高橋さんのインタビュー、後編です。
前回は「学んだ時代」のお話でした。
今回は「つくる時代」のお話です。
分の窯と工房を持って、
最初は、ガラスに色を被(き)せ、
そこにマスキングをして、
それを剥くようにして、削っていく、
そんなオブジェをつくっていました。
1個作るのに1週間ぐらいかかるようなものです。



それはそれでね、結構いいんですけど、
何て言うのかな、やり方の都合上、
たとえば大きさに限界がある。
焼き物をやってるやつ見ると、
自分の体くらいのサイズのものを
つくったりするでしょう。
けれどガラスはひとりではそうはいかない。
20代で、「このていどかな」という大きさのものを、
ちょっと気取って置いているような状況が、
何かもの足りなくなってくるんですよ。
そういう意味でけっこうじたばたしたところがあります。

それから、たとえばデパートの展覧会に誘われると、
断らずに出品してきたんですけれど、
むこうはぼくのつくるものを
「新しい工芸」とか、そういういいかたをする。
それに、妙に先生扱いをするとこともある。
それが、あまり気持ちのいいものではなかったです。



今もね、ぼくは一昨年から多摩美でガラスを
教えているけれど、
「先生」って呼ばれると、何か気分悪くなってきて、
そういうところは変わってないですね。
「せんせーい!」
「なんだ生徒!
 俺だって名前あんだぞ!」みたいなね。

ドイツにいたときは、若造が変なことやってても、
ちゃんと大事に“もの”を見てくれるし、
自分の目線で思ったことを言ってくれるのに、
日本の展覧会は作家を
なるべく高い壇上に上げようとするんですね。
そういう構造が見えちゃったりする。



そのうち、自分のやりかたも、
自分の在りかたも、
何か間違ってるぞと思うようになるんです。
それでしかも、ガラスの仲間と
「売れねえなー」なんて話してたけど、
考えてみたらさ、それ、
人がほしいもの作ってないから
売れないの当たり前だよね(笑)。

ガラスって、二通りあるんですよ。
ひとつはたとえば「何々を飲みたい」という
目的が先にあって、それに向かって器をつくる人。
もうひとつは、ガラスを形づくるという
テクニカルなことや、かたちに興味があってつくる、
ある意味彫刻的なほうに突っ走る人。



ぼくは、ガラスをはじめた最初のころは、
どっちかっていうと、後者だったんです。
ガラスを吹いて、削ったり、表面加工したり、
そういうことが楽しくて。
ところが、そうやってるうちにね、
自分が、自分の出したアイデアの、
奴隷になってしまう、
ということが、だんだん増えるんですよ。
「作りたいもののためだったら自分は何でもする」
みたいな作り方になっていく。
もちろんそれはそれで強固な作り方ではあるのだけれど、
ぼくは、──向かなかったんだね(笑)。
堅い目的というのかな、
これ作るためにはまず自分は
これ作んなきゃいけないとか、
そういうふうに仕事をしてたら、もうやんなっちゃって。

けれども、溶けてるガラスを巻いて、
ぷーっと膨らましたり、ポンテ取ったりとかっていう
「宙吹き」は、
ガラスのもつすごく特徴的なことや、
ダイナミックなことが、いちばん味わえる。
それを、もっとやりたいなと思ったんですよ。



学校とかだとそういうのって、誰でもやるし、
人と同じコップなんか作ったって、
それはもう全然オリジナルじゃないから、
「そんなことやるな」的なのが、
よくある学校のかたちだと思うんですけど、
でも何か、自分がやりたいのそっちだなあと思って。
ふりかえってみると、学生の頃から
きっとそう思っていたはずなんですよ。
なのに、言い出せなかったんだろうなと思います。

で、この10年くらいは、
巻いて、膨らまして、広げる、
ということをやっています。
それまではけっこう人に
手伝ってもらったりしていたのを、
ひとりでやるようになって、
そうすると器っていっぱいできちゃうんですね。
じゃ、もうこれ、
売った方がいいんだろうな、と、
そんなふうになったのが、最近、
ここ10年くらいかな、なわけです。
だから始めてしばらく経ってから、
改めてそういうことを考えたってことですね。



それから──、
前にお話しした濱田能生先生ですが、
先日急に亡くなられて、お葬式に行って来ました。
66歳でした。
心臓が前からあまりよくなかったのですが
ちょっと早すぎです。
うつわを作ることについて、
いちばんはじめにすごくいろいろ
教えてもらったと思います。
なので今回の「コップ屋」展は、
濱田先生トリビュートです。



高橋さんの取材をしていて
ふしぎだなあと思ったことがひとつ。
これは「ほ+」の取材をしているなかで、
「土ものは、こうして手と土がひとつになって、
 大きさや感触をたしかめながら
 かたちができていくんだなあ」
と思っていたことと関係するのですが、
ガラスは制作途中で触ることすらできません。
触ったら大火傷ですから。
なのに、こんなふうに、
手におさまりがよかったり、
口ざわりがよかったりするものがつくれちゃう。
それはなぜなんだろう‥‥?? と。

前回につづいて、ガラスにくわしい
プラハのシノさんにたずねてみました。

るほど、ガラスを吹いたことのない人には
不思議ですよね。
もちろん、宙吹きを始めたばかりの人だって、
みな一度は「素材にさわれない」ことに
ジレンマを感じたことはあるはずです。

そもそも日本のクラフト系のものつくりは
「素材ありき」だから尚更なのかもしれません。
なにしろ、日本人の器用さが
直接手で触れて加工の出来る
素材の扱いに長けてるのは確か。
その中で、ガラスは触ることができない。

でもね、これがやっているうちに
不都合を感じなくなるんです。
たぶん道具を使いこなすことと
経験値によるものだと思うけれど、
直接は触ってなくても、
ちゃんと素材の感触は伝わっていて、
きちんとコントロールできるようになります。

それを勘という人もいるけど、実際にはちゃんと
素材の感触をわかって作業しているわけです。
だから直接触っているのと差異はないといっていい。

といっても、きっと武井さんは納得しないよね?

ここでちょっと高橋さんの話をすると、
彼は人為的なかたちをきっちりつくりあげる技術と
極力ガラスに触れないで、かたちをつくる技術の
両方をもっています。
(本人がこの二つをわけて考えているか
 どうかはわからないのですけれど。)

前者は素材をとことん人為的にコントロールする。
ガラスの性質からは自然に生じないかたちを
人為的につくりだす。
欲しいかたちになるまで手を加える。
(にもかかわらずその痕跡は残さない)

後者は、逆にガラスの性質を利用して、
息で膨らむ力や遠心力によって得られるかたちを
損なわないようにするために極力素材にふれない。
ふれないけど「かたち」は
しっかりコントロールされている。
(決して偶発的なかたちではない。)

で、ここで留意しないといけないのは、
宙吹きにはこういった重力や遠心力というような力が
成形に大きくかかわっているということです。
高橋さんのように、
ここまで意図的に
かたちに反映させるかどうかはともかく、
宙吹きからは切り離せないものとしてある。
それはそもそも手で触ってどうの、
という話ではないですよね。

そのせいか、特に宙吹きではイメージトレーニング
(という言葉で呼ぶかどうかはともかく)が
大切になります。
出来上がりに対する(かたちの)イメージ、
それを作る工程(技術)のイメージ。

もちろんガラス以外のどんな素材でも同様なんだけど、
ひょっとしたら宙吹きの場合は
より具体的にイメージすることで、
素材に触って確認する代わりになるのかもしれません。

知識としての手順じゃなくて、
具体的にイメージするというのが
どういうことかというと、
ちょっと唐突だけど、
『LIFE』の飯島奈美さんを想像してもらったら
わかりやすいかもしれないです。
例えば飯島さんだったら、きっと、
フライパンの厚さ、火力、肉の部位・厚さ等、
あらゆる要素から
何分焼けばこうなるというイメージを持ってるはず。
更にはキッチンの広さやアシスタントの間合いまで
全て、はかれてるんじゃないかな。

ガラスもまったく同じです。
どこまでそれができるか、経験値に加えて理論も必要。
高橋さんはそれが完璧にできるひとなんです。
素材を直接手でさわれるかどうかより、
どこまで具体的にイメージできるかが
鍵なんだと思います。

だって、そうじゃなければ、直接手でさわれる素材なら
誰でもかたちがつくれることになっちゃうでしょ?
でもそんなことはないわけで‥‥
自分の例でいえば、私は磁器もつくる。
磁土は直接手で触ることができる。
でもね、悲しいかな、うまくいかない。
磁土の方が溶けたガラスより
扱いやすいなんてことは全くないんです。
実際自分で土を触ると、作業イメージが
体得できていないことが実によくわかります。
もちろん、直接手でさわれる素材の方が、
とっつきやすいというのはあるかもしれないですけれど。

これからその磁器のシンポジウムに行って来ます!
(shino)

shinoさんどうもありがとうございました!
あたまではわかったような気がしつつ、
たぶんほんとうのところはじっさいにつくる人でないと
わからないことも多いんだろうな、と感じつつ、
今回の個展を見ようと思います。

高橋禎彦さんの個展
「コップ屋 タカハシヨシヒコ」
南青山のギャラリーcomoで
6月24日までひらかれています。
どうぞ、おでかけくださいませ。
(シェフ)

2011-06-20-MON
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その1 movie まずは動画で高橋さんの「宙吹き」のようす、ごらんください。
その2 interview タカハシ青年、ガラスの道へ。
その3 interview 巻いて、膨らまして、広げる。

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