HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
15 7年目の初勝利

プロ7年目にして、
山田修義のぶよし投手が
一軍でのプロ初勝利をあげました。
初めて彼の球を見たのは、
まだ僕自身が現役だった6年ほど前のこと。
(なんていい球をほるんやろう!)
新人の、惚れ惚れするようなピッチャー。
山田投手は覚えていないでしょうが、
「ええ球投げるなー。頑張れよ!」
と話したことがありました。

それでも、7年かかった。
7年といえば、赤ちゃんが小学生になる長さです。
結果を残さずして7年プロで居続けることは、
大変難しいのが現実です。
プロ野球選手になるのもさることながら、
プロであり続けることはもっと難しい。
7年目にしてつかんだ初勝利の意味はすなわち、
いかに彼が期待され、
評価され続けているピッチャーであるか
ということを表しています。

指導者も頻繁にかわり、
彼自身の怪我による手術や、育成への降格など、
紆余曲折はいくらでも経験したはずです。
それでも山田投手はプロ野球選手であり続けました。
球団の思い、彼自身の
くじけない、あきらめない気持ち。
そういったものがすべて、
今回の初勝利につながったと思います。
また、指導者が変わるたびに、
それぞれの教えをしっかりと吸収してきたのでしょう。

初勝利の翌日。
山田投手は二軍の監督・コーチ室を訪れました。
「おかげさまで、一軍で勝つことができました」
その! 感動の瞬間! ‥‥に、まだ僕は球場にいて、
部屋に戻ってから、その報告を受けたのです。
「会われへんかったけど、
 わざわざ来てくれるなんて、
 その気持ちが嬉しいなあ」
僕は吉田投手コーチとささやかに喜びをわかちあい、
すぐに散歩に出たのです。
寮のまわりを回遊魚のようにぐるぐる回る、
いわゆる運動のための散歩。
山田投手が僕のことを
いまだ探しているなんて、何も知らずに‥‥。

なにしろ、僕は
体質的にコレステロールが溜まりやすく、
内臓脂肪が多いのです。
どこからどう見ても僕より立派な体格のヨメが、
タニタの体重計の上で勝ち誇ったような顔をして、
少ない内臓脂肪値を見せつける、
その時の悔しさ、情けなさといったらありません。

負けてたまるか!
おそらく7年間そう思い続けた
山田投手ほどではないにせよ、
僕の頭はヨメへの対抗意識でいっぱいでした。

そんな回遊中の僕を見つけてくれた
山田投手の最高の笑顔は忘れることができません。
「初勝利おめでとう。次は初完投、初完封やで」

人間、結果をすぐに求めてしまいがちです。
けれどどうでしょう。
山田投手のように、じっくりと、いいお酒のように、
時間をかけて熟成していく例だってあるのです。
決してあきらめない。
そして、まわりの人間にも、
自分という素材をあきらめさせない。
それは、己が野球に立ち向かう姿こそが
生み出すものにほかなりません。

山田投手おめでとう!
次、さらなるいい報告に来てくれる時は、
監督・コーチ室じゃなくて、
寮まわりのウオーキングコース待機でお願いします。
僕も、いろいろ負けてられないんで。



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