翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第六十八回配信 9-11陰謀論 その3


情報を増やす人々

その1と2では、
9-11陰謀論の川上の一次情報とされるものの中に、
陰謀論を仕事にしてる人たちによる悪趣味な嘘や
支離滅裂な言いがかりが含まれている例を
紹介してきました。

今回はこういう情報を拡大して広める
川下陰謀論者についてみていきます。
代表はラジオ番組ホスト、
アレックス・ジョーンズ。

なんとこの人、2001年7月に
「政府が自作自演テロを起こして、
 ビンラーデンのせいにするはずだ、
 だからみんなでホワイトハウスに電話して
 “計画を知ってるぞ”って言おう!」と
彼の地元テキサス州オースティンで放送された
ミニコミ・ケーブルTV番組で主張したらしいです。

ただこの予言は、
残念ながら内部告発に基づいたものではなく、
ジョーンズが自分で情報の「点と点を繋ぎ合わせた」
上での結論とのこと。
つまりは彼のイマジネーション‥‥。
といって悪ければ
点と点をつなぎあわせることを
可能にした彼の見識以外に
根拠がありません。
しかもこんな大予言をしたわりに、
「俺様は9-11を予言した」と2004年8月に彼のサイトに
当時の映像をアップするまで、
予言があったという事実に、
アメリカ中のだーれも気づいてなかったような‥‥
とにかく予言を成功させた
彼の見識とはどんなものなのか
ちょっと調べてみました。

アレックス・ジョーンズは2000年12月の時点で
自分のサイトにこう書いています。
「もう疑いようはない。
アメリカは警察国家へ変容しようとしている。
地方政府に国家の政府、巨大多国籍企業、
共産主義国の独裁者までもが超巨大世界政府へと
地球規模で一体化しようとしているのだ」
そしてこの世界政府は、政党も、教会も、慈善団体も、
軍隊も、連邦準備銀行も、
WTOも、IMFも、世界銀行まで
統合しようとしている‥‥んだそうです。

「疑いようはない」とか言わないで、
悪いことは言わないから自分の言ってることを
ちょっとは疑えよと思いますが、
9-11以前から、悪の巨大世界政府が
私たちの自由を奪いつつあるんだ!
という危機感が彼の発想の中心にあるようです。
体系だててなにかを議論するというよりも
各論で大騒ぎするひとなので、
根拠はわかりません。

とにかくその危機感から彼は、
拠点としているテキサスで
今までにさまざまなトラブルを巻き起こしています。
ブッシュ大統領の州知事時代には、
ブッシュが参加した何かの集会にでかけていって、
「連邦準備銀行を潰すべきじゃないんですか?」
といきなり大声で質問し、速攻で逮捕されています。
なぜ、連邦準備銀行が悪の組織になってしまうのか
本当に不思議で、想像もつきません。
そのときの映像をみると
ブッシュもきょとんとしています。

またある時は、彼が運転免許の更新に行ったところ、
申請者全員から
指紋を採取するシステムになっていました。
指紋をとられるなんて確かに不愉快だし、
普通に反対する人がいてもいいとは思うのですが、
アレックス・ジョーンズはこれを
来るべき世界政府が個人を管理するためのシステムだ!
として拒絶。
ビデオカメラ・クルーを呼び込んで撮影させつつ、
運転免許発行窓口で糾弾を続け、
やっぱり逮捕されています。


どんなものからでも、陰謀論を生みだせる?

彼にとって川上の情報は
陰謀論である必要すらありません。
それらしいものは何でもかんでも
世界政府の陰謀なのです。
「点と点をつなぎあわせる」というのは、
目の前にあるネタから
陰謀論を生み出すことなのでしょう。
逆に“彼の見識が正しいから9-11を予言できたのだ”
という前提に立つと、“世界政府樹立の陰謀”が
正しいことになってしまいます。
折角の大予言だったのに、陰謀論業界の人からも
大して評価されていないっていうのは
そういう事情じゃないでしょうか。

ちなみにこの予言の元ネタも実はバレバレです。
調査報道ジャーナリスト、
ジェームズ・バムフォードの著書
「ボディ・オブ・シークレッツ」(原題)という本。

“アメリカがハイジャックなどの自作自演テロを行い、
 それをキューバのせいにして、
 キューバ侵攻の口実にする”

という作戦案がケネディ政権の頃、
実際にあったのですが、
このオペレーション・ノースウッズの存在を
広く知らしめたのが2001年4月発売のこの本でした。
この作戦は1962年に秘密裡に立案されたものの
結局は没になりました。
その後90年代後半に当時の資料が情報公開され、
作戦を提案する書簡そのものが公になっています。
巨大な諜報機関アメリカ国家安全保障局(NSA)の
全体像を描く上掲書の中でバムフォードは、
オペレーション・ノースウッズの
歴史的事実を紹介する一方、
ビンラーデンなどテロリストの動向を探る
NSAの現在の活動も紹介しています。

“政府による自作自演テロの陰謀”と
“ビンラーデン”というふたつのキーワードが
両方この本にありました。
さらにバムフォードはアレックス・ジョーンズの
ラジオ番組に2001年5月にゲスト出演していますから、
アレックスがこの本を読んだのはあきらかです。

オペレーション・ノースウッズの
歴史的事実については、
そんな計画があったのか!
アメリカは信用できないね、
と思うのがアレックス・ジョーンズならずとも
人情でしょう。
一方で、アメリカ現代史の知識がある程度あれば、
同じ頃起きた米軍によるリアルな
謀略トンキン湾事件が、
結局ペンタゴンペーパーズ報道で明るみに出た事実や、
ウォーターゲート事件で大統領といえども
悪事がさらされてしまった歴史、
そしてオペレーション・ノースウッズの提案書のような
極秘資料すら年月を経た後には結局公開されてしまう
という事実そのものから、
ものすごく巨大な陰謀は
アメリカでは成り立ちにくいよね、
と思い至るはずです。

ところがアレックス・ジョーンズは、
いつもの、なんでも巨大陰謀にしてしまう癖がでて、
オペレーション・ノースウッズと全く同じことを
ブッシュ政権が計画しているに違いない!
と思い込んで、
いつものように大騒ぎしてしまったのです。
例えば占い師なら、考えられる限りいろんなことを
予言し続けていればいつかはなにかが当たるわけですが、
アレックス・ジョーンズもさまざまな種類の陰謀論を
あらゆる機会を捉えて発表してきました。
そのうちのひとつがたまたま、
9-11陰謀論と相似形をしていた
というのが予言の真相でしょう。


陰謀論の汚染は、なぜ広がるのか?

陰謀論者には嘘・こじつけの
一次情報を流す川上の人達と
流れてきた情報を合流させる川下の人達がいる
と書きましたが、
予言をまぐれあたりさせてしまうほどの
陰謀論のデパート、
アレックス・ジョーンズは典型的な川下の人です。

しかもラジオ番組のホストとしては意外にも
普通に番組を仕切ります。
バムフォード出演のほかには、
グラン-プレ"退役どこかの大佐"が
ユナイテッド93便を撃墜した
パイロットを知っていると
ほのめかしたのも彼の番組でしたし、
WTC第7棟の“pull itは爆破解体”のこじつけも
彼のサイトで“事実”として
コピペ報道されています。
このように小さな源流を全部のみこみ、
さらに、その1の最初であげたような
数々の素朴な疑問を
ひとつ残らず陰謀で説明して、
陰謀論情報の大河にしてしまう機能を
この人とこの人のラジオ番組やサイトが果しています。
実際問題、9-11陰謀論の関係を検索すると
どのページにもアレックス・ジョーンズ発の情報が
ほとんど必ず載ってます。

いったん大河になってしまうと
どんなに腐った水が流れていても目立たなくなります。
ホロコースト否定論の腐臭がするような
情報の川上へたどっていくほど暇じゃない
普通の人達にとっては、
ずいぶん沢山怪しい点があるんだね、
9-11は政府の陰謀かもしれないね、
で終わってしまうわけです。

こういう傾向に拍車をかけているのが、
ブッシュ政権とイラクの状況にまつわる
アメリカ国民の閉塞感です。
2004年の大統領選の得票率をみてもわかるとおり
もともとアメリカ国民のほぼ半分が反ブッシュです。
更に、いつまでたっても先の見えないイラク情勢もあり、
ブッシュ政権の現在の支持率は40%弱ですから、
本当なら民主党の巻き返しが起こって当然の状況です。
ところが、イラク侵攻の開始に対しては民主党の議員も
大部分が賛成票を投じているので、
見通しの甘さは大統領も民主党も一緒。
つまりは、イラクについてはスネに傷の民主党が
アメリカ国民の閉塞感を解放するビジョンを
胸をはって示すことが出来ないという事情があります。

そんな閉塞感を打開するための
最もイージーな発想が
反ブッシュを“犯ブッシュ”
にしてしまうことなのでしょう。

つまり、“ブッシュは9-11を計画・実行した犯罪者だ!”
というのが事実ならば、
民主党がどんなに頼りなくても、
ブッシュ政権を否定することが可能になる、
という理屈。
最近のいくつかの世論調査で、
9-11陰謀説を
なんとなく支持する人が増えてきているのは、
本当は民主党が有効な手を打てないでいる
という状況に対する
閉塞感が数字になったものなのです。

これは、考えてみるとけっこう危険な兆候です。
ブッシュ政権というリアリティに対して
9-11陰謀論という妄想で立ち向かっても
絶対に勝てないわけですから。
アメリカ国民の反ブッシュ感情という海に
9-11陰謀論の大河が流れ込み
汚染しはじめているのです。

ここまで観察してきて、ひとつ思いつきました。
長々と9-11陰謀論のことを、
悪趣味な嘘だ、支離滅裂ないいがかりだ、
無責任で恥知らずなコピペだ、とさんざんくさした後で
本当に恐縮なのですが、
すずきちも最後にひとつ陰謀説を提唱したいと思います。

“9-11陰謀論の流行”って、
反ブッシュ派を
“知ったかぶり陰謀論バカ”に貶めるための
ブッシュ政権とネオコンの
陰謀なんじゃないでしょうかね?

鈴木すずきちさんへ激励や感想などは、
メールの表題に「鈴木すずきちさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-09-13-WED

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