼくが詞を書いた曲も入ってます。
あと、坂本龍一、後藤次利、矢野顕子とか、
あのころの新しい系の人たちで
初のソロアルバムを祝うように作っていたんです。
そこへ阿久さんの『恋唄』がスッと入ってきた。
「ええー、これだけ演歌じゃん」って思って、
当時は小生意気だから
ちょっとね、いやだったんですよ。
「なんで阿久さん、入れたんだろう?」みたいな。
沖田 そうだったんですか。
糸井 ところがそれが時を経て、ぐるーーっと回り、
『後楽園の母』で再会、
「なんなんだこのいい歌は!?」っていう(笑)。
‥‥この話もね、
沖田さんに会ったら言おうと決めてたんです。
沖田 ありがとうございます。
糸井 なぜ、『恋唄』を選んだんですか?
沖田 うーーん‥‥なんでだったか‥‥
たしか、
「酔っぱらいのサラリーマンが歌う切なさ」
みたいな感じで
ちょうどいい歌だと思ったような気がします。
糸井 切ないですよね。
でも、投げやりとも言えるような歌詞です。
沖田 投げやり、ですか。
糸井 だって、
「人前で口づけたいと心からそう思う」ですよ?
そんな歌詞ありますか?
沖田 言われてみれば、聞かないフレーズかも。
糸井 びっくりですよ。
詩のギミックとかぜんぜんなしで、
「人前で口づけをしたい!」
沖田 心からそう思った。
糸井 その、粗雑なほどの本心を、
酔っ払った鮎川誠が歌う。
名シーンですよ。

あと、『南極料理人』では尾崎豊でしょう?
沖田 はい。
『僕が僕であるために』。
糸井 あれだって、
あの場面にいる男が歌うのに、
あれ以上の歌が他にあるでしょうか。
沖田 そうですね(笑)。
糸井 みごとですよ。
沖田 そうだ。
ぼくも糸井さんにお会いしたら
話そうと思ってたことがありました。
糸井 なんでしょう?
沖田 『南極料理人』のときに、
堺雅人さんとか飯島奈美さんで、
なにか対談のようなことを‥‥。
糸井 はい、やりました、やりました。
ほぼ日 「堺雅人さんと、満腹ごはん。」
というコンテンツですね。
糸井 そうそう、それそれ。
沖田 映画のことをとりあげてくださっているし、
ぼくもすごくうれしく読んでたんですけど‥‥。
糸井 ‥‥ですけど?
沖田 そのころぼく、ちょうど結婚直前だったんですね。
糸井 はい。
沖田 そしたらその対談の中で糸井さんが、
「この監督は結婚するにはよくない」って(笑)。
一同 (笑)
糸井 ええーーー!
沖田 「こんな男と一緒になったらダメだと思う」って。
一同 (笑)
糸井 そんなこと言ってた。おれが。
沖田 はい。たしか対談の序盤のほうで。
それを結婚前のうちの奥さんが読んでしまって‥‥。
糸井 あっちゃーーー(笑)。
でも、結婚しているということは、
大丈夫だったんですよね?
沖田 大丈夫です大丈夫です(笑)。
そんな、たいしたあれじゃないんで。
糸井 おれはあのとき、
なんでそんなことを言ったんだろう?
沖田 なんか、「この監督には照れがあるから」と。
糸井 ‥‥ああー、なるほど。
だってほら、結婚って社会生活だから。
照れてないで行かないとダメなわけで。
沖田 そうですよね。いや、わかります(笑)。
糸井 あとね、ぼくも散々そう言われましたから。
沖田 そうなんですか?
糸井 「結婚には向いてない」、
それは案外ほめ言葉なのかもしれない(笑)。
(つづきまーす)
2014-11-21-FRI
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