テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第11回 誰からも同情されない傷。
糸井 歳取ってもね、
いっつもたのしいですよ。
「きついなぁ」というのも含めてたのしいです。
いずれにせよ、「やりようがある」と
思ってるうちは
何だってたのしいですよね。
鈴木 はい。
糸井 「ああこれは、ほんとうにやりようがない!」
と、思う瞬間が来たとき、
それにのまれちゃったら、
いよいよたのしくなくなるでしょう。
ぼくは、そういうふうに
「あ、ダメだ」と
思ったことがありました。

そして、ぼくはまず、
手に持ってるものを全部手放した。
それが、40代のおもしろさでした。
 
鈴木 そうなんですか。
糸井 手放していくと、
つらくなくなっていくんです。
「へぇ、ここからまた変わるんだ」
ということになって、
それはぜんぶ、おもしろかったですよ。
鈴木 へぇえ。
糸井 ‥‥あ、そういえば、その頃だ、
木村拓哉くんに会ったのは。
鈴木 そうか、その頃‥‥。
糸井 映画の「イージー・ライダー」で、
ピーター・フォンダが
ハーレーダビッドソンに乗ってたでしょう。
砂漠の一本道をバイクで行くとき、
後ろに弁護士出身で酔っぱらいの
ジャック・ニコルソンが乗ってるんです。
鈴木 そうですね。
糸井 運転してるピーター・フォンダは
それなりに冷静で、でーんと構えてる。
だけど、後ろに乗ってる弁護士は
それまで知らなかった世界がおもしろくて、
キャーキャー言ってるんです。
それがオレですよ。
鈴木 ははははは。
糸井 40代のオレは、
新しい世界に乗っけてもらって、
キャーキャーしてました。
なんておもしろいんだ、
若いやつっていうのはなんておもしろいんだ、
ってね。

それまでのオレは、いわば
弁護士の資格で商売してました。
それを酒瓶ひとつに変えちゃって、
キャーキャー言ってた。

40代は、厄年も来るし、
いろんな人のいろんなことが
いっぺんにやってきますから。
鈴木 そうそう、厄年‥‥厄年っていうのは、
いったい何なんでしょうか。
糸井 いわば、折り返しでしょうか。
そこで病気したり、
あるいは、金で済ませるような
プレゼントを考えるはめになったり(笑)。
そういう暮らしのあれこれが
だいたいひととおり
「ため息つくような事態」になる。
それが厄年なんでしょうねぇ。
鈴木 そういう40代って、
怖くないでしょうか。
糸井 怖いです。
だけど、その不安が
すごく栄養になって、
ジタバタしたこと全部が
あとの自分を作ります。
ジタバタしてよかったし、
手放してよかったし、
請求書を見つめてよかったし‥‥。
鈴木さん、すれ違っただけの
女の子にモテちゃったりしたことも
あるでしょ?
 
鈴木 いやぁ、あの(笑)‥‥、
ぼくが、大島の前に
半年間つきあってた人がいまして、
その方は、モデルさんでした。
その人が、ぼくが大島と
結婚することを知ったとき、
そうとう愚痴を言ってたそうなんですが、
いや、そりゃそうだよな、って思うんですよ。
糸井 そりゃそうですよ。
それが、40歳になると
さらに大きな請求書となって
返ってきます。
鈴木 40で。
糸井 うん。
当時、その人と
建築したものがあります。
自分なりに、構想もありました。
だけど、鈴木さん‥‥、
モデルには、してもいいと思ってるんですよ、
そういうこと。
鈴木 そうですね。
‥‥はい。
糸井 女子大生にはしちゃダメだけど、
モデルには、いい。
「どうせモテるんだし」
鈴木 ‥‥そうですね。
糸井 でも、彼女は
「別れの似合う女になってます」
みたいな歌を、
モデルであると同時に歌っています。
どうしますか。
40になって、請求書来ますよ。
鈴木 ‥‥はははは。
糸井 道でばったり会うか、もしくは
誰かのマネージャーとして
テレビ局に来たりします。
子役デビューした娘に
母親として付き添ってスタジオに来て
「あ、鈴木さん」
って、ものすごく丁寧に言ってきます。
鈴木 ははははは。
糸井 「これは謝ることでもないけど
 オレはあんとき
 モデルだということをいいことに、
 大島に乗り換えたっけなぁ」
鈴木 うーん。
糸井 女優だ、モデルだみたいな子は傷つかないと
思ってるんですよ、放送作家は。
鈴木 いや、あの‥‥ははははは。
またその、モテる感じに腹を立てたりも
しましたからね。
 
糸井 ぶっ(笑)。
鈴木 モデルは、クラブとか
タダで入れてくれたりするんです。
それに説教したりしてました。
糸井 そんなことしてたから、
それを利用して、タダ乗りしたんですよ。
お父さんもお母さんもいるんだよ、彼女には。
鈴木 そうなんですよ。
そこなんですよ。
糸井 大島さんのお父さん、お母さんのように、
モデルにも、お父さん、お母さんがいます。
きれいな子たちの傷は、
誰からも同情されないんですよ。
鈴木 たしかに、新聞に「女優が別れた」
みたいな記事が出ても、
なんとも思わないですもんねぇ。
別れたって、すぐまた彼氏できるし、
と思ってしまいます。
糸井 へっちゃらでしょう。
鈴木 でも、傷つき方たるや、
当然ながらそうとうな思いなわけです。
糸井 女優は女優で、
女優スーツ着てますから、
わたしは傷つかないんだというふうにして
心情をチェンジすることが
上手になっています。
だけど、魂の部分では、
女の人は全部おんなじ女の人ですから。
‥‥ということが、
45ぐらいのときにわかります。
鈴木 予告編を見ちゃいました(笑)。
糸井 うん。
鈴木さんだけじゃない、
誰でもそういうことをしてるわけです。
「わたしは平気」というテーマの
中島みゆきさんの歌が
染みるようになったりする、それだけです。
たまんないです。
反省すればいいのかというと、
よくわかんない。
きっと、「わかりました」と言いながら
世界観を広げるしかないんですよ。
そして、自分が作れるもので
恩返しをしたりするしかないんですよね。
鈴木 そうかぁ。
糸井 だけどそれは男ばかりかというと
そうでもなくて、
男を粗末に扱った女が
40ぐらいになって悪かったかもしれない、
と思う。
そういう時代がいま、来ていると思います。
  (続きます)
2010-08-10-TUE