翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第七十回配信 
キリスト教原理主義 対 9.11陰謀論 その2


その1に引き続いて、
アメリカの困った人たちのお話です。

政治を動かす方法/原理主義の場合:

選挙で保守派の候補を普通に応援するのが
原理主義の人たちが政治を動かすときの基本です。
2004年の大統領選挙など国政レベルでは
ゲイカップルの結婚の禁止と中絶の禁止が
重大課題になりました。

エバンジェリカルに強い影響力を持つ
説教師たちはおしなべて
いろんな機会をとらえてゲイを攻撃します。

9.11のテロ直後、
原理主義者伝導師ジェリー・ファウエルは
テレビのお説教番組のなかでいいました。
"異教徒、中絶医、フェミニスト、
 ゲイ・レズビアンなどの
 伝統的でないライフスタイルを
 追い求めるものたち”や
 アメリカを世俗化しようとする
 リベラル団体たちが
 テロを誘発したのです!"
神様の怒りが9.11で現れたというわけです。

また昨年、
ハリケーン・カトリーナの大被害のときは、
別のキリスト教原理主義団体
「リペント・アメリカ(悔い改めよアメリカ)」の
マイケル・マルカベジは、
例年9月の初めにニューオリンズで行われる
ゲイのフェスティバルが行われないように、
「神は(カトリーナで)ニューオリンズを破壊したのだ」
と声明をだしました。

端的にメチャメチャな意見ばかりですが、
こういうふうにゲイを批難する
キリスト教原理主義のメッセージは
信者の一部には
その"惑いのなさ"だけが伝わってしまいます。
その結果として
ゲイに対するヘイトクライムを焚きつけ、
選挙という合法手段だけでなく
残念なことに暴力という形でも
彼らの主張が浸透しつつあります。

余談なんですが、
神様は本当にゲイが嫌いなんでしょうか?
9.11のテロの時にはニューヨークで、
ゲイの消防士・警官たちも命がけで活躍しました。
中には亡くなられた方もいたのですが、
9.11の極限状況における
ゲイの消防士・警官の活躍は
"女々しいゲイ"という偏見を
少しだけ取り除くことになりました。
"女々しい"と同僚から敬遠されることをおそれて
以前は内緒にしていたのに、
カミングアウトするゲイの消防士が
NYで少しずつ出てきているそうです。
ニューオリンズの場合、
堤防の決壊で
全市が壊滅的な被害を受けたにもかかわらず
ゲイ文化の中心地フレンチクォーターだけは、
例外的にほとんど浸水せず
被害をまぬかれています。

原理主義の人たちはいろんなことをいいますが、
神様の気持ちを彼らが本当に理解できているかどうかは
かなり怪しいんじゃないでしょうか。

話を戻すと、原理主義者が
ゲイとならんで目の敵にするのが中絶です。
原理主義の説教師は
"中絶は殺人です。ホロコーストです。
 中絶に反対する候補に投票しましょう"と
かけらほどの惑いもなく信者に説きます。
信者もそれを素直に受け入れて、保守派の候補に投票します。
ただ、その"惑いのなさ"を
またもや真に受けた一部の信者が、
産婦人科医を襲撃して殺害してしまったり、
産院を爆破したりする事件を過去に起こしてきました。

こういうテロ行為が
組織的なものでないのは明らかですが、
原理主義者たちの極端に単純化された主張が、
やはりテロ犯たちの正義感の裏づけになっています。

結果的に、原理主義の人たちにとって、
選挙運動と、
ヘイトクライムを含めたテロ活動の組合せが、
政治目的を達成する手段になっています。
これって、
パレスチナのハマス・.レバノンのヒズボラなど
イスラム関係のテロの人たちと
大差なくなってきてるんじゃないか・・・
というやな感じがします。

それにしても不思議なのは、
彼らがテロ事件まで起こしてしまうということです。
キリスト教といえば愛と赦しの宗教ですから、
一般的なイメージとは正反対です。
すずきちも
単に違和感をかんじるばかりだったのですが、
映画『ジーザス・キャンプ』をみたら、
何が起こっているのが少し理解できました。

この映画は、
キリスト教団体キッズ・イン・ミニストリー
(聖職の子供達)の
代表ベッキー・フィッシャーが主催する、
子供達のための
キリスト教原理主義サマーキャンプの
ドキュメンタリーです。

ベッキーは言います。
"パキスタンをみなさいよ。
 (イスラム原理主義者が)子供たちを集めて、
 手榴弾の投げ方や、銃の撃ち方を教えてるのよ。
 でも悪いけどね、
 正しいのはあたしたちなの"

"子供達が根源から
 福音にもとづいた生活をするような姿がみたいの。
 パキスタンや、イスラエルや、
 アフガニスタンで(他の宗教が)やってるように"

胸を張ってそう断言する彼女は、
まず子供たちに
神様は絶対だ! 神様はみんなをみている!
神様のために生きよう! と徹底的に刷り込みます。
子供というのは自分の存在自体に
どこか不安を持っているものですから、
効果はてきめんです。

両親が熱心な原理主義者のせいで子供達が
そういう教会につれていかれるわけですが、
教会で大人に絶対の神様を刷り込まれた
子供達がおうちで楽しんでいるのは
曲はヘビメタだけど歌詞はお説教の
クリスチャン・メタルだったり、
かわいらしいキャラが登場して
ビッグバンや進化論を否定して天地創造を教える
子供向けビデオだったり、
アメリカらしいエンタテインメントの数々です。

そして夏休みにはキャンプに参加します。
湖畔の森の合宿施設で行われるキャンプでは、
レーシングカートで遊んだり、
子供らしい活動もあるものの、
メインはさらなる刷り込みです。
中絶で生まれることのなかった子供たちについて
お説教を聞いてみんなで涙をながし、
ブッシュ大統領の等身大縦看板をホールに持ち込み、
みんなで看板を拝みながら"念"を送ったり、
"神のもとに統一された国!
 (One Nation under the God!)"
と看板に呼びかけたりします。

そこで出来上がるのは、
「たくさんの人が神のために死んでるよね。
 怖がることすらしないでさ」
「ぼくたちがイエスの再臨を迎えるのに
 鍵になる世代だと思う」
と真顔で語る小学生です。

そんな子供達をベッキーは「神の軍隊」と呼びます。
まさに銃の撃ち方を教えないだけの、
原理主義者養成キャンプでした。
(ちなみに、
 普通のキリスト教団体が主催する
 一般的なサマーキャンプは
 ハイキングしたり遊んだりする活動が中心で
 少しお説教が入るくらいです)

この映画で描かれる子供達の姿は、
エバンジェリカルの市民の間ですら
評価が分かれるほど過激で、
原理主義者でないひと全員には
原理主義者の
怖さしさしか伝わってきません。

ところがもっと怖い話があります。
映画には、
ところどころ活動に批判的なトークも入るのですが
ベッキー・フィッシャーは
この映画の宣伝に非常に熱心なんだそうです。
彼女には、映画をみさえすれば、
より多くの潜在的な支持者が理解してくれるという
確信があるのです。
正直、こういう揺るぎない確信が何より怖いですね。
ハリウッド版『呪怨2』より全然怖いです。

同性婚禁止や中絶禁止運動を通じて
原理主義者たちの極端な主張が、
どんどん政治の主流を取り込みつつあり、
それがときにテロ活動の形すらとっています。
そして、
より徹底的に原理主義を刷り込まれた次の世代が
育ちつつあるのです。

次回は、9.11陰謀論者が政治を動かそうとする様子を
観察してみます。

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2006-10-17-TUE

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