翻訳前のアメリカ。
そのあたりのこと、現地ではどんな感じ?

第六十七回配信 9-11陰謀論 その2


捏造記事は、どのぐらいのレベルなの?

その1では手始めにユナイテッド93便にまつわる
陰謀論を紹介しましたが、
この手のいい加減な川上情報は、枚挙に暇がありません。
“ペンタゴンに激突したのは旅客機ではない説”
に関連してトム・フロッコというジャーナリストが
自身のサイトで昨年こんな報道をしました。

「ペンタゴンに激突したとされる
 アメリカン77便の搭乗者、
 バーバラ・オルセンは実は生きていた。
 オーストリア=ポーランド国境で、
 偽イタリアリラ(Lyra)紙幣を所持していたことで
 逮捕されたのである」

バーバラはフォックスニュースやCNNで活躍していた
コメンテーター。ご主人は
元米訟務長官という有名人です。
真実ならば“旅客機じゃない説”の傍証になるはずだし
なによりも同じ飛行機に乗っていた他の乗客も
どこかで生存している可能性がでてくるという
重大情報です。
ところが記事掲載直後から、
他の9-11陰謀論者からすら批判が相次ぎました。

「オーストリアとポーランドは国境接してねーよ」 
「イタリアの通貨はユーロだよ、
 つーかリラはLyraじゃなくてLiraって書くんだよ」
「オルセンじゃなくてオルソンだろ」

・・・とズタズタに突っ込まれて捏造が決定です。
ところが、ちょっと直しただけで
この捏造記事自体は
今も掲載され続けています。
テロの犠牲になった方を地上に存在しない場所で、
しかも犯罪者として生き返らせるっていうだけで
非常に悪趣味な嘘です。
それを少し取り繕っただけで掲載し続けるのですから、
嘘つきなだけじゃなくて
大変恥知らずな行為だと思います。

個人だけでなく、陰謀論系サイトが
まるまる川上陰謀情報を
垂れ流していることもあります。
例えばRENSE.com。
サイトをみると、UFOとかの記事が多くて、
それだけ扱っててくれれば人畜無害なのですが、
問題はこの人たちが“ジャーナリスト”として
振舞ってしまうところです。

このサイトのライターの一人クリストファー・ボーリンは
ペンタゴンに残された航空機エンジンの残骸の写真を
製造元ロールスロイス社の広報の人にみせて、
「確かにここの工場で作られた部品ではありません」
てなコメントをとりました。
そこで"エンジン残骸を製造元が否定"
という記事を書いたのですが、
これついては
航空宇宙関係の科学者や技術者が運営している
Aerospaceweb.orgが詳細に検討していています。

非営利サイトAerospaceweb.orgによると、
このライターが取材した先は
ロールスロイス社のいくつかある工場のうちでも、
ボーイングのエンジンを製造しているところではなく、
グローバルホークのエンジンを製造している米国の工場。
グローバルホークというのは米軍の無人偵察機で、
“ボーイングのかわりにペンタゴンに突っ込んだのは
 これじゃないのか?”
と陰謀論者のみなさんがもちだした機種です。
ですから実はRENSE.comの取材のおかげで
陰謀説のひとつグローバルホーク説が消えたのですが、
正反対の内容の記事にしてしまっているわけです。

で、この取材をした同じボーリン記者は、
ホロコーストはなかった論者=ネオナチとして
ドイツで裁判にかけられたエルンスト・ツンデルの
支援記事を同じくRENSE.comにかいています。
エルンスト・ツンデルというのは、
昔流行した
“ナチス残党のUFO基地が地球の裏側にあって、
北極だか南極だかにその出入口ある!”
と言ってた人。
ネオナチ以前の問題で、
まあ、ただの、アレな人なわけです。
そのアレな人をRENSE.comは積極支援ですよ。
9-11陰謀論をネタに
ユダヤ人差別を広めようとする人たちの
想像を絶するへたれぶりが
よく分かる例だと思います。
ちなみにペンタゴンに残された
エンジンの残骸の写真についてもAerospaceweb.orgが
丁寧に検討していていて、
ボーイングのエンジンの
部品であることが特定されています。


なぜ、それを信じてしまうのだろう?

またWTCの倒壊についても陰謀論業界の人が
情報の川上でよくわからない陰謀論を述べています。
航空機が突っ込んでいないのに火災で倒壊した
WTC第7棟についてですが、
WTCのビルをリースしていた不動産業者、
ラリー・シルバースタインさんが
後日テレビのインタビューに答えて
こんなことを言いました。
「(9-11当日)消防署の司令から、
 消火できるかどうかわからない
 という電話があったのを
 覚えています。そのとき私は
 『既にこんなにも大変な人命の損失がありました。
 もっとも賢明な対策は引き上げること(pull it)
 かもしれませんね』といい、
 彼等は引き上げる決定をしました。
 それから私たちはビルが倒壊するのを見守ったんです」

これにジェレミー・ベイカーという陰謀論業界の人が
言いがかりをつけました。
“pull it”をビル解体業者は
“爆破解体する"って意味でつかっている!
シルバースタインは消火活動の“引き上げ”じゃなくて
ビルの爆破解体を指示したんだ!
・・・だそうです。

正直、すずきちにはこの言いがかりのポイントが
全くわかりません。
わかる人がいたら是非教えてください。
シルバースタインさんの部下もしくは
NYの消防署が
WTCに爆弾を仕掛けて
彼がそれを起動させたのが事実なら、
“9-11は不動産業者の陰謀だった!”のであって
アメリカ政府の陰謀ではなくなってしまいます。
そうなると、WTCはまだ分かるとしても、
不動産屋さんは何が気に入らなくて、
ユナイテッド93便をハイジャックさせたり、
ペンタゴンを
攻撃したりする必要があったのでしょうか?
また陰謀だったら全国放送される
テレビのインタビューで
そんなこと言わないと思います。
それ以前に消防署の司令にも
そんなことはいわないでしょう。

現在ジェレミー・ベイカー本人のサイトは
休止状態のようで、
彼の文章が公式に掲載されているのは、
serendipity.liという、
これまたエルンスト・ツンデルを応援しているサイトの、
9-11陰謀論コーナーです。
ベイカー本人はツンデル支援記事を
書いていないようですが、
結局、不動産業者がシルバーステインなんていう
端的にユダヤ系とわかる名前じゃなかったら
こんな支離滅裂ないいがかりをつけられることも
なかったんじゃないか?
というのがすずきちの率直な印象です。

意味不明な言いがかりは置いておくにしても、
“米政府はWTCに爆弾を仕掛けておいて
 倒壊させたんだ、
 だからあんなにきれいに倒壊したんだ”
というよく言われる説は
一瞬それらしい主張に聞こえます。
ただ、この主張をする人たちは
ジョーンズ教授も含めて、
あれだけのビルを倒壊させる量の爆薬を
こっそり仕掛けることが可能かどうかを
考えたことがないんじゃないでしょうか?

今までに爆破解体された世界最大のビルは、
シカゴにあったJ.L.ハドソン・デパート。
12人の作業員が24日間かけて、
ビル内の1100箇所に 2,728ポンド(1233Kg)の爆薬を
仕掛けたそうです。
発破ケーブルの総延長が36000ft.(10.9Km)。
これだけの手間をかけて破壊したのは、
地上33階、高さ439ft.(134m)、
床面積220万平方ft.のビルです。

WTCは地上110階、高さ1350ft.(411m)x2棟。
床面積は2棟あわせて860万平方ft.
大雑把にハドソン・デパートの3〜4倍の規模になります。
さらにWTC7棟も地上47階、高さ570ft.(174m)
床面積186.8万平方ft.ありました。
こちらは大雑把にデパートと大きさが同じくらいです。
WTCのタワーだけで
1日4万人が出入りしていたのですが、
いつ、どうやって、こっそり爆弾をしかけたんでしょう?
誰かこっそり教えてくれないでしょうか。

ちなみに
コントロールド・デモリション社(制御解体社)の
サイトでは、同社が手がけた
このデパート爆破解体の映像をみることができます。
かなりたくさんの箇所で爆薬が別々に、
下の階からどっかんどっかんいったあと、
かなり不細工に壊れていきます。
シンメトリカルにするすると崩れていく
WTC倒壊の映像とはだいぶ印象が違います。
これを見てみるだけでも、
“シンメトリカルに崩れるWTCの崩壊は、
 計画的な爆破解体以外にありえない”
という主張の無理がわかるとおもいます。

鈴木すずきちさんへ激励や感想などは、
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2006-09-12-TUE

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