HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
14 最初からやり直し

大変ご無沙汰しております。
また、このたびはご心配をおかけして
申し訳ありませんでした。
田口壮、3日ほどお休みをいただきましたが、
元気に現場復帰しております。
ちょっとだけ、体調がいつもと違ったのです。
しかしもう大丈夫。
休んでいる場合ではありません。
やるべきことは、山積みです。

そんな日々の中、育成契約だった園部聡選手が、
支配下選手として登録され、
軽くなった背番号とともに即一軍昇格となりました。
二軍監督として、
こんなにうれしい出来事がほかにあるでしょうか。
怪我があったからこそ一度は育成に下ったとはいえ、
もともとは支配下の選手。
なんとかもとの立ち位置に戻してやりたいという
強い思いを胸に見守ってきたのです。

その園部選手が、昇格するなりプロ初安打、
初打点をあげてヒーローとなり、
頬を赤く染めてヒーローインタビューを受ける姿を僕は、
療養中の自宅で見ていました。
体調を崩し、現場から離れて焦り落ち込む自分を、
ぐっと引き上げてもらったような気持ちになりました。

そして園部選手は現在、ズタズタのボロボロになって
ファームに戻ってきております。

初めての一軍。初めての大舞台。
球場の歓声にナイトゲームの照明。
彼の興奮が手に取るようにわかります。
興奮と勢いは、驚くほどのパワーを生んで、
相手を圧倒します。
周囲を引き込んで、一度は渦の中心となります。
しかし、打たなければ、打たなければ、と焦る気持ちは、
もともと持っている自分の形をどんどん崩し、
修正ポイントを見失い、緊張のあまり、
まわりの話していることは
「初めての海外旅行」の会話のごとし。
そのまま電池切れして帰ってきた暑いグラウンドで、
園部選手はしょぼんとしながら聞いてきました。

「僕‥‥どうっすかねー?」
「ばっらばらやな!」

そうです。ばっらばらです。
だから、最初からやり直しです。
けれど、誰もがそうやって経験を積んでいくのです。
どんどん電池のもちもよくなって、まわりの会話も、
なんとなく理解できるようになってくる。
今度一軍に上がったときはきっと、
もう少しだけ余裕を持って試合に臨めることでしょう。
再びの支配下で、彼の野球人生は、
まさにもう一度始まったばかりです。

もともと、度胸が良くてユーモアにあふれる選手です。
試合前に必ずと言っていいほど、
「今日、僕どうっすか?」とやってくるのも彼です。
「うーん、このへん、こんな感じやなー」などと言うと、
「じゃっ、直してきます!
 試合までまだ30分もありますから!」と、
言ってのけるのです。
大胆で軽妙な言葉遣いの中にも、
必死さと真剣さが見て取れます。
いやむしろ、そうやって自分に
言い聞かせているのかもしれません。

上のコーチ、たとえば高橋慶彦打撃コーチに、
「今日の僕、どうっすかねえ?」と聞けるくらい、
大きな気持ちで臨んでほしい。
僕らの年齢なら、
雲の上の憧れのヨシヒコさんにそんな口をきくなど、
とてもそんな勇気はありませんが、彼らの世代なら、
案外さらりと言えるんやろうな、と、
ちょっぴり羨ましくて、そして頼もしい。

「今の若い奴らは‥‥」と、呆れる時代じゃないのです。
今の若い奴らは、それでええんや!




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