ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。

生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。

自分の売りになることは何か? 

アイデアを出すにはどうすればいいのか?

失敗を乗り越えるには?

決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。

※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。

糸井
ぼくはもともと広告畑の人間ですが、
ほぼ日の社内の人たちに、
広告の勉強をさせていません。

そういうことは下手でいいと思ってるんです。

ほぼ日を見るとわかりますが、
キャッチコピーが「9月1日発売です」とか、もう、
身もふたもない状況になっています。
一同
(笑)
糸井
「これはうまいね」「気の利いたこと言ってるね」

という言葉もほぼありません。

そこで感心されても意味がないからです。
ぼくがフリーで仕事をしていたときには、
「感心されるから呼ばれる」ということは、
当然ありました。

踊りを見せる人なら、当然、
踊りで感心させなければいけないです。

でも、お客さんとの関係を、
なるべく豊かに、信じ合うものにしたい場合には、
「あんた、うまいこと言うね」

ということは、弱点になります。

髙田
なるほど。
糸井
髙田さんはこれまで社内を
どういうふうに指導なさったんですか。
髙田
ジャパネットは、ラジオやテレビでの放送が
知られているかもしれませんが、
かなりメディアミックスをしていまして、
カタログやチラシも制作しています。

もちろんインターネットサイトも開いています。

そういった状況ですので、みなさん
「ラジオはどんな特性がありますか」

「テレビはどんな特性ですか」

と訊いてくださるのですが、
ぼくにとってみたら、ラジオもテレビも紙媒体も‥‥、
糸井
同じ、ですよね。
髙田
そう、みんな同じです。

伝えるということ、メッセージを出すということは、
たとえばチラシだったら、
「見た瞬間に人の心が感じるものを作る」

ということが大事じゃないかなと思います。
サイトも、見た瞬間に
「ちょっと読んでみたいな」と思うような
動線をどのように作っていくかが重要です。

それは私がテレビで言葉を投げかけてきたことと
同じじゃないかと思います。
だから、抽象的になるんですけど、
ぼくは社内で、
「みてみて、これ、夢がないよ!」

ということをよく言うんですよ。

糸井
「夢がない」ですか。
髙田
チラシを見たとき、ネットを見たとき、
カタログを開いたときに、
パッとお客さまを引きつける夢や感動が、
浮かびあがってこない。

それが浮かんではじめて、見る行為へ導入でき、
ものを買ってもらえるのでしょう。
たとえば値段だけ出して、
「よそより安いよ」とか、
これ、絶対だめですね。

社内で相談を受けたら、そういう話をします。

何回も何回も、もう、100回も、
くり返して話します。
そのうちだんだん、社員とも
共有できていくところがあります。

でもぼくはあんまり限界を作らない人間なもんで、
限りなく追い求めて、
ちょっと困ったもんだなと思います。

「そろそろ、この辺でほめてあげればいいのにな」

ということなんでしょうけど、
それがないもんだから、
周りにいる人がかわいそうですね。

だから樋口くん、いなくなったのでしょうか。
一同
(笑)
糸井
でもその「夢がないね」ということ、
お話を聞いて、よくわかりました。
ジャパネットが扱う商品は、
家電とか布団とか‥‥つまり、
ふつうの家の中に入ってくるものです。

おもしろい場所にやってくるものじゃないんですよね。

それを、
「これが来たことで、ちょっとおもしろくなるかな?」

と思えることが大事ですから。
髙田
そうですね、
ものが「もの」じゃなくなるんですよ。
糸井
うん、つまらなかった昨日までとは違う。

「いつ届くんだろう」

と、わくわくいそいそする。

その気分まで含めて、
ものが家に入ってくることについて考えますね。

それを「夢がないね」と表現することは、
ぼくはちょっと真似したいです。

髙田
いやいや、そんなことは(笑)。
糸井
ほんとうにそのとおりなんですよ。

放っておけば、ふだんって、
つまらないものなんです。
髙田
ああ、でも、
糸井さんの手帳もそうですよね。

まさしく「これが自分にやってきたらいいな」という、
その部分が伝わるから、人は使ってみようと思います。

使った人の感想が
ほぼ日のサイトにはたくさん載っていますが、
伝わっているから感想が出てくるんだと
ぼくは思います。
糸井
ほぼ日手帳の機能については、
安心と便利さのために、
いつでも言う必要はあるんですが、
それだけでは不充分なんですよね。

手帳が手もとに来たあとのことを、
使う人が思ってくれるようにしなくてはなりません。
じつはぼくたちは、お客さんと直接会うことが、
すごく勉強になっています。

イベントなどで、みなさん、
ご自分の手帳を見せにきてくださいます。

「こう使ってほしい」なんて
ぼくたちが想像していたことを、
みなさん軽々と乗り越えているのです。

あんなことは、作る側には想像できなかった。
あれを見たら、
ぼくらがどうこう言うよりは、邪魔をせず、
のびのびと使ってもらうことのほうが
大事な気もします。

いまはぼくらは、ほぼ日手帳のことを
「LIFEのBOOK」という言い方をしています。
髙田
なるほど‥‥‥、いい言葉ですね。

ライフのブックね‥‥。
糸井
自叙伝でもあり、1年間の私の本でもある。

手帳としていい悪いを超えて、
みんなが「This is my life.」と言えるような
手帳になりたいと思っているんです。
髙田
人はその瞬間瞬間で、
未来のことを考えたり、
過去を思い返して生きています。

それを自然に手帳に書いていて、
それがいつのまにか
ライフのブックになってるんだろうな、と
想像できます。

そういう意味で‥‥
そこを引っ張ってきてらっしゃるところが、
いやぁ‥‥すごい!

(明日につづきます)

2017-08-19-SAT