その4 どこにもなかった“ワインのコップ”完成。

「“でかワインコップ”
 つくってみました。
 なかなかよいです」

そんなシンプルなメールが高橋さんから届いたのは
2013年の年末のことでした。
年があけてすぐ、こんどは少人数で
高橋さんのガラス工房を訪ねました。
メンバーは、井上さん、武井、そして今度こそ西本。
残念ながら急だったので三浦さんはお誘いせず、
もしOKなものであればお送りしよう、
ということにしました。

到着すると、工房を入ってすぐの、
ステンレスの作業台の上に、
ずいぶん大きな“ワインのコップ”が並んでいました。


▲うわ、もしかして、完成‥‥?!

見たことのない大きさです。
もしこれをボウルにして脚と台をつけて
“ワイングラス”にしたら、
たぶんとんでもない大きさ、高さになりそうです。

前回の試飲のあと、研究と称して
いろんなお店をまわってみてわかったのですが、
「脚のないワイングラス」というのは、
世の中に、すでにあることがわかりました。
けれども、高橋さんのこの“ワインのコップ”は、
やっぱりちがいました。
なによりも、大きい。その大きさは、
「はじめからこういうものとして生まれたのだ」
という主張が、はっきりと感じられるものでした。


▲うれしそうな高橋さん。

持参した安ワインを注いでみます。
まず驚いたのが容量。
‥‥かなり、でかいです。
ちょっとだけ注いだつもりでも、
じつはいっぱい入っちゃう。
(これは飲んべえには嬉しい仕様です。)


▲入る、入る!

高橋さんは慣れた手つきで
この大きなコップを片手でひょいと持ち上げるのですが、
ぼくらは、どうしても怖い気がして、
抹茶碗をもつように、両手で支えてみます。


▲最初は両手で持ってみた。


▲井上さんが持つとこんな感じ。

あれ? 思ったよりも「すべらない」。
ガラスの肌はつるんとしていて引っ掛かりがないのですが、
上質なしっとり感が、手にすいつくようになじみます。
「サンプルですから、落とすのを怖がらず、
 片手で持ってみてください」
そう言われて、底辺のやや厚い部分を
利き手で指にかけると、
意外なほど、ホールド感がいい!
手のひらと親指で支えれば、
力を入れなくても、すべらず、落とさず、
口に運ぶのもむずかしくありませんでした。
思い切って「回して」みると、これがまたいい感じ!


▲ホールド感、いいです。


▲「でしょう?」と高橋さん。

「これ‥‥あたらしいですね。
 いままで、見たことないです」

リム(唇のあたる、縁の部分)の口径も、ちょうどいい。
小さすぎると、うんと傾けなければ飲めないし、
広すぎると、香りが逃げるところを、
ほどよい大きさに調整されています。


▲一見すくなく見えるけれど、たっぷり入っております。

「‥‥おいしい!」

これは、定番の「ワイングラス」とはまた別の感動です。
どちらがおいしい、ということではなく、
どちらもおいしい。
そして、このコップには、
ワインがどんどん好きになっていくような
魔法がかかっているように思えました。
ワインにたいするハードル
(思い込みのようなもの)をピューンと超えて、
ワインを飲む楽しさにあふれています。

しかし高橋さんは、まだちょっと粘りたい様子です。

「全体の大きさ、口径のバランスは、
 もうちょっと試行錯誤してみようと思ってます。
 手の大きさやからだの大きさで、
 使いやすいワインのコップは人によって違うだろうから、
 いくつかバリエーションがあってもいいかなって。
 それは展覧会開催までの、じぶんの宿題にします」

たしかに、武井、西本、井上さん、そして高橋さんと、
「これがいいなあ」というサイズは
微妙にちがっていました。
そもそも、型ではなく宙吹きによる手作りですから、
できあがる大きさには多少のばらつき、ゆらぎがあります。
それが高橋さんのつくるコップの個性ですが、
今回の“ワインのコップ”に関しては、
ちょっとだけそのばらつきが、
あえて、大きくなるかもしれません。

そんなふうにして工房をあとにしたわれわれ。
そして後日、高橋さんから
「完成」のメールが写真つきで届きました。


▲「ワインのコップ」は、かたちにバリエーションがあります。


▲「ワインのコップ」。中くらいで、径12センチくらい。


▲やや大きめ、径13センチくらいの「ワインのコップ」。少し大きめだけれど、使うと面白い!


▲手前は径13センチくらい、かなり大きめのものです。

うわあ、かなり大きめのものも、あるようです。
そして、前回の展覧会で大人気だった
「ガラスのコップ」も、
たくさん、定番や新作が登場するようです。


▲展示のリハーサル。
 手前はちょっと大きめの、底が厚いコップ。径9センチ×高さ11センチくらい。
 ミルクや水をガブガブ、ウイスキーのロックにも。


▲「丸コップ」。径9センチ×高さ10センチくらい。


▲リムに色ガラスを使ったコップ。ちょっと小さめで、径7センチ×高さ7センチくらい。


▲「いっぱいねじったコップ」。底までこんな感じにねじれています。これも手触りがいいです。


▲ねじりが少ないタイプのコップ。
 手触りも面白いですよ。八分目まで入れると200ccくらい。
 水とか、お茶とか、ビールとか、なんでも。


▲「へそのコップ」。ガラス球体、突き抜けるように一体化しています。


▲花のようなかたちのモールド(型)にいちど入れてから、吹いたもの。
 リムの部分がひらひらしています。


▲「うるうるコップ」。
 このあたりのコップはだいたい径8センチ×高さ9センチくらい。
 1センチくらいは個体差があります。


▲最近定番系のコップ7種。
 「なんにもないやつ」「ねじったやつ」「すじすじのやつ」「巻いたやつ」「ぼこぼこしたやつ」
 などと、高橋さんは呼んでいるそう。
 おんなじくらいの大きさで、違うコップを揃えるのもおすすめです。


▲定番の「うすいコップ」。
 なんだかんだいって、これがいちばん何でも使えます、と高橋さん。
 つくりかたも、超ベーシックだそう。

これが2014年版の
「ワインのコップ屋 タカハシヨシヒコ」です。

そして、展覧会の準備をすすめるなかで、
さらにうれしい展開がありました。
三浦しをんさんが、この展覧会のために
文章を書き下ろしてくださったのです。
小説とも、詩ともちがう、とくべつな言葉。
これを「ちいさな印刷物」にして、
コップをお求めのかたに、
さしあげる予定になっています。

ふだん、「ギャラリーってなんだか敷居が高くて」
と感じているかたも、
「高橋さんのコップ、手に取って見てみたい!」
というかたも、
もちろん買う気まんまんのかたも、大歓迎です。
ちなみに、いくつか試飲用のコップを用意します。
ワインの試飲はできませんが、「お水」で、
その口当たり、飲みやすさ、さわりごこちを、
たしかめてみてください。

「ワインのコップ屋 タカハシヨシヒコ」
2014年3月13日から18日まで、
東京・表参道のPROJECT GALLERYでひらかれます。
どうぞおでかけください!

2014-03-13-THU
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